鳥の歌いまは絶え

SF

こんにちは。ポメラニ・アンパンです。うお〜〜!!10月後半、てかもう残り5日で10月終わり?!時間が経つのが早すぎるのか、僕が遅すぎるのか!

すっかり肌寒い日が出てきましたね。僕は衣替えをまだやっておらず、寒い日はTシャツ二枚重ね+フリースでしのいでおります。あなたも風邪をひかないように!

さて、今日ご紹介する本は、またまたSFになりますが、ロボットは出てきません(笑)!人間と、クローン人間のお話です。でも、決して「人間 VS クローン人間」ではないんです。

アメリカの女性作家、ケイト・ウィルヘルムさんの『鳥の歌いまは絶え』という作品です。

この本を読んだきっかけ

とある書店で何気なく視線を動かした先に本作の表紙を見て手に取ってみました。タイトルもさることながら、美しい表紙がどことなく気に入って、買ってしまいました。

あらすじ

近未来、地球では核実験の影響で放射性物質による自然破壊、疫病の蔓延、不妊などの問題が重なり、人類は滅亡の危機にあった。

アメリカ合衆国バージニア州のシェナンドア川沿いの谷に住む人々がいた。そのうちの一人、デイヴィッドは生物学者を志す若者だ。しかし、そんなデイヴィッドは、世界中が放射能に汚染され、sの影響からか多くの女性が不妊に陥る。そしてついに世界の人口増加率が数年前にゼロになった事を知る。さらには正体不明の疫病の蔓延と旱魃、洪水など天災が多発している。そんな状況下でデイヴィッドは生物学、とりわけクローン技術について学ぶ。

谷に病院兼研究所の建設が始まった。デイヴィッドの祖父は、未曾有の危機が迫ると気付き、ただ坐して死を待つわけではなかった。機能していない政府には頼らず、自分たち一族と仲間で生き残る算段を練っていた。すなわち土地を買い、病院を作り、研究所で蔓延する疫病や不妊の原因を研究する・・・。研究所をあずかるデイヴィッドの叔父で開業医のウォルトは、大学で学んだデイヴィッドのクローン技術の知識を頼りに彼を雇う。

ウォルトとデイヴィッドは研究を進めうちに、谷の住人達は全員、新たな子供を産む能力が無くなっている事が分かった。

デイヴィッドと研究者のウォルトは、人間のクローンを育てはじめた。そんな折、デイヴィッドの幼なじみであり、2年前にブラジルへ旅だったシーリアが帰ってきた。シーリアは農地に関する知識を生かし、飢えが急速に拡大する南アメリカの人々の支援に行っていた。ブラジルに行く前は日焼けした健康的な肌だったシーリアだが、再会した彼女は2年前に比べて肌は青白く、やつれていた。デイヴィッドは彼女を慰め、そして20年間思い続けていた事を告げる。

デイヴィッドやウォルト、シーリア他研究所で働く人間の努力もあり、クローン人間の新生児は少しずつ育ってきている。そんな矢先、デイヴィッドはかけがえのない存在を失う。

デイヴィッドの絶望をよそに、クローン人間たちは成長し、ウォルトやデイヴィッドそっくりの第一、第二世代、第三世代が増えていった。クローン人間たちは通常の人間と異なる挙動を見せ始める。彼らは、常に互いに寄り集まって行動していた。かつての住人そっくりのクローン人間たちを見るたびに、デイヴィッドの心はそこはかとない不快感と、クローン人間を創ったのは間違っていたのではないか、という思いが入り乱れた。

時が経ち、ウォルトのクローン第一世代=ウォルト1がウォルトの仕事を引き継いだ。もともとの人間は長老と呼ばれ、次第に仕事や役割もクローン人間にとって変わられる。今ではデイヴィッド2、デイヴィッド3、などかつての住人そっくりのクローン人間たちが生活している。彼らは長老に借りを感じており、攻撃してくる心配はないが、恐れている。時が経つにつれ長老たちの人口は次第に減り、反面クローン人間たちは順調に増え続ける。

そしてウォルト1からデイヴィッドはここを出ていくよう言われる。


クローン人間の少女、モリー。モリーは姉妹たちと仲良くしていたが、探検隊に選ばれる。モリーの他数人が探検隊に選ばれ、かつて繁栄していた人間の文明都市から資材や資料、情報など、クローン人間たちが生きていく上で必要なものを獲得・回収してくる任務を与えられた。シェナンドア川を船を使って往来しなければならない困難な事だ。

クローン人間たちは互いに寄り添ったり肌を触れ合ったりしないと不安に駆られる性質を持つ。モリーも例外ではなかった。モリー姉妹は見たままの光景を絵にする能力に秀でていて、探検隊に選ばれた。彼らの探検の過程で見た景色や都市の状況など、あらゆる事を記録するためだ。

川を下り、森の中を歩き、破壊された都市の残骸を見、残った書籍や使えそうな物資を回収した。帰りはまた来た川を逆に進むが、川は荒れ、船は沈没しかけるほど自然の脅威にさらされる。仲間と協力し、なんとかモリーたちは、自分たちの拠点に帰り着いた。

こうした一連の経験が影響したのか、探検に出たモリーら一向に変化が現れた。それまで常に姉妹たちと寄り添い触れ合わなければならなかった感覚が薄れ、一人になる時間が増えたのだ。これは一般的なクローン人間の性質と異なる。森や川での経験は、モリーにとって得体の知れない恐怖と同時に体感したことのない安堵と達成感のような感覚が残っていた。

それ以後モリーは他の姉妹と一緒にいる事へ抵抗感を感じるようになる。モリーの視点から見た姉妹は、皆同じ顔で美しいのだが、まるで中身が「空」のように感じたのだ。クローン人間たちは、互いの感覚を共有する。特に姉妹、兄弟といった同じ顔を持つ者同士はその傾向がより強くなる。モリーの姉妹たちは、モリー一人が自分たちとは異なる行動をとることに嫌悪感と苦痛を増してゆく。事実、クローン人間の姉妹たちは互いに寄り集まって完成された秩序が保てる。モリーが欠落した分、彼女の姉妹たちは心穏やかにならず苦しむ羽目になる。

クローン人間達はモリーを姉妹達から離し、<繁殖員はんしょくいん>とするか協議した。<繁殖員>・・・クローン人間を産むためだけに薬物と条件付される妊婦たち。子を産めば、次の子を産むために健康管理され次の出産の準備に入り、また子を産む・・・それの繰り返し。モリーをその境遇にするのを憚られるというバリーの意見が通り、モリーの<繁殖員>化は一旦見送られる。そして、彼女は他の姉妹たちが住む場所から少し離れた屋敷で一人住まう事になった。

他のクローン人間なら耐えられない「一人で生活する事」が、モリーにとっては至福の時間になった。暖炉の火で暖をとり、音楽を聴き、本を読み、絵を描く。そんなモリーを心配するのはバリーだけだった。そして、モリーは一人で住う屋敷で男の子を出産した。

彼女の息子マークは、モリーとの二人暮らしですくすくと育った。モリーは他のクローン人間と接触を断ち、マークの存在をひた隠して育てる。露見するとモリー自身は<繁殖員>として宿舎に戻され、息子とは離れ離れになるのがわかっていたからだ。彼女はマークと共に屋敷の裏庭や丘で過ごし、自然の美しさと、草木のことなど彼女の知る様々な事をマークに教えた。マークも物心ついた頃から屋敷にある本を読み漁る子供で、自然に対しても興味を持ちモリーの教えをどんどん吸収した。

しかし、ついに別れの時がきた。他のクローン人間たちにマークの存在が露見し、モリーが予想した通り、二人は引き離された。モリーは薬と条件付けにょって強制的に子供を産む役目を負わされた<繁殖員>にさせられた。

彼女の意識がはっきりと目覚めるまでの間、実に1年半の間、薬と条件付けによって彼女の体内には精子を注がれ、子を産むための処置を施されていた。そのことがわかった時、モリーは愕然とする。

条件付けによって宿舎からの脱出は困難を極めたが、息子マークに会うために、なんとかその場を脱することに成功する。モリーとマークは再び再会し、いろいろな事を語る。そして、彼女はマークに言う。「大人になるまで耐えていろいろな事を学びなさい。そしていつか出て行く決心をしなさい」と。彼女の胸の内は既に決まっていて、息子に告げる。「寂しくなったら木々に話しかけてもらいなさい。あたしの声も聞こえるかもしれないわ」

マークは彼女の意図を汲み取って、涙を流し、母親に別れを告げた。


マークはあらゆる点で他の者と違っていた。常日頃から他の兄弟たちをからかい、いたずらを繰り返した。マークにとって、クローン人間の兄弟たちは同じ顔が並ぶ空虚な存在にしか感じられなかった。そして兄弟たちもそんなマークとうまく関係を作れるはずもなく、マークは孤立し、一匹狼として彼らの社会では異端視されていた。

クローン人間たちは孤独を何より恐れた。一方、マークは孤独を恐れるどころか、むしろ孤独をのぞむ。クローン人間たちにとって、旧来の人間が孤独に耐えられる事を研究するのに、マークは役に立つからという理由で、かろうじて彼らの社会につなぎ止めていたのだ。しかし、協議では、次に問題を起こすことがあればマークは追放すると決まった。

クローン人間たちの世代が変わっても、かつて都市だった場所に行き、情報や資源を獲得してくる必要がある事は変わらなかった。都市に行くには森で一晩過ごしたり、川を船で往来したり、とにかく自然に接さなければならない長い旅になる。その間、クローン人間たちは親しい者と離れ、慣れない環境に身を置く。このため指導者たちの間で、若いうちから森で過ごす時間を作って訓練しようという話が持ち上げる。訓練をどのようにやるか議論をしていると、マークが言った。僕を連れて行かなければ必ず森で迷うよ、と。マークは幼い頃から他のクローンたちのように、兄弟と寄り添って生活しておらず、モリーと二人で5歳まで育った。森に入れば木々の声が聞こえ、何を見なければならないかは分かっていた。また、森はマークにとって恐ろしい場所ですらない。

マークの言った通り、彼らは森で迷いマークの案内なしには戻って来れなかった。マークは彼らに森で道に迷った時の対処法を教えるも、クローン人間の彼らは森を怖がるあまり、木々の様子や岩、土の状態を観察することすらできなかった。生まれながらにしてモリーに自然との触れ合い方を学んだマークと、兄弟姉妹常に寄り添い、慰めあわないと正気を保てないクローンとの違いはいよいよ決定的になってきた。

マークは彼らクローン人間たちにとって、森の案内人と訓練役としての存在価値しかなくなっていた。マークのいたずらは相変わらず続き、苦痛を感じるクローン人間たちは、マークに対する敵意を募らせる。バリーだけは、マークを庇うよう動いたが、それだけで事態が改善できる状況はとっくに過ぎていた。

問題はマークだけではなかった。クローン人間達も世代を重ねるごとに、自ら物事を考える能力を失っていたのだ。命じられた事、学習させられた事はしっかり吸収するも、学んだ事項を練って自ら新たなる思考や閃きを発露させる者は減ってきている。コンピュータの故障も年上のクローンが、若いクローンに対処法を教えていれば対処できるが、トラブルは教えられた事のみが発生するはずがない。教えられていない事態が発生した際、若いクローンたちはなす術がない。このような傾向が彼らの社会全体で起きていることに気づいた者はマークを含めごくわずかだった。

マークは決行した。クローンたちの下から出て行き、別の場所で暮らす事を。数人の<繁殖員>の女と家畜を持ち出すために周到な計画を立てて。

かくしてマークは、慎ましくも人間らしい、幸せを感じる生活を手に入れる。生まれてくる子供達の顔は、クローンたちの組織にいるような兄弟姉妹そっくりな顔ではなく、少しずつ皆違っていた。いつか、彼らの中から、あてもない冒険を志す者が出てくる事を確信して。

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

核戦争、人類滅亡の危機、ペスト、感染症、放射能汚染、不妊、クローン人間、愛、孤独、寄り添う、自然、森、川、谷、洞窟、研究所、発電所、生きる、死ぬ、同じ顔、違う顔、アメリカ、シェナンドア川、ニューヨーク・・・。

大規模な汚染により、地球の生物が滅亡の危機にある中、なんとか命脈を繋ごうと奮闘する人々が出した答え、それがクローンによって人口を増やす事だった。

全体の雰囲気としては暗く重い。イメージは灰色。物語が進み、森や川の描写で緑や夜の暗い景色、色彩が脳裏にイメージされる。

クローン人間達の無味乾燥さと、人間性を獲得してゆくモリーやマークの対比が面白い。人は一人では生きられないが、孤独は自我を形成するために必要なのだ。

読みやすさ:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

純粋な人類がクローン人間を生み出す過程を描く、デイヴィッドを主人公とした第一章「鳥の歌いまは絶え」、クローン人間の世代がある程度進んだところで生まれたモリーを主人公とし、自然に触れる事で封じられていた人間性(森で癒されたり孤独な時間を好んだり)を発露させる物語を描いた第二章「シェナンドア」、モリーの人間性を引き継いだマークが、世代を重ねて歪みが生じているクローン人間達と相対し、決別するまでを描いた第三章「静止点にて」の三章建ての物語。

主語や視点がころころ変わるので、慣れるまで少々読みづらい。

ワクワク度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

壮大なワクワク要素は少ないが、読み進めるにつれじわじわと迫ってくるものがある。

ハラハラ度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

第一章では果たしてうまくクローン人間が精錬できるのか。第二章ではモリーがどうなるのか。第三章ではマークとクローン人間達の関係の危うさ、それぞれにハラハラする箇所はある。

食欲増幅度:1 ⭐️

食事の描写はほぼ無い。モリーが屋敷でお茶を飲むシーンぐらいか・・・。

胸キュン:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

デイヴィッドとシーリアの切ない結末、そしてシーリアと同じ顔を持つクローン人間と会った時のデイヴィッドの心境を考えると胸キュンというよりえぐられる。

また、モリーの姉妹に対する感情と自分の意思を貫こうとするときの鬩ぎ合う心境にも訴えかけてくるものがある。

そしてマーク。マークは何一つクローン人間達とはうまくいっていなかった。そもそも母のモリーは、彼らのせいで失ったようなものだ。しかし、最後、バリーに言ったセリフで彼の心境もわかり、読み手としては「なんてできた子なんでしょう」と思わずにはいられなかった。

ページをめくる加速度:3 ⭐️⭐️⭐️

面白いんだけど、読んでると頻繁に眠気を誘う作品だった(原因不明)。だから読み終わるのに時間がかかった。

希望度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

モリーやマークが本当に本作の希望の星!そしてエピローグ。これだけの話だから、救われないエンディングになるかとドキドキしながら読んだのだが、実に清々しく、希望を感じされる終わり方だった。

絶望度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

導入部から世界観がほぼ絶望的な状況。地球は大半が汚染され、ほとんどの人が不妊になり、疫病も猛威を奮っていてヤバさMAX。そこから苦肉の策でクローン人間を作って生きながらえるも、今度はそのクローン人間の社会構造そのものに存続の危機に直結する脆弱性があった。

残酷度:3 ⭐️⭐️⭐️

クローン人間達の間で暴力は存在しない。よって、物理的な残酷描写はないのだが、<繁殖員>に対する扱いは、酷い。

恐怖度:3 ⭐️⭐️⭐️

読んでいる側としてはそこまで恐怖を感じなかった。

ためになる:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

人工的なクローン生物は今の地球上にそこそこあるが、人間のクローンはまだいない。実際にクローン人間がいると今日のような認証社会で機能しなくなるし、何より優秀な人だけ大量生産して社会を回すという、ややこしい問題が出てくるからだ。本作は、クローン人間を作る裏付けとして出産による人口増加が望めなくなったという「やむを得ない事情」を盛り込むことでクローン人間の存在意義を立証させている。

実際、クローン人間が生まれたら、そしてその顔が自分と同じだったら、そこはかとなく気持ち悪いんだろうなぁ・・・と予想はできるものの、本作のクローン人間のように、「他者を傷つけない」、「同族と寄り合っていないと不安に駆られる」、「自ら主体的に行動できない」などの弊害、歪みといった欠陥的要素を盛り込んだ作品は初めて読んだ。

そして何より重要なのは育った環境が人格に影響を及ぼすということだ。モリーも他の姉妹達と同じようにクローン人間の少女だったが、森の木々や川が彼女を変えた。マークもクローン人間だが、生まれついた環境によってやはり他の兄弟達と違い、自我を持ち創造性も備えた存在に成長した。

泣ける:3 ⭐️⭐️⭐️

モリーとマークの最後のシーンは涙ぐむ。

読後感:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

マークが「自らの意思で」クローン人間社会を離脱し、彼の望むような生活ができている事で、後味の良い読後感だった。

誰かに語りたい:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ディストピアでもあり、未来の話でもあり、それでもって今の僕達には関係ない話ではないテーマ。SFという大きな枠の中に「人間らしさとは」、「幸せとは何か」という普遍的なテーマが盛り込まれている。忙しく時間に追われる人にこそ、本当に大切なものは何か、を見つめ直せる作品なのではないかと思った。

なぞ度:1 ⭐️

特に謎を感じる部分は無かった・・・気がする。

静謐度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

モリーが一人森の中にいるシーン、屋敷にいる時など、美しく静謐な雰囲気が漂ってくる。

笑える度:1 ⭐️

笑えるシーンは、無い。モリーがマークに物語を聴かせたり、いろいろ教えているところを想像すると微笑ましくなる。

切ない:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

クローン人間を生み出したのが、そもそも人間が種を存続させるための苦肉の策。滅びを回避するため、リスクを背負い込んで実行した。クローン人間を作ったデイヴィッド達はもちろん、生み出されたクローン人間達のなかで、誰一人悪意はなく、誰かを傷つけようとする者すらいなかった。それを踏まえて読むと切ない。

エロス:3 ⭐️⭐️⭐️

クローン人間達は性行為をお互いの兄弟姉妹とする事で心の安堵を得る。マットで戯れる、と表現される程度なので、エロさは感じない。

データ

タイトル鳥の歌いまは絶え
原作タイトルWHERE LATE THE SWEET BIRDS SANG
著者ケイト・ウィルヘルム (Kate Wilhelm)
訳者酒匂 真理子
発行元東京創元社
コードISBN978-4-488-78301-3

まとめ

読み終わった時、「ああ!なんか色鮮やかな景色が眩しい・・・」という感覚を受けました。物語は人間とクローン人間との摩擦や、クローン人間の世代を経るごとに生じる「歪み」、そして人間とは何か、などちょっと重たいテーマでした。で、クローン人間達が作る社会は、一歩間違えれば全体主義にも迫る勢いで、個人の尊重は二の次で種の存続や組織の維持に重点を置かれる社会。そんな中、自我に目覚め、孤独を愛し、森と木々に安らぎを感じるモリーとその息子マークがその社会から離脱して生きてゆく。

もう読んでる途中、絶対「ああ、マークはクローン達にとっ捕まって殺されるんじゃないか?」とずっとハラハラしながら読んでいました。でも、そうなりませんでした(安堵)。

美しい表紙になんとなく惹かれて手に取った本作。パッと見、ここまで重いテーマだとは予想しておらず、面食らいましたが、ディストピアものは好きなので、途中から「ああ、そういう話か」と合点し読み進めました。

個人的にはクローン人間のモリーが森に入り、川の声を聴き、戸惑いつつも変わっていくところが好きです。それまで姉妹と寄り添い慰め合わないとダメだったのが、一人になりたがり、孤独を心地よく思うようになり、絵を描いたり、本を読んだりと変わってゆく過程が丁寧に描かれていて良かったです。こうしてモリーは「空っぽ」の人形ではなくなり、深みのある人間になる・・・。

これは今の僕達にも言えることかもしれません。生きるために機械的に働き、生きるために飯を食い寝る。何かを観察したり、想像力を発揮しない状態が長く続くと、僕らもクローン人間のように「空っぽ、中身のない」存在になってしまうのではないでしょうか。そうならないように、ちょっとでも一人になってじっくり何かをする、あるいは何もしない時間を確保したいところ!

都会に住んでいると難しいかもしれませんが、山に入ったり、森に行って自然の腕の中に抱かれるのは人間として必要な事なのではないかと思います。若い頃は「山なんて行って何が楽しいんだ?!」くらいにしか思ってなかったんですが・・・。

今では僕もたま〜に、無性にそのような場所に行きたくなります。そんな時は一人で木々が豊かな神社に行って何も考えずに歩くのです。本作のモリーのように木々の声は聞こえませんが、何か心身がクールダウンするような気がします。

さてこんな感じで、本作はSFではあるものの、自然への憧憬を思い起こさせてくれたり、今まで読んだ作品とは毛色が違って僕に取ってはとても新鮮でした。

気に入ったフレーズ・名言(抜粋)

だがな、デイヴィッド、だれの人生もせいぜいあと二年から四年でおしまいだとわれわれは信じているんだ。

ウォルト
鳥の歌いまは絶え p.26

どうしてもその気になってもらわんとな!なぜなら、あの赤ん坊たちがもうじき嚢から飛び出してくるからだ。そしてあの赤ん坊たちはわれわれの唯一の希望であり、そのことはきみも知っているからだ。われわれと消滅とのあいだに立ちはだかるのは、われわれの遺伝子、きみの、わたしの、シーリアの遺伝子だけなのだ。わたしは決して消滅を認めんぞ、デイヴィッド!負けるものか!

ウォルト
鳥の歌いまは絶え p.69

木々の声を覚えている?さびしくなったら、森に入って、木々に話しかけてもらうのよ。あたしの声も聞こえるかもしれない。あたしはいつもそばにいるわ、あなたが耳をすましさえすれば

モリー
鳥の歌いまは絶え p.223

これはあんたには決して理解できないだろう。いま生きている者のなかで、理解できるのは僕だけだ。愛しているよ。バリー。あんたはぼくと違う存在、違う生き物だ。人間じゃない。あんたたち全員がそうだ。でも、ぼくが、やつらを殺せるし、殺したいと思ったときでも、やらなかったのは、あんたを愛していたからだ。さよなら、バリー。

マーク
鳥の歌いまは絶え p.371

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