あけましておめでとうございます!ポメラニ・アンパンです。今年も何卒よろしくです!!
昨年はコロナで振り回されました!でも、負けずに、マイペースに、生きていこうではありませんか。
僕たち人間は知恵がある、勇気がある、仲間がいる!!
そんなことを改めて思い起こさせてくれた天冥の標の第八章『天冥の標 Ⅷ ジャイアント・アーク』を読みながら、年を越しました!
この本を読んだきっかけ
シリーズ物だから読むのは当然なのですが、この第八章、ついに第一章の時間軸に戻ってきます。第一巻では石模様の怪物として登場したイサリも、第二章から順を追って第七章まで読め、なぜ彼女があのような姿になったのかは明白。その上で、第一章のその後の物語が展開されるのが、本作第八章です。
これまでの感想は以下をご覧ください。
あらすじ
天冥の標、第一章「メニー・メニー・シープ」と同じ時間軸で展開される第八章。前半はイサリの立場で第一章を俯瞰で見る感覚。後半からは、第七章から第八章まで300年間のブランクがあり、その間何が起きたのか、真相を探るべくカドム達がメニー・メニー・シープの遥か高みの空を上り、セレスの地表を目指す。
第七章にて小惑星セレスの地表から400m地下、ブラックチェンバー。太陽系から落ち延びた人々はそこで苦闘しながらも生きてゆく。いつしかそこは、「一時的な退避場所」から「これからの世界」となり、子を産み命を全うするようになった。拡張工事によって新たなる世界となったその場所は、そこに住む人々にとっては当たり前の日常が時を刻む場所となった。
サンドラ・クロッソが統治し、新しい世界を「メニー・メニー・シープ」と名付けた300年後・・・西暦2803年から物語は始まる。
イサリは目覚める。どのくらいの期間眠っていたのか彼女は当初わからなかった。目覚めてからも、<救世群>の皇帝となった自分の妹ミヒルが原種冥王斑をばらまき、感染していない非染者を狩っている事を知ったイサリはミヒルに異を唱える。イサリには、心が通じ合った非染者アイネイア・セアキとその仲間たちの思い出が残っている。「非染者とも分かり合える」と信じているイサリだが、皇帝となったミヒルと彼女の支配下の硬殻化どもの戦力は圧倒的で、とてもイサリだけでは対抗できない。
しかし、<救世群>も一枚岩ではなくミヒルの無差別な虐殺をよしとしない人々は、イサリに与する事を選ぶ。そのような人々の助けを借りて、イサリは非染者が生存していると思われる小惑星セレスの深部を目指す。非染者への使者として、必ずしも非染者を全滅させようとする者たちばかりではないという事を知らせるために。
イサリがたどり着いた先は、非染者達の街だった。人々が暮らす街を見て、イサリは思う。自分たちが望んで、憧れて、手に入らなかった光景が広がっている事に。複雑な思いを抱きつつ、通常の人々とは外見が大きく異なるイサリは、給水タンクに身を隠して休んだ。
しかしこれが間違いっだった。給水タンクの水を介して、冥王斑を広げてしまい、死者を出してしまう。これをきっかけにセアキ・カドム、「海の一統」の頭首アクリラ・アウレーリア達と繋がりを持つ。カドム・・・イサリにとって、非染者の中にも通じ合える人間がいるとわからせてくれたきっかけになる人間、アイネイア・セアキの面影を残す人物で、アイネイアの子孫だと確信できた人物。イサリは自分の軽率な行いのせいで冥王斑を広めてしまった事を悔い、またカドムの力になりたいと願う。
カドム達は「領主」に反抗していた。配電制限を強い、ロボットの操縦権限を持つ「領主」に抵抗する人々がおり、カドムもそこに所属している。イサリは気づく。ここに生きる住人達は、今住んでいる世界が小惑星内の人工的に造られた地下空間である事を知らない、と。
「領主」の軍勢に一時的に拘束された際、イサリはその尖兵として働かされていた「石工」と接触。彼女らを、元は自分たち救世群(プラクティス)の下で働いていた「休息者」だと気づいたイサリ。彼女らを介して現状を把握する。硬殻化も元は彼女らの技術にとって改造された体。「休息者」のように、種族同士の意思共有の力の一部が硬殻化のイサリにも宿っていた。この力により、イサリは他の人間達よりも詳しく、この世界の事情を理解できた。
「領主」は人々に圧政を強いるために配電制限を課しているのではない事を知るイサリ。しかし、人々にそれを伝える術もタイミングも与えられず、結局のところ「領主」の反抗勢力として参加していたカドムやアクリラは、「領主」を追い詰め、配電制限を解除させる。
「領主」は何のために大量の電気を必要としていたか。彼は防衛のために電力を割り振っていた。「救世群」の人々が凶暴化した戦闘状態である「咀嚼者」の襲撃から、この世界を守るために。
配電制限を解除した事で、防衛のため稼働させていたロボット達の動きが止まり、「咀嚼者」の本格的な侵攻が始まった。
「咀嚼者」の突然の侵攻と虐殺により人々は混乱に陥る。強力無比な前腕鉤を持ち飛来する彼らに対抗できる戦力は無く、多くの犠牲が出た。
その最中、カドムは襲来したミヒルによって致命傷の傷を負う。しかし、ラゴスの治療によって一命を取り留める。「咀嚼者」の襲撃をきっかけに、イサリは自分の知っている事を全てラゴス達に話した。ここは、ハーブCではなく、小惑星セレスの地下をくり抜いた空間に作られた世界であると。
イサリの話を受け、「恋人」のラゴスは思い出す。この地に住うようになって300年、眠らず稼働してきた「恋人」だが、300年前の記憶は薄まっており、どのようにして今の世界が成り立ったかを思い出せない。ラゴスは記憶を取り戻す事と、この世界の真相を知りたいと思い、空の上すなわち小惑星セレスの地表を目指す旅にカドムら誘う。
メンバーは厳選し、「恋人」のラゴス、マユキ、「海の一統」のオシアン、「最も普通の人間」カドム、空の上の事情を多少なりとも知っている「領主」ユレイン三世とその侍女メーヌ、そして「咀嚼者」や「休息者」を知り、戦闘力が高くカドムを思うイサリ。
ラゴスら一行はメニー・メニー・シープの世界の実態を知るための旅に向かう。一方、地表では「咀嚼者」に対抗するため、人々をまとめ組織的な対抗策を実践する大統領エランカ・キドゥルー率いる政府。
メニーメニー・シープに生きる人々は、種族を超え、立場を超え、生き残るための戦いを始めた。
この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)
雰囲気
過去を知る者、過去を知らない者、意思疎通の困難さ、取り返しのつかない事、改竄された世界、圧政を強いる者、圧政者に対抗する者、戦争、異形の化物、虐殺、ロボット、意思あるロボット、病原菌、異種属のコミュニケーション、対立、団結、冒険、探索、脅威、危険、真実
読みやすさ:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
天冥の標のキャストがほぼ出揃い、ここまで読んでいるのであれば難なく読める。
ワクワク度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ついに、天冥の標第一章の時間軸に戻ってくる。主要なキャストもほぼ出揃い、ここからどう話が展開していくかワクワク感が高まる。
ハラハラ度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
圧倒的な力を持つ存在との邂逅、未知なる場所の探索といったハラハラ要素は多いものの、味方陣営に硬殻化のイサリがいるだけで心強さが物凄い。
食欲増幅度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
アクリラに用意されるセナーセー伝統料理。こんがりのトースト、ハーブクリームであえたプリプリの小エビ、シュナップス、白身魚、マッシュポテトなどは美味しそう!
胸キュン:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
恋愛描写は少ないものの、イサリとカドム、ユレイン三世とメーヌなど、信頼し合うもの同士が心し合っている描写が良い。
ページをめくる加速度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
展開が早く、どんどん読める。
希望度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
イサリ、カドム、ラゴス、オシアン、そして敵対していたユレインらが、ワン・チームとなって冒険・探索をする後半は希望が持てる。
絶望度:3 ⭐️⭐️⭐️
「咀嚼者(フェロシアン)」襲撃時と混乱っぷりはかなりの絶望感があるが、人々の強さが絶望に打ち勝てそうな様相を呈す。
残酷度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
虐殺シーンは容赦無く「咀嚼者(フェロシアン)」に斬られ潰される。
恐怖度:3 ⭐️⭐️⭐️
恐怖感はそれほど感じない。
ためになる:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
純粋に楽しめる内容。
泣ける:2 ⭐️⭐️
泣けるシーンはそこまで無い。
読後感:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
事態は決着がつかぬまま次の章へ持ち越されるため、読後感は「次はどうなるんだろう」と期待しかない。
誰かに語りたい:2 ⭐️⭐️
天冥の標シリーズの終局に向かって、整理するような章だと思うので、ここまで読んだ人なら続きも読むだろうし、あえて第八章で語りたいところは無いかな。
なぞ度:2 ⭐️⭐️
気になる点はいくつかあった。
静謐度:1 ⭐️
目まぐるしい展開。メニー・メニー・シープに生きる存在全てが活発にアクションを起こし、しゃべるので、静謐になる暇がない
笑える度:2 ⭐️⭐️
笑えるというよりは、堅苦しくない。
切ない:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
自分だけが浦島太郎のように時を超えて眠っていたイサリの心情を察すると切ない。
エロス:1 ⭐️
あんまり無い。
データ
タイトル | 天冥の標 Ⅷ ジャイアント・アーク |
著者 | 小川一水 |
発行元 | 早川書房 |
コード | (PART 1)ISBN978-4-15-031159-9 (PART 2)ISBN978-4-15-031169-8 |
まとめ
ついに戻ってきた〜〜!!!メニー・メニー・シープ!そうです、天冥の標第一章の時間軸だった西暦2803、カドムやアクリラの時代に、第八章にしてようやく物語がここに辿り着いたわけです。
天冥の標のこれまでを思い返してみると、第一章で全く未知の惑星だか世界の「メニー・メニー・シープ」を舞台に、人やロボットや昆虫のような生物、石模様の怪物、ロボットなどごちゃ混ぜのSFストーリーから始まりました。そして第二章では全ての発端である冥王斑のパンデミック。第三章〜第五章までは、宇宙を舞台にした様々な人々の話を展開、第六章では虐げられた人々の暴発、第七章では限定空間での人の生き方と苦労を描かれました。
これまでに登場してきたあらゆる人物達とその子孫達が結集しているのがこの第八章なのではと思います。雰囲気としては終盤の山場一歩手前、RPGに例えると勇者が得るべき最後のヒントを得るために進むダンジョンを攻略する、といった感じです。
そんな第八章ですが、やはり石のフェオドールは良い味出してます!そして、イサリとカドムの関係も好きだな。アイネイアの面影を宿すカドムに惹かれるイサリ、カドムも医者の性分なのかアイネイアの血の影響なのか、相手がどんな存在でも分け隔てなく接し放って置けないので、イサリを気にかける、この関係性がたどたどしくも初々しい。
他にもユレインとメーヌの関係も良いですね。そんな第八章、出てくる登場人物の関係性が面白く、豊かに描かれていて、読んでいてとても楽しく「おお!そうなるのか!」と驚いた記憶が多かったです。
天冥の標シリーズは一度最後まで読んでいるはずなのに、次の第九章を読むのが非常に楽しみ!
気に入ったフレーズ・名言(抜粋)
そして三百年が経ったということは ー彼らも、すでにいない。
アイネイアとミゲラ。スカイシー3で旅をした仲間たち。タングリン市で服を売ってくれた店員と講演を聞いてくれた人。ささやかだが「救世群」に味方してくれた、非染者の人々。
彼らはきっと、死んでしまった。冷凍睡眠を手助けしてくれるカルミアンはいなかっただろうから。 それを思うと、今までの解放感とは打って変わって、置き去りにされた寂しさが身をしめつけた。
天冥の標 Ⅷ ジャイアント・アーク(PART 1) p.99
疲労した人間は風呂を使用するのが適当なようなので、提案しました
リリー
天冥の標 Ⅷ ジャイアント・アーク (PART 1) p.203
だから今だって、自分とごく親しい人間の身の心配だけをしながら、明日の食事を漁るような暮らしをしたって、ちっとも落ちぶれたことにはならないのだ。それが普通なのだ。もともと人間はその程度のものなのだ。
天冥の標 Ⅷ ジャイアント・アーク(PART 2) p.44
明るいからな。明かりって、ありがたいよ。
セアキ・カドム
天冥の標 Ⅷ ジャイアント・アーク(PART 2) p.215
喜べるときは、喜んでおこう。喜びごとの少ないときはなおさら
スッキトル
天冥の標 Ⅷ ジャイアント・アーク(PART 2) p.300
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