冷たい密室と博士たち -DOCTORS IN ISOLATED ROOM-

ミステリー

こんにちは、ポメラニ・アンパンです。早いもので11月になりましたね。11月といえば秋の真ん中で、食欲の秋、読書の秋、と何でも『○○の秋』と付けたくなるのが人情でしょうか。

さて、僕ポメラニ・アンパンは先週、少し部屋の整理をしていると昔読んだ本が棚の奥に隠れている事を(本当は自分で整理して忘れてた)発見しました。

その中の一冊が、今回紹介する『冷たい密室と博士たち』です。

読んだきっかけ

初めて本作を手に取った時、特に理由はありませんでした。なぜなら森博嗣氏の衝撃的な1作目『すべてがFになる -THE PERFECT INSIDER-』を読んだ後、この作品を読むのは自然の流れではないでしょうか。

『すべてがFになる -THE PERFECT INSIDER』の読書感想はこちら↓

本作は、森博嗣氏のS&Mシリーズ第2作目の作品です。前作で登場した犀川、萌絵の二人に加え、新たなる登場人物、新たなる舞台でまたしても殺人事件が起きてしまいます。

あらすじ

N大建築学科助教授の犀川創平は、同僚の喜多北斗に誘われて極地環境研究センタ(極地研)へ見学に向かう事になった。喜多は土木専門の助教授。犀川が極地研へ行く事を察知した西之園萌絵は、自分のスポーツカーの助手席に犀川を乗せ、極地研に向かう。

極地研では、喜多の他に上司で極地研の所長・木熊教授市ノ瀬助手、6人の職員、8人の学生がいた。低温実験室を使って、波の動きや距離、挙動を測定する実験を見学した犀川と萌絵。実験が終わり、犀川と萌絵の来訪でささやかな歓迎ムードとなった極地研。木熊教授の鶴の一声で、低温実験室にて飲み会が催される事となった。酒に弱い犀川、そこそこ酒に強い萌絵、研究所の教官と職員、学生、見学者たちの宴会も和やかに終わろうとしていた。

そんな状況下で、皆が飲み会を行なっている実験室と目と鼻の先にある準備室では、既に一人の学生が遺体となっていた。第一発見者となった犀川と喜多。さらに、準備室の奥の扉を開けて搬入室に入ると、そこにも学生の遺体があった。二人の遺体に共通していたのは、背中に突き立ったナイフだった。

8人の学生のうち、実験には参加していたが飲み会の開始当初から姿が見えない男女の学生、丹羽健二郎服部珠子がいた。他の学生は、二人で先に帰ったのだろうと思って誰も気にしていなかった。遺体で発見されたのはこの二人。

実験には参加していたはずの丹羽と服部。それからわずかの時間で、どう見ても他殺されたとしか見えない状態で、二人は変わり果てた姿になっていた。一体誰が?どうやって?

服部珠子が殺されていたのは、皆が集まって飲み会をした低温実験室に廊下で繋がっている準備室。廊下への扉と、外へ出るための非常口、廊下と反対側の搬入室への扉がある。丹羽健二郎が殺されていたのは搬入室。こちらは準備室へと繋がる扉と、外へ出るためのシャッターしか扉は存在しない。いずれの扉、シャッターも、発見時はロックされていた。

そう、二つの遺体は密室にいた事になる。

犯人は外部の人間か、それとも研究所内にいる人間か。

犀川、喜多、萌絵はそれぞれの頭脳を回転させ真実に迫ってゆく。

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

S&Mシリーズ第2弾という事で、馴染みのある登場人物がいるだけで、読む事に安心感がある。犀川の同僚の喜多が明るめのキャラクターなので、雰囲気も『すべてがFになる』と比べると幾分フランク。しかし、物語全体としては良質かつ予想を裏切る結末が来るので、緩急がある。なお、舞台が低温実験室という事もあり、寒い季節に読むより、暑い季節に読んだ方が体感温度が下がるかも。

読みやすさ:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

基本的に句読点が多めで、シンプルかつ読み手にとって意味がわかりやすい文章。それでいて、単調にならない。

ワクワク度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

一般人があまり行かない研究室、それも低温実験室という特殊環境。僕みたいな文系かつオタク志向の強い人は『低温実験室?何それ?ワクワク』となる。

ハラハラ度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

萌絵ちゃん大ピンチシーンのハラハラ感は、本作最高の、手に汗握るシーン

食欲増幅度:2 ⭐️⭐️

飲み会シーンと、冒頭のデニーズのシーンしかない。犀川が飲むコーヒーがS&Mシリーズでは一番多い飲食物かもしれない

冒険度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

研究所という非常に限定されたエリア内での出来事なのは『すべてがFになる』と同じだが、今回は読者に極地研の見取り図が公開されている。読者はこれを見ながらあれこれ考えるのも、頭の中の冒険と言えるのかもしれない。

胸キュン:1 ⭐️

女性にモテる喜多先生初登場。しかし、いわゆる胸キュンシーンは無い。

血湧き肉躍る:3 ⭐️⭐️⭐️

犯人と直接やりあう事が無い分、全てが頭脳戦。犀川、萌絵が挑むのは、すべてが終わった後、誰がどの様にしてその状況を作ったかを考える事。犀川の思考力と萌絵の行動力は血脇肉踊らずとも読む者を熱くさせる力がある。

希望度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

未来ある研究学生が殺されてしまったと思って読んでいたら、真実に近づくにつれ、人間の闇を思い知る事となり、希望が薄れる。それでもブレずに日常を生きていく犀川や萌絵の姿は希望だ。

絶望度:3 ⭐️⭐️⭐️

状況はかなり絶望的のはずなのに、犀川と萌絵の頭が良すぎるので、あまり絶望感は感じない。

残酷度:2 ⭐️⭐️

発見された学生の遺体はナイフが刺さったもの。過度な残酷描写はない。

恐怖度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

つい先ほどで生きていた学生が、遺体となって目の前に現れる。あまりの事に一瞬理解が遅れる。しかし、理系の研究者たちは皆冷静だった。そのため、読者としても恐怖よりも、『なぜこんな事が起きたの?』という思考が先に来る。

ためになる:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

今回の事件の解決は、細かい情報を丁寧に整理し、そこから何が導き出されるかを考えれば、解ける人には解ける気がした。僕は誰が犯人か当てる事は出来なかったが・・・。情報を整理し、先入観無く見ていく事が重要だと教えてくれるのが本作。

泣ける:1 ⭐️

あんまり泣く要素は無い

ハッピーエンド:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

意外な結末。ハッピーエンドかと言われれば、そもそもこのシリーズは必ず人が死ぬので、ハッピーと言って良いのか。犀川と萌絵に限定していえば、お互いの距離が縮まっているのか、二人の関係性をより深く知れるのでその点ではハッピーかもしれない。

誰かに語りたい:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

低温実験室で研究している人がいたら、実際のところどうなん?と尋ねてみたい。

なぞ度:10 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

低温実験室で研究している人がいたら、実際のところどうなん?と尋ねてみたい。

静謐度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ 

喜多先生が犀川と正反対で賑やかな人なので、本作も少し明るい。しかし、ガチャガチャした印象はないので、静謐度はある。

笑える度:2 ⭐️⭐️

笑うところはあまり無い

切ない:2 ⭐️⭐️

あまり切ないシーンは無い

エロス:1 ⭐️

無い。

データ

タイトル冷たい密室と博士たち -DOCTORS IN ISOLATED ROOM-
著者森博嗣
発行元講談社
コードISBN-4-06-264560-2

まとめ

S&Mシリーズ第2作目の本作も、面白かった〜!僕がこれを読むのは2度目なんですが、時間が経っているので、誰が犯人だったか、どんな話だったかもほとんど覚えていなくて、新作を読む気持ちで読めてしまいました。

今回も、研究所の中の、実験室の横にある準備室と搬入室というあまり一般人には馴染みのない場所で殺人事件が起きます。鍵がしっかりとかかっていたので、またもや密室殺人。

物語は犀川と喜多、萌絵の3人がデニーズで二週間前の事件を反芻しながら整理するシーンから始まり、二週間前に何があったかが描かれ、再び、デニーズの続きに戻って・・・という具合の構成。

実は、あらすじでは詳しく書いてませんが、デニーズを出た3人その後に極地研で再び事件が起きるのです。そこで真相がわかります。

余談ですが、大金持ちの萌絵ちゃんの自宅が初登場。マンションの最上階の全フロアを占有し、執事がいて犬がいる、そんな家です。

本作は、前作『すべてがFになる』と比べてやや地味。しかし、それはやむを得ない事だと思いました。なぜなら真賀田四季が登場しないんですから。四季先生が登場する作品は、何というかオーラが違うんですよね。今作は、新キャラの喜多先生が登場します。犀川の同僚で爽やか、快活なモテ男です。その喜多先生が働いている極地研で事件が起きるんですね。極地研の教授以下指導員、スタッフ、学生が登場します。

事件が起きて、まずは外部犯かと思わせておいて、実は内部の犯行では?となり、最後の結末。犯人の犯行動機が明らかになるのですが、それを知った途端『ああ〜、そりゃ殺されても仕方ないやん』と思ってしまった自分の心の動きに驚きました。だって、動機を知る前は『将来有望な学生が無残にも殺されてしまって・・・。なんて事だ・・・』と思っていたのに、ですよ?

この辺りがミステリー小説の面白さです。最初は殺人事件が起き、理由がわからず恐怖や謎ばかりが増してゆく。しかし、犯人とその動機がわかった途端に、『ああ、犯人も人間なんだ』という感情が湧くのです。

今作も堪能しました。

おまけ。森博嗣作品のオリジナルしおりをご紹介。作品毎に作品と関係あるのかないのか、詩とイラストが入ってます。これも何気に気に入っています。

気に入ったフレーズ・名言(抜粋)

面白ければ良いんだ。面白ければ、無駄遣いではない。子供の砂遊びと同じだよ。面白くなかったら、誰が研究なんてするもんか

犀川創平 
冷たい密室と博士たち P.65

叔父様は、私を子供扱いしています。

第一に……、低俗で汚い人間関係に驚いて、ものの見方が変わるほど、私は子供ではありません。そんな人間になってほしくない、なんて言い方は、
私の人格の独立に対して失礼です。第二に……、
自分側の都合を通すのに、君のためだ、なんて言い方は、大変卑怯ですし、相手の知性を見下げた言い方だと思います。

西之園萌絵 
冷たい密室と博士たち p.218

だいたい、役に立たないものの方が楽しいじゃないか。
音楽だって、芸術だって、何の役にもたたない。
最も役に立たないということが、
数学が一番人間的で純粋な学問である証拠です。
人間だけが役に立たないことを考えるんですからね。

犀川創平 
冷たい密室と博士たち p.399

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