こんにちは。ポメラニ・アンパンです。6月もあっという間に後半。皆様いかがお過ごしでしょうか?僕も寒暖差にやられないようなんとか生きております。
コロナウイルスも少し落ち着いてきたのでしょうか。少しずつ経済を回そうという動きが出てきております。一方で外国ではまた振り返している感もあります。まあ、上手く付き合っていくしかないんでしょうね。
さて、今回読書感想で紹介するのは前回に引き続き『天冥の標』です。第三章にあたる『天冥の標Ⅲ アウレーリア一統』をどうぞ!


この本を読んだきっかけ
『天冥の標』シリーズ。第一章、第二章ときて本作第三章を読むのに理由が必要か?否!ただ読むのみ!いくぜ〜!
第一章『天冥の標Ⅰ メニー・メニー・シープ』の感想はこちら↓
第二章『天冥の標Ⅱ 救世群』の感想はこちら↓
あらすじ
西暦2310年、人類は宇宙進出を果たしその生活圏を拡大させていた。火星と木星の間に位置する小惑星には様々な人々が進出し、生活基盤を築いていた。
小惑星セナーセー、ノイジーラント大主教国に本拠を構える「酸素いらず」達。彼らは自らの身体を改造し、体内に大量の電気を蓄えることができる。そうして溜めた電気で二酸化炭素を分解するので酸素呼吸を必要としなくなった。
「酸素いらず」はその特徴を最大限に生かし、宇宙空間での船外活動や治安維持活動など、活躍の場を広げていた。元来フロンティア気質を持つ彼らは、艦隊で太陽系を所狭しと駆けていた。
アダムス・アウレーリアは戦艦エスレルの艦長だ。彼は乗組員からも、臣民からも尊崇される稀有な存在だ。何よりもその容姿が物語る、少女のように白く細い四肢を持ち、流れるような長く透き通るプラチナブロンドの髪を揺らし、キルトスカートをはためかせる姿は、その少女性を大いに振りまく。一方で、好奇心旺盛で力強く果断な行動はいかにも「酸素いらず」らしい伝統を体現する男性性をも併せ持つ少年、それがアダムスだ。
アダムス達エスレル艦隊に、救助と調査の任務が降る。現場は小惑星エウレカ。そこは、「救世群」達が住んでいた。300年前に発生した冥王斑という伝染病は子供にも垂直感染する。つまり冥王斑患者の子孫は生まれた時から感染能を持つ保菌者なのだ。そんな人々は冥王斑に感染していない人と共に暮らすことはできず、人知れず辺鄙な星であるエウレカでひっそりと暮らしていたのだ。
「救世群」のリーダー格の女、グレア・アイザワとその側近クルメーロに目通りしたアダムス。海賊の襲撃による被害について質問したところ、盗まれたのは伝説の遺跡『ドロテア』に関するレポート=ドロテア・レポートだというのだ。
『ドロテア』とは遥か昔から木星大赤斑の上空に浮遊し存在する全長8キロの巨大遺跡。誰が何のために作ったか分からないが、膨大なエネルギーを蓄えているらしい。30年前、ドロテア・カルマハラップ少将が調査した事で、遺跡はドロテア・ワットと呼ばれている。なお、ドロテア・ワットはカルマハラップ少将が調査した時点で操作方法を発見しており、彼女によって木星軌道を離脱し現在は行方不明。
アダムス一行は、盗まれたドロテア・レポートを取り戻すためエウレカを襲った海賊を追跡する事になる。その途上でセアキ・ジュノなる男と彼のコムギア(腕時計のようなガジェット)中に存在するAIフェオドールがエスレルに同乗した。彼は「日本特定患者群連絡医師団」で、「救世群」の保護・支援を行う組織の一員である。
セアキは、グレア達「救世群」が、ドロテア・レポートを入手したのは、『力』を欲しているためだ、と言う。抑圧された人々が力を欲するのは理解はできるが、兵器を扱うには素人同然の「救世群」。セアキは、「救世群」が背丈に合わない力を手に入れることで暴走してしまうのを危惧していた。もし、アダムス達が運よくドロテア・レポートを入手した場合、「救世群」に返す前に、本当にそうするべきか検討したいと言う。
海賊を追うアダムス達「酸素いらず」達・・・
「救世群」の暴走を止めたいセアキ・・・
力を手に入れたいグレア率いる「救世群」・・・
ドロテアを狙う海賊エルゴゾーン・・・
そして、フェオドールだけが存在を認識していた真に厄介な存在・・・。
広い宇宙で数多の力が、意思が交錯する。
この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)
雰囲気
前進、爽快、救助、共同戦線、宇宙開拓、明るい、驚愕、冒険、海賊討伐、正義、弱者、大いなる存在・・・。
前作『救世群』から300年後を描いており、全く違うテイストを放つ本作。第一章『メニー・メニー・シープ』に登場した「海の一統」の先祖にあたる「酸素いらず」の活躍がメイン。人がある程度宇宙での生活に馴染んでおり、小惑星間を航行する艦隊や艦隊の動きを把握するシステム等がある時代。
「酸素いらず」のカリスマ的存在、アダムスを中心に「医師団」のセアキ、「救世群」、海賊、「ロイズ非分極保険社団」など複数の勢力が交錯する壮大なドラマである。
読みやすさ:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
前作に比べ、かなり本格的なSFテイストが盛り込まれているので、SF慣れしていない場合はちょっと抵抗があるかも知れない。『強襲砲艦』、『小惑星国家』、『軌道エレベータ』などのSF用語に、『小惑星セレス』、『エウレカ』など実在する用語も盛り込まれている。
最初は戸惑うかも知れないが、気にせず読み進めていけばストーリーを楽しむには些末なことなので、問題ない。気になればGoogleで調べれば良い。
ワクワク度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ようやく心置きなくワクワクできるのがこの第三章。力強く、前向きな「酸素いらず」達。さらにそれを率いる美しくも果断な少年アダムスを思うだけで胸が躍る。彼らを軸に、物語は「医師団」のセアキ、「救世群」、「海賊エルゴゾーン」、「ロイズ非分極保険社団」といった様々な勢力が絡んでくる。
ハラハラ度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
謎の遺跡ドロテア・ワットの存在、海賊の存在と頭目の噂、「救世群」の動向、不穏な空気を纏うグレアの存在・・・。アダムス一行が輝く炎だとしたら、黒い煙のような不穏な存在がいくつも渦巻いているイメージ。
罠にかかってしまうアダムス達のシーンは、終始ハラハラした。
食欲増幅度:3 ⭐️⭐️⭐️
セアキが頬張っているパン、デザートは美味しそうだった。
冒険度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
遺跡、ドロテア・ワット。二重の円形都市で内郭と外郭が存在する。6本足の猿、クトコトが多数存在し、建物には模様やツタが巻きついている。このような巨大遺跡の謎を探る事は冒険と呼んで差し支えないだろう。
胸キュン:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
「酸素いらず」の恋愛感はかなりオープン。同性愛も普通だ。アダムスと彼の部下であるミクマックは、上官と部下という関係に加えて恋人同士。また、アマーリエとジニもまた、女性同士だが恋人同士。
ミクマックとの関係が唐突に無くなった後の、アダムスのがむしゃらな働きようが、彼の胸の内を表すようで切なかった。
血湧き肉躍る:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
冒頭の輸送船を襲った海賊を討伐するシーン、襲撃を受けるシーン、エスレル乗組員を鼓舞するアダムス、イシスのメッセージに怒りを露わにするアダムス、「救世群」との緊張感あるやりとり、海賊を追い詰めたと思ったら罠にハマるシーン・・・。
見所は多すぎて終始血湧き肉躍りながら読みました。
希望度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
アダムス・アウレーリアはじめ本編主軸の登場人物が皆真っ直ぐな奴らなのが良い。実際アダムスはかなり大失態をやらかしている。くじけたところでもフォローする仲間がおり、叱責された上で立ち直るアダムスなど、読んでいる側も勇気づけられる場面が多々あった。
絶望度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
前作『救世群』で猛威を振るった冥王斑。300年経過してかなり鳴りを潜めたとはいえ、撲滅には至っていない。それゆえ「救世群」は自らの血でワクチンを作り、他の社会と取引をする事でなんとか独自コミュニティを保っている。一方、「救世群」以外の組織は彼らを押さえ込むのが難しい状況。そんな危うい関係が続く中、海賊の出現、膨大な力を貯めるドロテア・ワットの存在が状況を動かす。
「救世群」の立場で見ると、『不本意にも冥王斑に感染→周囲から隔離される(太平洋の孤島→月面→エウレカと居場所を変えざるを得なかった)→生きるために自らの血を売る』、という立場に追い込まれている。また、親が冥王斑保菌者の場合は、生まれた瞬間「救世群」として歩まなければならないという現実に直面する。そんな中、『なぜ私たちだけがこのような境遇に・・・。』『力があれば状況を変えられる』と思うのは至極当然かもしれない。
希望を見出せる勢力が多い中、「救世群」だけが絶望から脱却しきれていないのだ。
残酷度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
直接的な残酷な表現は少ないが、BC兵器で攻撃されたり、街を核による攻撃で吹き飛ばされたりするシーンはある。
恐怖度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ドロテア・ワットにて遭遇する、ヘルメットの中が白濁した存在。無機質な返答を行うそれは、何者かが操っているのか。未知への恐怖と、ありえない存在への恐怖を感じさせる。
ためになる:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
伝染病で隔離された人々「救世群」。300年経過して状況は良くなるどころか、むしろ悪くなっているように思える。人と人の隔たりとは、決定的な解決を試みない限りその差は縮まらない事がわかる。
泣ける:3 ⭐️⭐️⭐️
泣ける、とは少し違う妙な思いが沸き起こったシーンがある。終盤のセアキの掌返しに『は?こいつマジか?!』ここはアダムスと同じ思いに至った。そして、その後もう一度アダムスに会いに来るセアキに、怒りと呆れとずるい奴だ、という思いと少しの『良かった』が加わる・・・。涙を出すほどではないが、こんな思いが渦巻いた。
ハッピーエンド:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
アダムスとセアキ、二人の関係が最終的には読者をちょっと安心させてくれる。「救世群」の扱いも、かなり厳しいものになったが最悪の状況だけはかろうじて阻止できた感じ。
しかし、太古より対決の兆しを見せているダダーのノルルスカインとミスチフは、今後さらに入り組んだものと予想され、次の章以降の展開も全く予想がつかず、読むのを楽しみにさせてくれる。
誰かに語りたい:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
読んだ人はぜひ、語ろう。Twitterにでもここのコメント欄でも何でもいいので語りたい。
なぞ度:3 ⭐️⭐️⭐️
最大の謎だったドロテア・ワットは、太古より存在する非展開体ミスチフによって作られたらしい。同じく非展開体のノルルスカインはミスチフの動向を探っていたのだ。
読み進めていくうちに、謎だった伏線は回収されていく。
静謐度:1 ⭐️
本作はとても賑やか!
笑える度:3 ⭐️⭐️⭐️
ちょっとした会話、「酸素いらず」同士の何気ない会話やセアキとアダムスの会話、カヨやフェオドールの会話にも、クスリと笑えるところがある。
切ない:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
セアキのコムギアに宿っていたフェオドールが、ノルルスカインの最も強力なストリーム(自分の分身)という事が判明する本作。実は、前作『救世群』後半で、フェオドール・ダッシュとしてすでに矢来華菜子の側にいた存在。以後、矢来華菜子の子孫に代々伝えられ、本作のセアキの相棒として存在していたフェオドール。
ドロテアにてミスチフの存在に気づいたノルルスカインは、フェオドールの存在を通じてミスチフと決死の電子戦を行い、ミスチフを無力化することに成功。その代償として、フェオドールを通じてセアキとコミュニケーションできなくなった。
ロボットのボディにセアキが言う『ああ、やっぱりここにもいないんだな・・・・・・』が妙に切なかった。
エロス:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
男性同士の・・・そんなシーンがある。
データ
タイトル | 天冥の標 Ⅲ アウレーリア一統 |
著者 | 小川一水 |
発行元 | 早川書房 |
コード | ISBN978-4-15-031003-5 |
まとめ
さあ、本作は天冥の標シリーズで一番勇猛果敢で気持ちの良い奴ら「酸素いらず」達の活躍にクローズアップされた第三章であります。前作がガチのパンデミックものだったのに対し、本作はいきなり宇宙艦隊戦などが展開される内容となっており、かなりSF色が強く、僕的には大好物でした!
第一章『メニー・メニー・シープ』で登場したアクリラ・アウレーリアの祖先にあたるアダムス・アウレーリア。キルトスカート、少女のような美しい風貌といい、もう・・・そっくりですよね!その他にも、セアキ、カヨ、ドロテア・・・といった第一章に登場したワードが少しずつ登場してきており、一連の作品の繋がりが少しずつ垣間見れてくるのが本作の見所。
さらに言えば、前作で辛い立場に立たされた「救世群」。感染症の保菌者である彼らは、本作ではエウレカという小惑星に居を移しております。前作最後の方で、千茅が主張していた『自分達の血で(冥王斑ワクチンが必要な)外の世界の人間、組織と取引をする』、これが現実となり300年コミュニティを維持していた事がわかります。しかし、本作のグレア・アイザワという女性、おそらく千茅の子孫でしょうが千茅ほどの知性、先見性、リーダーシップは無いように思います。セアキもその危うさに手を焼かされているといった状況。これが千茅だったらまた状況は変わっていたと思います。
千茅だったらドロテア・レポートにそもそも執着しなかったのではないか。仮にドロテア・レポートを入手したとしたら、すぐに内容を確認するはず。そして、事の重要性を認識したら、ロイズなり「酸素いらず」なり力を持つ組織と取引をし、これを手に入れるかダシにしてもっと自分達の立場を良くするよう交渉したのではないか、と思うのです。・・・そんな、妄想ができる余地があるのも、天冥の標の魅力ですね!
ともあれ、全体的に暗いトーンが多い天冥の標の中でも、「酸素いらず」達は間違いなく陽の存在でしょう。存在するだけで周りを元気にしてくれる奴ら。僕も彼らのような生き様に憧れます。広い宇宙、まだ見ぬ果てへ、行けるところまで行こう!
Lose O2 We Stand! 空気なくとも大地あり!
気になったフレーズ・名言(抜粋)
総員傾聴!天に在り、すなわちここに在る主神代理ケブネカイセの聖意のもと、大主教デイム・グレーテル・ジンデルのしもべ、主教サー・アダムス・アウレーリアが命じる!系内平和をかき乱す邪なる者滅ぼすため、一統身命を御許に擲ち、怒り、溜め、撃ち放せ!大気なくとも大地あり!
アダムス・アウレーリア
天冥の標 Ⅲ アウレーリア一統 p.67
ぼくらの仕事はガチのケンカだ。目立ってなんぼなんだよ。軍艦が火砲や装甲をいくら増やしたって、人から見れば、だから何、で終わりだ。こうやって綺麗にしてることのほうが示威になるの!
アダムス・アウレーリア
天冥の標 Ⅲ アウレーリア一統 P.116
ロボットですが、MHD社のデザイン基準においては女性型として製造されました。セアキさまは性的ノーマルだとお見受けします
天冥の標 Ⅲ アウレーリア一統 p.216
男も女も、肉も機械も関係あるかい。きれいなもんはきれい、野暮なもんは野暮だ。大事なのは美学ってやつよ。ちっとは《酸素いらず》の連中を見習ってこい、野暮天め
レオニダス・ゲオルギス・ウルヴァーノ
天冥の標 Ⅲ アウレーリア一統 p.243
わかってやってくれ、これは救世群が他人から『汚い』って言われた話なんだよ。そういう話を、あんただったら得々と他人に語りたいと思うかい?
セアキ・ジュノ
天冥の標 Ⅲ アウレーリア一統 p.308
重要よ、知らないことを知るというのはね。それが無意味であればあるほどいい。意味を求めると濁るから。私はそれが、私たちと海賊をわける点だと思っているわ
デイム・グレーテル・ジンデル
天冥の標 Ⅲ アウレーリア一統 p.424
きみはわかっていない。武器を持ち、身を鍛え、軍備を揃えて、やるかやられるか、食うか食われるかの戦いをすることが、どんなに大変か!ジュノや医師団が、どれだけの努力を払って、きみたちをそれから遠ざけていたことか!
アダムス・アウレーリア
天冥の標 Ⅲ アウレーリア一統 p.503
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