ギルガメシュ叙事詩

ノンフィクション

こんにちは、ポメラニ・アンパンです。ついに7月に入りましたね。7月といえば本格的に暑くなって、夏本番という季節です。

夏は何をしますか?僕は暑いのが苦手なので家の中でまったりするのが好きですね。そしてたま〜に外出して陽の光を浴びる程度で満足しちゃいます。

外出するとしても涼しいところへ行きたいですね。海の近くか、山の木の影が深く直射日光に当たらないところとか。背の高い木々が多い神社なんかも好きです。僕が一番好きな神社は香取神宮です。千葉・茨城近郊の人はぜひ行ってみてください。本堂が漆黒で大変美しく重厚感があるのです!

さてさて、本の話に入りましょうか。あなたは『英雄』という言葉を聞いた時、どんなふうにイメージしますか?神の如く圧倒的な力を持つ強い存在でしょうか。それとも他人(自分より弱い者)のために、その身を犠牲にしてでも守るべきものを守る存在でしょうか。今回は、そのイメージがちょっと変わるかもしれない作品を紹介しますよ。

今回紹介するのは英雄王と誉高いギルガメシュに関する本『ギルガメシュ叙事詩』です。本作は、数千年前にメソポタミアの石板に記された、ギルガメシュを主人公とする物語「ギルガメシュ叙事詩」に関する研究と初の日本語翻訳を成した矢島文夫氏の著書です。

この本を読んだきっかけ

Wikipediaにて、世界で最も古い物語として『ギルガメシュ叙事詩』が紹介されている。これを見た時、純粋に読んでみたい!と思い、検索した結果、本作にたどり着いたのだ。本作はネットで購入しました!

あらすじ

数千年前に作られた物語。

ギルガメシュという神と人間の両属性を持つ存在が、永遠の命を求め旅をするも、悲願は叶わず故郷に帰還するという叙事詩。

本作は著者、矢島文夫氏が本書を作成するに至った経緯も記載されていて、ノンフィクション部分も含まれる。物語が刻まれた石板の発見経緯、それをどのようにして解読してゆくか・・・。この分野の研究者はもちろん研究者以外の人が読んでもどのようにしてこの物語を解読していったのか、という部分も興味深い。つまり本作は、ギルガメシュ叙事詩の研究としての側面と、叙事詩そのものを楽しむというエンタテインメントとしての側面を備えたお得な本なのです。


ギルガメシュはウルクの王であり、剛健な体躯に美しい容姿、己の力を拠り所に欲望に忠実だった。彼に敵うものはおらず、人々から好かれてはいるが、傍若無人な振る舞いも目立った。

そんな彼のもとに神々はエンキドゥという存在を送り込むことにした。ギルガメシュに匹敵する力を持つエンキドゥ。

ギルガメシュとエンキドゥは力と力をぶつけ合い、無二の親友となる。

ギルガメシュは杉の森の木を切り倒し、森の番人であるフンババを倒そうとエンキドゥに持ちかける。恐ろしい怪物として知られるフンババ。エンキドゥは、フンババが杉の森の守護者であり、神より使命を帯びた存在である事を知っていて、討伐をためらう。ギルガメシュは再三エンキドゥを説得し、ようやく出発する。森に分け入り、ギルガメシュ、守護神シャマシュとエンキドゥはなんとかフンババを倒すことに成功する。フンババの首と杉の木を持ち帰る。

フンババを倒したギルガメシュの威容に、美しい女神イシュタルが惚れる。巧みにギルガメシュを誘惑するも、ギルガメシュはイシュタルのそれまでの行いを非難した。彼はイシュタルと共にした者達の悲惨な末路や不貞と残虐さを数え上げてイシュタルの誘いを拒絶した。これにイシュタルが激怒する。

イシュタルは、ウルクごとギルガメシュを抹殺するために天の牛を送り込んだ。天の牛が暴れ多くの人間達が巻き込まれる中、ギルガメシュとエンキドゥは天の牛と戦い、これを打ち倒す。

その後エンキドゥは不吉な夢を見る。神々が集まって何やら話をしているではないか。曰く、『フンババと天の牛を殺した者は死ななければならない。死すべきはエンキドゥだ』と。

この後、エンキドゥは病気になり死んでゆく。親友の死に心を痛め、涙を流すギルガメシュ。また、命が尽きる、という事をまざまざと見せつけられたギルガメシュは死を恐れ、永遠の命を求めるようになる。

長き孤独な旅をし、ウトナピシュテムを訪ねるギルガメシュ。ウトナピシュテムは言う「私は神に永遠の命の存在にされただけだ。私の力でお前にどうすることもできない」。悲嘆に暮れるギルガメシュ。そんな姿を見てウトナピシュテムの妻がとりなす。ウトナピシュテムもギルガメシュを気の毒に思ったのか、一つの草(植物)が水中(海底)にある事を教える。「その草の刺を腕に刺せ。そうすればお前は命を得るのだ」と。

勇んで水中にダイブし草を入手して喜ぶギルガメシュ。帰途につくギルガメシュは途中水を浴びるため湖に入る。しかしこれが誤算だった。ギルガメシュが湖に入っている間に、蛇が草を持っていってしまったのだ!

ギルガメシュは坐して泣き、自分は永遠の命を得られない事を悟った。そしてウルクに帰った。


この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

著者の視点、翻訳に至るまでの経緯など、矢島氏の研究者目線がまず一つ。

叙事詩の翻訳については、数千年前に造られたのが嘘のような、今読んでも楽しめる作品。

日本で初めて翻訳をなされたのが著者の矢島氏で、その研究に対する熱さ、情熱が伝わってくる。

読みやすさ:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

丁寧な解説と注釈があり、特に苦労することなく読める。

ワクワク度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

12の石板からなる物語ゆえ、展開も速い!特にエンキドゥと互角の戦いの後、互いの実力を認め合って抱き合うのは少年ジャンプに連載する漫画のようでたまらんぞ!

また、フンババ討伐に行く前にギルガメシュとエンキドゥの武器を武器職人に作ってもらう展開も良い。まるでRPGのボスに挑む前のようだ!

ハラハラ度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

本編とは別の【イシュタルの冥界下り】は結構ハラハラポイント多し。門をくぐる事に一つ、一つとイシュタルは身に付けていた装備を取り外されていく・・・。

食欲増幅度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

具体的な食べ物の名前は出てこないが、『食事をした』、『パンを与えた』などギルガメシュやエンキドゥが食事をしているシーンは比較的多い。僕は物語の登場人物が食事するシーンが好きなのだ。

胸キュン:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

こんなに人間臭く、よく泣く英雄がいただろうか。とにかくギルガメシュはよく泣く。親友エンキドゥの死別は胸を突く。

ページをめくる加速度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

叙事詩の中には石板の破損箇所に従って〔  〕のように空欄があるが、それを差し引いてもどんどん読めてしまう。

希望度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

絶対的な力を持つ神々と違い、僕たち人間に物凄く近い半神半人の存在ギルガメシュ。その心情も人間のそれと変わらないのかもしれない。死を恐れ、命を求め、求めたものが手に入らない事を知り、自分の居場所に帰還する・・・。そのように生きるのが人なのだと教えてくれるようでもある。

絶望度:2 ⭐️⭐️

不思議と絶望感は少ない。

残酷度:3 ⭐️⭐️⭐️

神話にありがちな残酷描写は多少ある。フンババの首を切り落とすとか、天の牛の体の一部をイシュタルの顔面に投げつけるとか。

恐怖度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

女神イシュタル、怖いね〜。誘いを断ったら殺しに来るんだから・・・。

フンババの強さ、恐ろしさを表す「フンババの叫び声は〜」の表現が白眉。人間が恐れをなして杉の森に近づかないようにいかにフンババが怖いかをよく表していると思う。

ためになる:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

神に近い存在のギルガメシュですら、自分の人生を思うままにできないという、ある種人間が生きる上での主題、『人生とはままならないもの』と教えてくれる。それでいて、絶望だけでなく希望を持てる内容だ。

泣ける:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

胸キュン評価と重複するが、ギルガメシュの泣きシーンの中でもエンキドゥに対して咽び泣く様はこっちも男泣きしそうになる。神々の命令で天の牛を殺したのに、理不尽にも死の決定を覆せない運命。ああ無情。

読後感:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

僕たちがサブカルチャーの中で知った『ギルガメシュ』という名前。その本来の物語を知ることができたという嬉しさが残る。

物語は、仲間がいることの喜びや別れの悲しみ、理不尽な境遇においても生きていくという、まさに人生のテーマを描いている。

著者の矢島氏が心血を注いて翻訳を成し遂げてこられた事、様々な要素が重なり、非常に満足した読後感だった。

誰かに語りたい:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

古代の物語と聞いてとっつきにくいかと思ったら、物凄くハードルが低くてびっくりしました。ギリシャ神話や日本神話より遥かにわかりやすい。

語り継いでいこうではないか、英雄の物語を。僕たちも。

なぞ度:3 ⭐️⭐️⭐️

ウトナピシュテムから教わり、ギルガメシュが水中から手に入れた草(植物)を奪った蛇は何者か語られていない。ただの蛇なのか、何か別の意味を表しているのか・・・。このような謎というより不明瞭な部分はある。なぜならまだ研究は続けられているからだ。

静謐度:3 ⭐️⭐️⭐️

ギルガメッシュが命を求めてウトナピシュテムを訪ねる途上。その行程の描写は、孤独に歩を進める描写が淡々と描かれている。ここに、彼の心情を表すかのような静寂と静謐さを感じた。

笑える度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

フンババを倒したギルガメシュに言い寄るイシュタル。その誘いを反故にするギルガメシュだが、読んでいた僕は『そんなに言わんでも・・・』とちょっとこっちが引いてしまうほどの罵詈雑言をイシュタルに向かって吐いてる(笑)。そりゃ、怒るわ〜。

とにかく、このような会話に面白さがあります。

切ない:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

力強い英雄的なギルガメシュ。しかし弱い部分もあり、それが切なさを呼び起こすのかもしれない。

エロス:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

序盤にギルガメシュと女の交合を表した描写、エンキドゥと女の交合も描かれている。エンキドゥはこの女によって獣から人間になっている。

データ

タイトルギルガメシュ叙事詩
著者矢島文夫
発行元ちくま学芸文庫
コードISBN4-480-08409-6

まとめ

ギルガメシュ叙事詩を初めてまともに読んだぞ〜!!

僕がギルガメシュ(ギルガメッシュ)、なる名前を初めて知ったのはファイナルファンタジー5です。主人公達に立ちはだかる敵キャラクターとして登場し、その戦闘BGMとちょっと憎めないキャラクター(注:Youtubeへのリンク。音が出ます。)でインパクトある存在でした。今でも人気キャラで、5以降のファイナルファンタジーにもゲスト出演してたりします。

左:エンキドゥ 右:ギルガメッシュ  出典:ファイナルファンタジー5

今では人気コンテンツFateシリーズにもギルガメシュは登場しています。Fateについては僕はあまり詳しくないので、割愛します。

ってなわけで、今でこそギルガメシュ(ギルガメッシュ)の名はゲームやアニメ、ファンタジー小説などサブカルチャーのコンテンツに幅広くその名を見かけますが、本作著者である矢島氏が調査をしていた1950年台の日本では、まだまだマイナーな存在だったようです。

本作は、矢島氏による研究の軌跡とギルガメシュ叙事詩の訳文が載っています。著者の研究模様も色々書かれており、遺跡や石板の写真も掲載されていて、考古学的にも面白い内容でした。

このような写真も多く紹介されており、資料的価値もある本作。視覚からも楽しめます。

僕は考古学には全く詳しくないので『へぇ〜!凄い!』と思うのが関の山ですが、そんな僕でもこの物語りが数千年前の人達によって作られた事、それが今なおこうして研究され続けている事が何より凄いと感じます。

著者をはじめ多くの人々の努力の結晶として、遥か数千年の過去の物語を読むことができるのはなんと幸せなことだろうかと思いました。

余談ですが、矢島氏は本作の中で、ギルガメシュをテーマにして曲を作った作曲家を紹介されています。ボフスラフ・マルティヌーという人で、ギルガメシュを主題とした作品がありました。

遥か数千年前の物語でも色あせる事なく語り継がれる、まさに伝説的作品であるギルガメシュ叙事詩と伝説の英雄ギルガメシュ。

そんな英雄は、本当に人間くさくて強くてわがままで軽率ですぐ泣くし・・・予想を遥かに超えた愛されキャラでした。

気に入ったフレーズ・名言(抜粋)

フンババの叫び声は洪水だ

その口は火だ

その息は死だ

なぜお前は望むのか

そのようなことをするのを


ギルガメシュ叙事詩 p.56

エンキドゥはイシュタルの言葉を聴くと『天の牛』のももをひき裂き、彼女の顔に投げつけた

「もしお前をつかまえさえすれば、あれ(天の牛)にしたようにお前にもしたいところだ。あれの腹わたをお前の腹にぶら下げたいところだ」

ギルガメシュ叙事詩 p.085

悲しみと苦しみあろうとも湿りあろうと乾きあろうと

ためいきと涙あろうとも私は行くのだ

ギルガメシュ
ギルガメシュ叙事詩 p.106

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