こんにちは。ポメラニ・アンパンです。7月ももうすぐ終わりますが、いかがお過ごしでしょうか。今年の梅雨はなかなか長引き、鬱々とした日が続きます。ジメジメして、それでいて気温は高い。なんとも気持ちが晴れやかになりにくい状況ですね〜。
そんな時は熱いコーヒーを淹れてホッと一息入れるに限りますね。僕は凄くコーヒーが好きで、毎日豆をミルで挽いてブラックで飲んでます。
本を読む時も、他の何かをする時も、コーヒーはいつでも僕の相棒のような存在です。
今日はそんなコーヒーにまつわる物語を紹介します。タイトルは『珈琲相場師』。
コーヒーがまだ今ほどメジャーな飲み物と認識されていない時代、17世紀のアムステルダムにて、一人の商人が富を築くために珈琲取引を始めるのです。商人の前には次から次へと障害・妨害・トラブルが襲ってきますが・・・。
アメリカの作家、デイヴィッド・リスさんによる本作、いいですよ〜。


この本を読んだきっかけ
コーヒー大好き人間の僕にとって、このタイトルと表紙は抗えません。完璧にジャケ買いです。
あらすじ
舞台は17世紀、オランダの商業都市アムステルダム。ユダヤ人の商人、ミゲル・リエンゾは、砂糖の取引に失敗し、借金を抱えていた。生活に困った彼は、弟の家の地下に借りぐらしさせてもらうという屈辱に耐えながら、再起の機会を狙っていた。
ミゲルはある時、少し前に知り合ったオランダ人の美しき未亡人、ヘールトロイド・ダムホイスからコーヒーという飲み物を紹介される。当時、コーヒーはイギリスで流行の兆しが少しあったくらいで、オランダでもほとんど注目されておらず、それを大々的に取引しようと考える人間も少なかった。未亡人はこのコーヒーの取引によって一儲けしないかとミゲルに持ちかける。市場や取引のノウハウを持つミゲル、元手となる資本金を出すヘールトロイド、二人はタッグを組み作戦を練る事に。
商売や取引には駆け引きがつきものだ。ミゲルとヘールトロイドの策略が順風満帆に立ち行くはずもなく・・・。ポルトガル系ユダヤ人の共同体を統治する公会議の役員ソロモン・パリドはその地位をかさにかけミゲルを威圧、牽制する。さらに、以前ミゲルに薦められた砂糖の投資で破産し、逆恨みでミゲルにつきまとうオランダ人、ヨアヒム。ヨアヒムは浮浪者同然の身なりになっても、執拗にミゲルに金を返すよう迫る。そして、幼い頃から仲が悪かったミゲルの弟、ダニエル・リエンゾは、ミゲルに常に非協力的だ。
その他の登場人物も腹に一物抱えていそうな者ばかり。コーヒーの現物を輸入する事を請負うイザヤ・ヌネス。ソロモン・パリドに破門させられた末、悪名轟く高利貸しとなったアロンゾ・アルフェロンダ。彼らはミゲルの相談にも快く応じるのだが、その狙いは何なのか。
また、居候先のダニエルの妻、ハナやそのメイドのアナヒャなどミゲルの周りにいる人物は誰が敵で誰が味方か。誰と誰が繋がっているか・・・。
コーヒーの香りに誘われて集う人々。策略と野心が渦巻くアムステルダムにて、ミゲルは借金を返し、富を得られるのか!?
勝つのは誰だ?!
この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)
雰囲気
オランダ、取引、相場、値段の釣り上げ引き下げ、魅惑の女、生意気な女、交渉、策略、野望、疑心暗鬼、信頼、友情、報復、破産、栄光、微妙な家族関係、砂糖、鯨油、コーヒー・・・・。
コーヒーに魅せられた商人の大勝負。まだ有名になる前のコーヒーに目をつけ、一儲けを企むミゲルと未亡人。ミゲルがコーヒーを使って富を得ようと動くも、次から次へと難題が。
単に取引だけでなく、ミゲルを取り巻く人間関係も見所。味方面した奴、明らかに敵意を剥き出しにする奴、潤んだ目でミゲルを困惑させる女・・・様々な人間が秘密を持ち、裏の顔を持つ。当時、世界でもっとも活気がある商売人の街、アムステルダムの人間模様が僕らを魅了する。
読みやすさ:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
第三者視点で描写される商人の物語。17世紀のオランダの街並み、当時の取引所の様子やミゲルの生活の様子などが描かれていて、当時のオランダを知らなくても風景を思い浮かべやすい。『ダム広場』など、今も存在する地名が出てくるので、GoogleMapを見ながら読むのも楽しい。
ワクワク度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
個人的に僕がコーヒー好きというのもあるが、それを差し引いてもミゲルが借金を返せるか、うまくいくか、本当に大丈夫か?と常にワクワクとハラハラがある。
ハラハラ度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
予定していた金が入らなかったり、その時に多額の返済を請求されたり、ミゲルの不運を追い打つ様に危機的状況がやってくる。一難去ってまた一難な状況が続くので、本作はほぼ全体どこかしらでハラハラしながら読む事になる。
食欲増幅度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ミゲルが初めて未亡人から紹介されたコーヒーを飲むシーン。未亡人が「途方もないもの」と表現した真っ黒い液体。(この時は決して美味しいと表現していない)
また、ミゲルがコーヒー豆を荒く挽いて甘いワインと混ぜて飲むシーンは美味しそうなので、僕も試してみようと思った。また場末の居酒屋で飲むビールを飲むシーンも良い。飲食のシーンを読むと凄く触発されてしまう。
胸キュン:3 ⭐️⭐️⭐️
怪しい魅力でミゲルを操ろうとする未亡人ヘールトロイド・ダムホイスと、弟の美しき妻のハナ。二人の女性がミゲルに接近する。その過程と結末は予想を裏切る形になる。いわゆる胸キュン展開ではなく、当時の時代背景や状況の結果によるところが大きいのかも。
ページをめくる加速度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ミゲル、どうなる?うまくいくのか?そいつの話を信用して大丈夫か?と読者なのにミゲルをつい心配してしまう様になり、どんどんページをめくってしまう。
希望度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
莫大な借金があっても腐らず、再起を図るミゲルの誇り高き精神は応援したくなる。
絶望度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
大きな絶望感を懐く描写は少ない。味方だった者が離れていくのは絶望感というよりもただ悲しい。
残酷度:2 ⭐️⭐️
残酷な描写は少ない。
恐怖度:1 ⭐️
恐怖を描く作品ではないので、その様な描写は無い。
ためになる:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
コーヒーに興味があるなら楽しめる作品。小説なので、多少誇張はあるかもしれないが、きちんとした参考文献による調査を基にした描写は歴史的な背景や、当時のオランダ・アムステルダムを知る良い材料になる。
泣ける:2 ⭐️⭐️
泣ける所はないが、僕にとってはいつまでも心に残る作品。
読後感:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ミゲルは取引には勝利するも、大切なものを失う。華々しい取引による勝利も、その大切なものを失ったとあっては、その嬉しさも霞む。
人生、真に尊ぶべきものは経済的な富だけではないと感じさせてくれる。
誰かに語りたい:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
登場人物が皆個性的で物語もドラマチック。正直、僕はもっと話題になって良い作品だと思っている。むしろ、こういう作品こそ映画やアニメなど、動く媒体で観たい。
なぞ度:1 ⭐️
物語中に敷かれた伏線はほとんど作中で回収されているので、残った謎は無い。
静謐度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
ミゲルが一人思案するシーン、取引所が始まる前、早朝のアムステルダム・・・。その辺りの描写は静謐かつ雰囲気がある。
笑える度:3 ⭐️⭐️⭐️
コーヒーを「悪魔の小便のようだ」など、独特の言い回しで、思わず笑ってしまう表現もあった。
切ない:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
未亡人との関係は、これに尽きる。
エロス:2 ⭐️⭐️
それを匂わすシーンは多少ある。
データ
タイトル | 珈琲相場師 |
原作タイトル | THE COFFEE TRADER |
著者 | デイヴィッド・リス(David Liss) |
訳者 | 松下祥子 |
発行元 | 早川書房 |
コード | ISBN4-15-172853-8 |
まとめ
ずっと前から、ここで紹介したかった作品がこの『珈琲相場師』でした!初めて読んだのはもう数年前でしたが、衝撃を受けましたね。松下祥子さんの翻訳が冴える、小気味良いセリフに17世紀のオランダの空気感、そして商売の主役がコーヒー!!コーヒー大好きな僕は、これだけで大好きになりましたね。
2004年6月に日本で発行された本作、物語自体も相当面白く、歴史&商売エンターテインメントとして心から楽しめました!てか何で本作、重版かからないの!?おかしくね??ほとんど話題になってないのか?Twitterのタイムラインでも本作を挙げている人居ないし、ネット通販も中古本しか入手できない状況・・・。率直に言ってあり得ん!!お願いしますよ、早川さん。もっとPRすればきっと・・・。
・・・とまあ、愚痴ってしまいましたが、そう言いたくなる程楽しめたし、売れていない(重版がかかっていない)のが悲しいのですよ。その影響なのか、デイヴィッド・リスさんの作品、本作の他『紙の迷宮』しか翻訳が出ていません。著作はもっとあるようで、他の作品の翻訳もぜひ読みたいのに・・・。
さて、本編は取引の話が出てきます。ミゲルは相場を読んで、その差額で儲けようとしているので当然ですが。して、この取引というものは先を読んで売買契約をなしてゆく、そういうもんでしょうが本作を読んでいると、『売る予定のモノ』が手元に入っていないのに契約を結ぶのは危険だなぁ〜と思ったり、全く新しい商品を商売にするには途方もない苦労があったんだろうなぁと感慨深いです。こうした人々の苦労によって、今僕は美味しくコーヒーを飲めるんですから。
作中にもあるように、初めてコーヒーを見たミゲルが『悪魔の小便のような』と形容したほど、当時は得体の知れない液体だったんですね〜!
さらに本作では隠れユダヤ教徒のミゲルをはじめ、オランダ人のヘールトロイドのように宗教や生活様式が異なる人々が描かれています。ミゲルはリスボンで生まれましたが、ユダヤ教徒だったので、彼らに対し寛容なオランダに移住してきたというバックボーンがあります。こういった人物描写も本作の魅力の一つです。
ぜひ、手元にお気に入りのコーヒーを携えて本作を楽しんで欲しいです。
気に入ったフレーズ・名言(抜粋)
コーヒーはね、ワインやビールと違う。あっちは酔って浮かれたいとか、喉の渇きをとめたいとか、味がすばらしいとかいう理由で飲むもの。こっちは飲むともっと喉が渇くだけ、浮かれたい気分にはならないし、味は、正直に言いましょう、おもしろいけれどおいしくはない。コーヒーはなにか……なにかもっとずっと重要なものなのよ
ヘールトロイド・ダムホイス
珈琲相場師 p.22
コーヒーは人の心にいろいろと強い情熱をもたらす飲み物です。軽々しく扱うと、思いもよらない大きな力が解放されてしまうかもしれない。
アロンゾ・アルフェロンダ
珈琲相場師 p.91
男が女の美徳を声高に主張するときは、すでに彼女を手に入れているか、なんとしても手に入れようとしているか、どちらかだ。
アロンゾ・アルフェロンダ
珈琲相場師 p.93
おれがついているかぎり、誰にもあの人を侮辱させはしない。あの人は命の恩人以上のものだからな。だけど、おれがこんなことを教えてやるのは、あんたが彼女を愛しているのがわかっているからだ。知ったからといって、その愛情は減りやしないよ
ヘンドリック
珈琲相場師 p.386
商売人はオランダの娼婦のように扱ってやるのがいちばんだ、と彼は思った。今すこし突き放しておけば、あとでもっと熱心になる。待たせてやるのだ。
珈琲相場師 p.540
「あたしもぜひキスを返したかったの」彼女は言った。「キスだけじゃなく、もっとね。でも、それを許してあげなかった。そうしたくなかったからじゃないの。ただ、食欲をそそるだけにとどめておけば、あなたがもっと扱いやすくなることを知っていたから。あたしみたいな女は、女の武器を使う方法を心得ていないとね。使わないっていうのも、一つの方法よ」
珈琲相場師 p.552
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