侍女の物語

SF


こんにちは。ポメラニ・アンパンです。雨が続きますね・・・。雨の日そのものは嫌いじゃないんです。雨の日は外に行く気になれない分、余計な事を考えず読書モードになりますからね。しかし、何日も連続で雨ですと洗濯ができなかったり、出勤の度に服の一部が濡れたり、本を濡らさないようにビニールを一つ余計に用意したりと煩わしいです。

今回紹介するのは、ちょっと読む季節を失敗したなぁと思う作品。作品自体が重く、暗いディストピア小説ですので、この頃の曇天・雨天続きの日は、天気と小説の両方からどんよりしたオーラを受けてしまいました・・・トホホ。なので、今回お勧めする作品は、春ごろに浮かれた人にイラッとした時に読むと良いかもしれません。

とはいえ、本作を読むと今の僕達がいかに恵まれているかを再確認できます。覚悟して読んでください!

カナダの作家、マーガレット・アトウッドさんの作品『侍女の物語』です。本作は今Huluで『ハンドメイズ・テイル』のタイトルでドラマ配信しているので知っている人も多いと思います。その原作になります。

この本を読んだきっかけ

Twitterのタイムラインで読書アカウントの方が紹介されていたのがきっかけです。タイトルとあらすじを読んで気になってしまい、入手しました。

あらすじ

近未来、アメリカ政府がキリスト教原理主義者によって奪取された。新たに政権を掌握したギレアデ共和国はキリスト教の教義を利用し、独裁政治と全体主義によって民をコントロールする。

新政府は女性の財産・地位を没収し、子供を産む適性によって分類する。子供を産むための器として国家資源と位置づけ保護された女性が『侍女』。人口減少が深刻化していたこの時、位の高い男性に、『子を生ませるため』に妊娠に適する女性を派遣する制度を構築し、侍女を派遣する。この時代、女性たちはその地位によって服装や所持品、行動を厳しく規定される。また侍女は配属先で本名ではなく与えられた名前を名乗るしかない。

侍女は配属先の家長である男性と性交し、妊娠すれば誉れとなる。しかし、生まれた子は家長(司令官)の妻が育てることとなる。

ポメラニ・アンパン
ポメラニ・アンパン

侍女:白い顔隠しを被り、袖の長い赤い服を着る。子供を産むために派遣される女性。本名を名乗ることはできず、「オブ〜〜」という名前を名乗る。

女中:緑色の服を着る。妊娠には適さない家事手伝いの女性。

家長の妻:青色の服。家長である司令官の妻。その家の実質的な権力者。

侍女の一人である主人公オブフレッドは、新たなる司令官のもとへ配属される。そこには他の侍女たち、司令官の妻、運転手の男性、そして家長である男性司令官がいる。この司令官の子供を宿すことがオブフレッドの使命だ。

物語はオブフレッドの視点で、彼女が侍女として体験した出来事を記録に残している体で描かれている。侍女として教育された施設での出来事、そこでの指導的立場の女性『小母』への感情、その施設で共に過ごした彼女の仲間達の思い出などが、時系列を無視して随所に差し込まれ、読み進めていくうちに状況が鮮明になっていく。

突然銀行の財産が使えなくなり、本当の娘と旦那とは離れ離れに。互いに生死もわからない状況で侍女として生きなければならなくなったオブフレッド。監獄のような閉じた世界で、なんとか脱出の機会を試みるためのオブフレッドの足掻きを描く。

権力とは何か。同じような立場の者が味方なのか敵なのか。強力な監視と規制を強いる社会で、生き延びるための静かなる戦いは日常の中にある。

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

暗い。重い。救いのない状況。ディストピア。単調なる日々。反抗。女性の友情。女性の敵対。男女関係。女性の地位。子を産むだけ。コロニー送り。

全体の雰囲気としては常に暗く、先行きに対する不安がある。これは侍女として体験したオブフレッドが記録したものという視点で描かれているため。決して、読めば元気になる類の作品ではない。

読みやすさ:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

オブフレッドの体験談のように読めるので読みやすい。しかし、読み始めはこの物語の世界情勢や状況がわからないため、場面を思い描くにあたり少々てこずるかもしれない。

しかし、日常生活の部分では部屋はどんな具合で、キッチンには何があり、ここでは何をする、といった細かい描写があるためスムーズに読み進められるだろう。

ワクワク度:1 ⭐️

正直、ワクワクするような世界観ではないし、そのような展開もない。

ハラハラ度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

行動を一歩間違えれば取り返しのつかない状況に陥るため、読んでいて常にハラハラさせられる。

食欲増幅度:2 ⭐️⭐️

サンドイッチやパン、その他食事の描写はあるが、食欲を増幅してくれるかというとそうでもない。

胸キュン・感動:2 ⭐️⭐️

赤ちゃんが生まれた時に、その場にいた侍女全員が感動し涙したところはちょっとした良い感動シーン。

ページをめくる加速度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

正直、先に進むのが辛い局面もある。しかし、オブフレッドがどこに向かって進むのか、着地点が気になって読み進めた。

希望度:2 ⭐️⭐️

希望が見えない状況下で、投げやりにならず生き延びようと、成功するかわからない事にも己の身を知恵を駆使するオブフレッドの姿は読んでいて力づけてもらえる。

絶望度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

自由の剥奪と監視。これが社会に根差している限り人の尊厳は尊重されることはない。さらに、女性の扱いがこの社会ではかなりの制限を設けられていて、主人公オブフレッドもその枷のなかで足掻くしかない。信用できる人が誰なのかもわからない状況でのオブフレッドの不安や怒り、悔しさが伝わってくる。

残酷度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

この政府の定める事項に違反した者は、厳罰に処される。壁に吊るされた人々の描写があるなど、残酷な表現がある。

恐怖度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

身をもって差し迫る恐怖というのではなく、真綿で首を締められていて、緩やかに力を削がれていくような、そんな世界。信用できる人がおらず、いつ通報によって政府の警察に捕まるかわからない不安からくる恐怖というものがある。

ためになる:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

あとがきで作家の落合恵子さんも言われているが、近未来を描いた小説ながら近い過去をも描いているのが本作。実際の僕たちが生きる世界でも、女性を男性のモノとして扱うような慣例は世界中で存在している。流石に本作のような極端な全体主義は存在しないだろうが、このようになる可能性はゼロではないのでは?と思ってしまうほど、本作の世界観の構築が緻密でリアルだった。それだけに、こんな世界にしてはならないと強く思わせてくれる。

泣ける:1 ⭐️

僕は泣けなかった。感情を揺さぶられる以前に、あまりにも淡々と語られるオブフレッドの日常が、涙を誘うには至らなかった。とはいえ、彼女の痛切な思いは痛いほど訴えてくるので、心は動かされる。

読後感:3 ⭐️⭐️⭐️

読後感はあまり良くない。オブフレッドがどうなったか明確な描写が無い。オブフレッドの記録としてリアルさを演出するための構造だと思われるが、なんかすっきりしない終わり方だった。

*補足:2020年刊行予定とアナウンスがある著者新作『Testaments(仮題)』にて本作の続編が描かれるという。そちらで明らかになる部分もあるかもしれない。

誰かに語りたい:3 ⭐️⭐️⭐️

面白いかどうかと言われると、面白い話ではない。とにかく重い。ディストピア小説という括りでいえば、ジョージ・オーウェルの『一九八四年』に匹敵するインパクトがある作品なので、ディストピア小説が好きな人なら読めば良いのでは?というレベル。

なぞ度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ギレアデ共和国は最終的に瓦解するかのような記載が本作にある。しかし、そこに至る経緯などは全く描かれていない。

静謐度:2 ⭐️⭐️

文体や雰囲気からあまり静謐さは感じられなかった。

笑える度:1 ⭐️

笑えるところは全くない。

切ない:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

自分の本当の娘も行方知れずなのに、他人の子を産まなければならない事。さらに、産まれた子は自分で育てることができない事。このような切ない設定がいくつもある。

エロス:1 ⭐️

セックスのシーンはあるが、そこに色気やエロスを感じない。なぜなら、そのような感情を伴わないセックスを『使命』としてきた侍女の物語だから。

データ

タイトル侍女の物語
原作タイトルThe Handmaid’s Tale
著者マーガレット・アトウッド(Margaret Atwood)
発行元早川書房
コードISBN978-4-15-120011-3

まとめ

読みました、侍女の物語。いや〜、本作はとにかく重っ苦しい!

女性の地位をほとんど剥奪した上、人口減少に歯止めをかけるための『産めよ増やせよ』政策を推進するため、出産に適する女性を地位のある男性にあてがって半強制的に子供を産ませる社会。産めなくなったらポイですからね。これだけでもかなりイヤな設定なのに、さらに全体主義。出ました、全体主義!ジョージ・オーウェルの『一九八四年』でも描かれた、個人の自由など屁とも思わない社会。つまりは個人の生活よりも社会全体の運営を優先するため、個人にはあらんかぎりの規制(本作の侍女は酒、タバコ禁止、本を読む事も禁止、化粧も禁止、一人で外に出る事も禁止、決まった服以外着てはいけない・・・etc)を敷き、少数の権力者の権利とその社会の永続を優先する最低の発想です。

『一九八四年』の読書感想はこちら↓

僕がこんなところにいたら1日で発狂しますね。そんな、絶対に行きたくない世界線の一つが本作の舞台です。

本作の主人公オブフレッドが侍女として、ある司令官の家に配属されるところから物語が始まります。紆余曲折を経てオブフレッドは司令官の信頼を勝ち取るのですが、事態は予想外の展開になるのです。果たして彼女はこの状況から脱することができるのか。

本作はこのように全体主義を敷いた政権下で足掻く人を描いたディストピア小説、という側面の他に、女の生き残りと権力争いの物語という側面からも見ることができます。

本作の何が怖いって、登場する女性が軒並み怖いんですよ(冷汗)。他の侍女もオブフレッドにとって敵か味方かわかりません。表面上の言葉では仲間を装っていても、腹の中では何を考えているか・・・。そして司令官の妻は間違いなく権力者ですから逆らえない存在。さらに、オブフレッドの回想で度々出てくるリディア小母こいつはオブフレッド達侍女を教育する立場にあり、ギレアデ共和国体制側の人間です。体制に有利な、従順な侍女にするために、もっともらしい言葉で侍女を導く(洗脳する)のです。オブフレッドも憎しみが募るとあるように、絶対に好きになれない感じの人です。

一方で、登場する男性には魅力を感じる人がほとんどいません。恐ろしい人もいません。最も強力な権力を持っているはずの司令官よりも、その妻や小母、侍女、女中など恐ろしいのは本心を隠して行動の一挙手一投足を監視している女達というのが、本作のもう一つの見所でしょう。女の敵は女、を如実に表している作品です。

そしてもう一つ大事な事が。本作はフィクションですが、実はそれほど大袈裟に誇張した世界観という事ではないんです。今、世界では国家の主導権やリーダの立場にいるほとんどが男性です。女性のリーダーは増えてはきましたが、まだまだ少ないのが現状。つまり、男性が牛耳っている世界と言える状況です。

古来より男尊女卑があり、宗教や様々な形を利用しそれを正当化してきました。今の僕達の世界でも歴然とした男尊女卑があります。本作はこのまま変な方向に突き進むと、オブフレッドの世界のようになってしまうよ!という警告あるいは、著者マーガレット・アトウッドさんの意見でもあるんですね。本作は1985年に発行されていますから35年前の作品です。当時から、著者はこのような未来にならないよう危惧していたんですね。

男性と女性、どちらかが欠けても世界は回りません。互いに尊重し合って仲良くいきたいですね。

気に入ったフレーズ・名言(抜粋)

男っていうのは、自分が誰かをうまく思い出せないかのように、いつも心ここにあらずといった感じなんだから。男は空を眺めすぎるのね。地に足がついていないのよ。男は女よりもはるかに劣る存在なんだよ。

オブフレッドの母
侍女の物語 p.222

しかし、もしあなたが未来の人間で、たまたま男で、ここまで付き合ってくれたなら、どうか覚えておいてほしい。男の人は、人を許さなければならないという誘惑なり感情なりに、女の人ほどには左右されないのだ。本当に、これは女にとっては抵抗しがたい誘惑なのだ。でも、これも覚えておいてほしいのだけれど、許しもまたひとつの権力なのである。許しを乞うことは権力であり、許しを与えたり与えなかったりすることは、たぶん最も大きな権力だ。

侍女の物語 p.249

何かを求めるということは、何らかの弱みを持っているということだ。それが何であれ、その彼の弱みが私の心を惹きつける。それは今までは頑丈だった壁にできた小さな割れ目のようなものだ。この割れ目、つまり彼の弱みに目を当てれば、自分の進むべき道がはっきりと見えてくるかもしれない。

侍女の物語p.253

わたしたちはそのこと、つまりそれが取るに足らないか重要かをめぐってさえ口論できるかもしれない。それはどんなに贅沢なことだろう。

侍女の物語
p.363

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