こんにちは。ポメラニ・アンパンです。9月に入って暑さも柔がず、台風も来るし相変わらず地球さんは容赦ねーな、と思いながら日々過ごしている今日この頃です。
安倍総理が退任し、事態がまた動きそうですね。世の中は時間と共に移ろい、変わってゆくもの。僕も、時の中にいて変わっていくのでしょうが自分では自分が成長しているのか衰退しているのか、あまりわからないものです。衰退はしたくないけどね。移ろいゆく日々でも、その瞬間はその時しか体験できない。そう思って一日を大事に生きていきたいんですが、なかなか常にそんな思考になれないのが悲しいところです。
さあ、今日は暑いとはいえ暦の上では秋。秋の夜長にうってつけの小川一水さんの天冥の標シリーズの第六章にあたる『天冥の標 Ⅵ 宿怨』の読書感想です。なんとこの章だけでPART1、PART2、PART3の3冊あるのです!!すべてがひっくり返る本作!読み応え抜群です!
この本を読んだきっかけ
天冥の標を5章まで読んでも話の全容は見えてきません。ならば読むしかないでしょう。
5章までの感想はこちら。
あらすじ
西暦2499年、「救世群」の少女イサリ・ヤヒロはあらゆる動植物の保全を行う人口宇宙群島スカイシー3を訪れていた。冥王斑は皮膚や涙の飛沫によって感染するが、その飛沫を小さな火花を出して拡散する前に自動で焼く機械=タレットを身につけ、イサリはスカイシー3を歩いている。それ以外の防護措置は身につけていなかった。
彼女が一人見知らぬ場所を歩く理由は、リンゴを食べてみたかったから。「救世群」本拠地のエウレカからのシャトルの中で、スカイシー3にリンゴがある事を偶然知ったのだ。いてもたってもいられなくなった彼女は、夜に寝床を抜け出しリンゴを目指すも、広大なスカイシー3の吹雪のエリアで行き倒れる。意識が遠のきそうになった時、一人の少年と一体のロボットに助けられた。
少年は少し年上のアイネイア・セアキ。少年の相棒ロボットはフェオドールといった。彼らは非染者にも関わらず、何かとイサリに親切に接してくれた。焚き火で料理を作ってくれたり、イサリを危機から守ってくれたり。道中、アイネイアの仲間とも合流した。アイネイアはスカウトの一員のようで、スカイシー3には仲間と共にトレッキングに来ている。コムギアなどの先端機械はなるべく使用せず、知恵と知識でもって自分たちの手足を使い、仲間と協力して困難を乗り越えて指定のエリアを踏破するのが目的だという。スカウトとは古来ボーイスカウトの精神を受け継ぐ集団だ。
そんな彼らの無償の親切と支援を受け、イサリは無事にリンゴを食べることもできた。道中スカウトの一団をオオカミが襲うという危機に瀕しながらも彼らはイサリを守り仲間を守り、無事それぞれの家に帰り着く事ができたのだ。イサリのこの体験が後に大きな影響を及ぼす。
イサリは現救世群議長、モウサ・ヤヒロの長女である。彼女の兄はオガシ・ヤヒロ、妹にミヒル・ヤヒロがいる。救世群は代々女性を議長とする事が習わしになっており、順当にいけばイサリかミヒルが次代の救世群議長となる。そんな立場のイサリは、救世群副議長のロサリオ・エル・ミシェル・クルメーロに先のスカイシー3における無謀な行動について叱責を受ける。イサリの無謀な行動は危うく非染者に冥王斑感染をもたらし、さらにはスカイシー3内部にパンデミックを引き起こすリスクもあった。結果だけ見ると誰も感染しておらず検査の結果陰性だった。それはイサリが防疫を適切にやったのではなく、スカウトの一団が冥王斑感染を回避する完璧な措置を講じたのだ、と。しかも、イサリにはそれを悟らせないほどの手際で。ロサリオは言う。こんな事は善意からくる精神を持っていないとできない。イサリ、あなたは過去に例を見ないほど最高の扱いを非染者から受けたのです、と。こんな事実は我々の思想上認めるわけにはいかず、あなたもこの事は誰にも言わないようにと念を押される。この後からイサリは救世群の立場と、親切な非染者の集団との出来事とで悩むようになる。
救世群はそれまで常に弱い立場を強いられてきた。冥王斑の患者用隔離施設から始まり、孤島、月面、そしてエウレカと追われるようにして生き延びてきた患者群だ。生まれながらにして救世群の者もいれば、人生の半ばで冥王斑に感染し、救世群の一員になった者もいる。救世群となった者は例外無くエウレカでの暮らしに入ることになる。そのため、小規模な天体エウレカに20万人ほどが肩を寄せ合って狭い中を生きていた。そんな彼らの鬱屈は次第に非染者への憎悪へと変わりつつあった。
体を強化する特殊技術=硬殻化。救世群の何名かは硬殻化により身体能力を飛躍的に増大させた。これにより体躯は2m近くなり、体全体は甲殻類の殻のように硬くなる。さらに強力な前腕鉤で大抵のものを切り裂く事ができる。極め付けは宇宙空間でも生身で生存できる事。硬殻化した戦士は、恋人たちがあれほど苦戦したMHDの倫理兵器『純血』、『遵法』をもいとも簡単に始末できる戦闘力を有する。
一方オガシ・ヤヒロ、ミヒル・ヤヒロ、「酸素いらず」、「恋人たち」の連合軍でドロテア・ワットからクトコトの奪取に成功した。クトコトとは冥王斑を地球に持ち込んだ六本足の猿で、地球外からもたらされた事が判明していた。クトコトには、冥王斑がパンデミックした頃と変わらない致死率90%の原種冥王斑ウイルスを体内に持っている。ワクチンを持つ救世群にとって、これは非染者へ示すことのできる大きな力、すなわち核兵器に近い意味合いを持つ。これをその気になればいつでもどこでも使用する事ができる、と示す事で自分たちの立場を少しでも良くしようとするのが目的だと救世群連絡会議上層部は考えていた。硬殻化と冥王斑原種ウイルス・・・この身の丈に余る力を得た救世群は非染者たちへの反抗の機運が高まり始めた。この機運の中で、一人疑問に思うイサリ。非染者の中にも自分に対し分け隔てなく接してくれたスカウトの面々を思い浮かべ、本音では非染者と仲良くしたいと思いつつ、他の仲間たちの間では言えないイサリ。そんなイサリの心を推し量る者は「恋人たち」の一部の者たちだけだった。
しかしそんなイサリの心情とは対照的な妹ミヒル。彼女は幼き日、冥王斑の苦しみを体験した。通常、親から遺伝されて保菌者となる生まれながらにして冥王斑だった者は、冥王斑の病状を体験する事はほぼない。しかし、ミヒルは冥王斑の地獄の苦しみを体験し回復した。その自負が、彼女の中で、「救世群」に代々と語り継がれる聖祖チカヤ(第二章に登場した檜沢千茅)を重ねていた。チカヤがどう考えたか、どんな思いをしたか、どんなに悔しかったか、などを想像し、非染者に対する憎しみを増幅させていたのだ。この時誰も彼女の心を汲み取っていない事が、後の悲劇を呼ぶ。
事態はどんどんのっぴきならない方向に動いてゆく。「救世群」の硬殻化に代表される急激な科学技術力向上の背景には、実は星外知的生命体の後押しがあった。その名は「カルミアン」。昆虫のような複眼、3本の角を持ち、大きさは人間の半分ほど。個体ではそれほど知能は高くないが、彼女らは群れを作り他の個体と意識を共有する事で様々な知能を集約する。生態としては女王が存在し、さらに上には総女王が統治する。女王以下でも地位ある者は姉妹たちと膨大な情報を共有し、その科学力は地球の文明レベルを雄に超えていた。そんな彼らが太陽系の人類に接触する足がかりにしたのは「恋人たち」だったのだ。
カルミアン達が太陽系に接近した理由は、オムニフロラの侵攻を回避するため。彼女らカルミアンの総女王は、オムニフロラは超新星爆発を避けて侵攻している事を突き止めていた。さらに、超新星爆発でなくても、その兆候がある赤色矮星も避ける傾向があると。こうした事から、自分達の領域をオムニフロラから守るため、付近の恒星を赤色矮星に変化させる手段を講じた。人類が生きる太陽系もこうして彼らの目的の一つに選ばれたのだ。
「恋人たち」に接触したカルミアンは、持ち前の科学力でハニカムを改造し移動できるようにした。これを受け、ハニカムを救世群の居住する小惑星エウレカ付近に移動した。少し前から救世群と恋人たちは交流があったが、互いの距離は決して近くはなかった。そこへ、互いが近づく事で、より濃密な関係になったのだ。「恋人たち」は人間に聖愛を持って奉仕する事でアイデンティティを保てる存在。一方「救世群」は生身では同じ冥王斑を持つ人間以外とは決して触れることができない者たち。さらに、人口の増加制限をかけている彼らの性に対する意識は極めて厳格だ。狭い場所で肩を寄せ合って他人と生きる「救世群」にとって、公にできない性癖などの願望をかなえてくれる「恋人たち」は格好の存在だった。彼らの利害が一致し、人間である「救世群」が主、「恋人たち」が従の関係がほぼ出来上がっていた。
外部から見れば、「救世群」が急速に力をつけたのは「恋人たち」の支援と議長モウサ・ヤヒロと副議長ロサリオとの関係がうまく行っている事と思われたいた。また硬殻化は「恋人たち」の創造主ウルヴァーノの遺産だと思われていた(カルミアンの存在はヤヒロ家とロサリオなど上層部の一部の者しか知らなかった)
カルミアンにとっては地球圏の物理戦力は高く、協力した方が目的達成のための近道だと結論づけた事から、このような行動に及んだ。オガシ・ヤヒロに硬殻化した体をプレゼントする事も、あくまで彼女らの目的達成のためのただのステップに過ぎなかった。
救世群側はロサリオが中心となり恐ろしい計画を立案する。クトコトから採取した致死率90%を超える元首冥王斑を太陽系中に撒くための計画だ。太陽系中に流通している食べ物に仕込み、行き渡らせ、とあるきっかけで発病するよう巧妙な仕組みを考案した。こうして名実ともに強力な体と武器を手に入れた救世群はついに非染者(冥王斑にかかっていない人類)に宣戦布告する。
救世群の群には、戦闘のプロ集団もその数に入っていた。元「酸素いらず」にして冥王斑回復者の一団だ。ジグムント・ジンデルを筆頭とする麾下500名が救世群に合流していた。「酸素いらず」にしても冥王斑は回復しても保菌し続ける。これにより「酸素いらず」の社会から永久隔離された彼らは、500名で離脱し救世群の住むエウレカに漂着したのだ。
救世群の軍=ブラス・ウォッチには硬殻化した兵士達、ジグムントの実戦経験と立案力、カルミアンの強力な高速宇宙船と電子戦戦力とで、非染者側のロイズ艦隊を打ち破っていく。戦いは救世群に圧倒的に有利に運んだ。次々と占領される軌道エレベーター。地球人にはもはや彼らの進行を防ぐ手立てはないかのように見られた。
オガシ達ブラス・ウォッチとロイズの軍が戦っている裏で、別の戦いがあった。舞台はセレスの地下都市ヒエロン。そこに、救世群の巫議ノルベール・シュタンドーレが足の不自由な妻エフェーミアを伴って着任した。占領した街を統治する代官として救世群より派遣された男だ。対応するのは商務大臣ブレイド・バンディ。シュタンドーレももちろん硬殻化だ。気分を損ねたら容赦無くズタズタにされる、実際にその場にいたブレイドは硬殻化の膂力に戦慄を覚えつつ街を案内した。帰宅すると昔から付き合いがあるテルッセン家の女の子、メララ・テルッセンが訪れており、大切な話があるから聞いて欲しいとのこと。
メララが語ったのは、羊を通して伝えてきたノルルスカインとミスチフの長い関係と、それにまつわる太陽系の話。結局のところ、ロイズも救世群もミスチフ、ひいてはオムニフロラの策謀に引っ掻き回された存在である事を知ったブレイド。彼は決意する。難しい相手と話し合いによって道標を作る事を。
翌日ブレイドはシュタンドーレの邸宅の隣に自分の一家を住まわせてくれと懇願する。共に隣人として関係を深めて共存する事でしか互いに良い未来はないと言うも、向こうは支配者である故に「はい、そうです」と言ってはくれない。ブレイドは冥王斑に感染する事を覚悟し、命をかけて誠実さを示す。
そして辛い食事を共にする日が続く。シュタンドーレが住う館の隣を改装し、ヴァンディ一家は移住し、昼食に連絡を兼ねて食事を共にする時間をあえて作った。ブレイドは妻アリカと娘としてメララを伴って訪う。対するはシュタンドーレとエフェーミア。誰も喜ばず、誰も楽しまず、重たい空気と雰囲気の中で食事をする。そんなブレイドの努力は時をかけて効いていた。ブレイドにしかわからないシュタンドーレの表情の機微など、時間をかけて対峙する事でわかってくるものがある。ブレイドに至っては、同じヒエロンの住人らから救世群にへつらう売国奴だなどと罵られ、襲撃される有様だった。
それでも屈せず粘り強くシュタンドーレとコンタクトを続けるブレイド。その甲斐あってついに事態が動く。シュタンドーレからブレイドに呼び出しが来た。場所はいつもの館ではなく、シュタンドーレの艦の一室。そこでは監視もなく、腹を割って話をすることになった。苦悶の表情で吐露されるシュタンドーレの胸の内。事態はなんとか打開できるかもしれない。そんな希望が灯りかけた。
しかし、突如動き出したドロテア・ワットが状況を一変させる。
救世群首脳陣の離脱に伴い状況は雪崩を打つように悪い方向に滑り落ちてゆく・・・。
ヤヒロ家のオガシ、イサリ、ミヒルの顛末。
アイネイアとその仲間たちの行末。
「酸素いらず」たち、その他大勢のメインベルトに生きる人々は・・・。
かつてない静寂が訪れた。
この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)
雰囲気
ボーイミーツガール、スカウト、政治、社会、住環境、遺跡、異性生命体、体型変化、暴走、コミュニケーション、誤解、機械戦艦、ロボット、恒星間宇宙船、ウイルス拡散、政治交渉、対話、恨み、抑圧、友情、絆
天冥の標、中盤におけるクライマックス。二章〜五章までで登場した全ての要素がここに集約される。
読みやすさ:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ここまで読んできたなら何も心配しなくて良い。
ワクワク度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
作中時間で西暦2015年、冥王斑がパンデミックして以来、あらゆる要素が集結。第一章で異形の怪物として知られたイサリ。本作第六章で、救世群の少女イサリがついに登場。セアキ、アウレーリア、ラゴズ、ノルルスカイン・・・。今まで見たことのあるキーワードもどんどん出てきて点と点が繋がっていく感覚は物凄くワクワクする。
ハラハラ度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
短期間で強力な力を手にした救世群。非染者に対する憎しみと復讐心が根深い彼らの行末と言動が不安を掻き立てる。
食欲増幅度:2 ⭐️⭐️
リンゴはいつの時代も美味しそう。
胸キュン:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
アイネイアとイサリの関係を思うと、もうこの展開って胸キュンというよりも、切なすぎて痛い。
ページをめくる加速度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
本作第六章はPart1〜Part3まで止まらない。止められない。
希望度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
アイネイアとイサリ、シュタンドーレとブレイドといった救世群と非染者との間で互いに通じ合える部分がある描写は希望を感じさせる。
絶望度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
コミュニケーションの不全、価値観の違い、気持ちの汲み取り方、あらゆる要素が捻れて悪い方向に転がってしまうのは絶望以外何物でもない。
残酷度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
硬殻化したことにより、一方的に見えるような暴虐な描写がある。血飛沫が翔ぶ。
恐怖度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
抑えの効かなくなった力ほど恐ろしいものはない。
ためになる:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
人の恨みは根深い。ましてや、500年もずっと他の社会から隔離されていたらこうもなるだろうな、と思ってしまった。
泣ける:3 ⭐️⭐️⭐️
メララの「さようなら、みんな」のシーンはウルッときた。
読後感:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
「ええ?!この後どうなってしまうの?!」と思った。オムニフロラの侵攻を食い止める以前に、もうどうすんのよ、これ・・・。
誰かに語りたい:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
読んだ人と語りたい。救世群のような立場だったらどうする?とか、そんな人たちと一緒に住めるかどうか自問自答しながら読んだ。逆に自分が、ロイズ側の人間だったらどうするか、など立場が異なる人物が多く出てくるので、それぞれの立場だったらと考えるだけでも発見はある。
なぞ度:1 ⭐️
今までの章で語られていなかった伏線が回収され、謎はほとんど無い。
静謐度:2 ⭐️⭐️
作品から漂う静謐さは、不穏な静けさ。
笑える度:3 ⭐️⭐️⭐️
冒頭のイサリとアイネイアのやり取りは笑える、と言うより微笑ましい。無垢なる二人の少年と少女のやり取りは本作ではとても貴重。
切ない:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
別れが多すぎる。なんてこった。
エロス:3 ⭐️⭐️⭐️
艶かしい硬殻化の女が迫るシーン。エロく、バイオレンス。
データ
タイトル | 天冥の標 Ⅵ 宿怨 |
著者 | 小川一水 |
発行元 | 早川書房 |
コード | (PART1)ISBN978-4-15-031067-7 (PART2)ISBN978-4-15-031080-6 (PART3)ISBN978-4-15-031094-3 |
まとめ
天冥の標、第六章読了しました。いや〜、今回はさらに夢中になってあっという間に1,200ページ強読んでしまいました。これまでは第二章以降、各章1冊ずつ刊行されていたのが、ここに来ていきなりPART1、PART2、PART3の3冊ですからね!大ボリュームです。本作だけで映画3本作れそうな程濃密な内容です。
ついにイサリが登場し、その家族も出てきました。第3章で登場したグレア・アイザワ以降スポットが当たっていなかった救世群。今回は彼らのターン。もう、まさに救世群のターンでしたね・・・良くも悪くも。
たまたま冥王斑に感染し、隔離され、虐げられた人々。その血脈を代々受け継ぎ、500年。一度かかると例え回復しても保菌能力は落ちないため、一生保菌者として生きなければならない宿命。これには、ジグムントやロサリオのように、元々は病気ではなく健康だった人が冥王斑にかかり、人生の途中で救世群になった人も含まれます。
そこに、急に分不相応と言えるほど強大な力を得たらどうなるか。そして、元々救世群の事を快く思っていない人々はどうするか。
物語は政治的・物理的に衝突が起き、人々は傷つき倒れていきます。救世群、「酸素いらず」、「恋人たち」、MHDのロボット兵器、ドロテア・ワット、「医師団」などあらゆる人々が戦いに巻き込まれます。
個人的には、全員が硬殻化した経緯がすんなり行き過ぎているような気もしました。だって自分の体を変える手術をする、しかも得体の知れない異性生命体に任せるんですから。躊躇というか、反発もあったでしょう。しかし、翻って考えると自分の体が異形のように変える事をしてでも力が欲しかった、と捉えることもできます。(なんせ宇宙空間でも生きれるし、体躯は大きくなり、肉体の強度は跳ね上がるし、ロイズの倫理兵器を粉砕できるほど強くなるんですから!)
現実的に考えると硬殻化しなくても救世群はいずれ反抗を計画したと思います。しかし、そこはSF。硬殻化することによって一気に救世群の立場を弱者から強者に変えてしまいました。これが説得力ある立場の変換なんですから脱帽ものです。凄い!
他に個人的に印象に残ったのは、ブレイド・バンディとシュタンドーレのやり取り。あの緊迫感溢れるコミュニケーション、一歩間違えれば死ぬ状況で食事をするという狂気の沙汰。ブレイドの決意が現れた行為としてあれほど強烈なのはないですね。あの章のサブタイトルが「天冥の標」というのが、痺れました!
気に入ったフレーズ・名言(抜粋)
私たちスカウトは善と理と公に仕え、人を助け、仲間たちと賢く生き抜くために、これらの糧を口にします。感謝いたします
セレス・シティ・スカウト第十一班ストリックス隊
天冥の標 Ⅵ 宿怨 PART1 p.54
セレス・シティ・スカウト第十一隊ストリックス班!アイネイア・セアキ、ジョージ・ヴァンディ、ユレイン・ウェルフロイ、グロッサ・ランバート、ミゲラ・マーガス、サンドラ・クロッソ、ナシュリンガ・エン・ケン・ラウンツィユリー、サブリーダー、ベル・フレーメ、リーダー、ハン・ロウイー、以上九名!レディ・ヤヒロのお世話をさせていただき、光栄でした!祝声ッ!
セレス・シティ・スカウト第十一班ストリックス隊
天冥の標 Ⅵ 宿怨 PART1 p.100
冥王斑回復者というのは医学的な見地からの呼称にすぎない。ひとりの人間を表すのにそのひとことで全部説明できるように思われたら、当人は悲しいし腹を立てるよ。ましてや健常者であることが無条件で素晴らしく、そこから施しをするかのような言い方をされたら。今あたしが感じているのはまさにそういう気持ちだ。
エレオノーラ
天冥の標 Ⅵ 宿怨 PART1 p.115
名を残すために必要なのはいつだって力と火、そして死だ。逃亡なんかであるものか。僕はこれで、こいつらで、主神代理ケブネカイセの御心を表してやるのだ
ジグムント・ヘンゼル・ジンデル
天冥の標 Ⅵ 宿怨 PART1 p.265
そうだよ……!あたし、恨みってわからない。恨みって、なに?なんで人間は恨むの?恨むなら非染者より病気を恨むのが筋だし、けれど病気って勝手に起きて勝手に暴れるもので。結局、何をどうして恨むのかわからなくなる
イサリ・ヤヒロ
天冥の標 Ⅵ 宿怨 PART1 p.338
元気よ。ずっと病気だけど。
イサリ・ヤヒロ
天冥の標 Ⅵ 宿怨 PART2 p.188
非染者、冥王斑にかからなかった人間と俺たちは戦っている。非染者というのは偶然の産物だ。ただまったく、ほんの少し運がよかったために冥王班にかからなかった者だ。親兄弟と引き裂かれず、友に見放されず、国に切り捨てられたことのない者たちのことだ。それらはみんな敵だ。地球人だろうが宇宙の人間だろうが同じことだ!
オガシ・ヤヒロ
天冥の標 Ⅵ 宿怨 PART2 p.282
彼女の口調ほど自然に聞かされたことは、絶えてなかった。願わしかったよ、あれこそわれわれの望むものだ。救世群を成員として含む人類文明、人類文明から相応の役割を割り振られた救世群…
ノルベール・シュタンドーレ
天冥の標 Ⅵ 宿怨 PART3 p.190
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