天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC

SF

こんにちは。ポメラニ・アンパンです。12月も後半です。今年もあとわずか!悔いは残さずいきたいところですが、なかなか人生ままならないもんです。悔いは残してもご飯は残さないように!

なぜなら今日紹介する作品のように、食事もままならない環境に叩き込まれたとき、人はそれまで自然に食べていたものがどれだけありがたいか直面するでしょう。

久しぶりに再開です!天冥の標の第七章『天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC』です。

この本を読んだきっかけ

天冥の標の第六章までが第一章「メニー・メニー・シープ」に登場した各種属・集団の生い立ちや歴史の流れを追ってゆくものでした。衝撃の第六章の後、人類は・・・地球圏はどうなってしまうんだ?と続きが物凄く気になる終わり方をしたので、読むのは必然でした。

これまでの感想は以下をご覧ください。

あらすじ

物語は第六章直後から始まる。外宇宙へ新天地を求めて旅立ったジニ号とシェパード号は互いに絡み合って小惑星セレスに墜落する。奇跡的に生き残れたアイネイア・セアキミゲラ・マーガスはスカウトの仲間たちに連絡をつける事ができた。彼らはセレスシティから地下400mに位置する重警備階層ブラックチェンバーにいて、とにかく人手が必要だと言う。

スカウトの仲間たちと合流したアイネイアとミゲラは、チェンバー内にあふれかえる子供達の姿に背筋を冷やす。シティから逃れてきた子供達を受け入れ、大人達は防衛のために上層階層に駆り出されている。スカウトのリーダー、ハン・ロウイーによってブラックチェンバー内の状況を知らされる。

「おまえたちを入れて52,244名。 男が24,905名、女が27,339名。 うち成人が1,029名だ」その他にはメイド・ボーイロボットが2,000体。ブラックチェンバーの規模と人口に絶句する二人をよそにハンは言う。チェンバー内には10の区画に分かれていて、ハンたちスカウトのメンバーは1区だけを担当。それでも5,000人以上の子供達の面倒を見なければならない現実を突きつけられる。

リーダーの少年ハン・ロウイー、サブリーダーの少女ベル・フレーメ。大柄な少年グロッサ・ランバート、お調子者だが天才少年ユレイン・ウェルフロイ、おっとりした少年ジョージ・ヴァンディ、元気が溢れ走り回る少女のナシュリンガ・エン・ケン・ラウンツィユリー、小柄だが誰のことも優しく見守る少女サンドラ・クロッソなどかつてのスカウトの面々がチェンバー第1区の秩序を保つために奮闘する。

彼らが最初に打ち立てたスローガン「14日間生き抜こう」をもとに、困難を伴いながらもスカウトの面々は結束しチェンバーの中の生活環境維持に全力を注いだ。何かの専門家でもなく、ましてや未成年の彼らを突き動かしたのは、スカウトとしての気高き精神「義と理と公に仕え、人を助けて賢く生き抜く」だった。

しかし、広大な空間とはいえ閉塞した場所で、なんの心配もなしに明日を迎える事ができるかわからない不安が5万人全員にのしかかる中、歪みが大きくなるのはいた仕方のない事だったのかもしれない。

ハン達がまとめている1区は秩序ある社会を構築できた。他の区もリーダーシップを発揮し、統率を取れる人間がいればそれなりの秩序だった状態を維持できた。しかし、そうではない地域もあった。限られた食料を独占し、力で支配する者が牛耳っている区、大人達がまとめているように見えたが、絶望した大人が自殺を図った区・・・それらの対応を行ったハン達スカウトのメンバーは、次第に他の区のリーダー達からも頼られるようになる。その結果、スカウトのメンバーが本来1区だけの管理を行うはずだったがブラックチェンバー全体の管理をせざるを得ない状況となってゆく。

計算が得意なミゲラは電気の配電について考えたり、農業担当となったアイネイアは食べ物の確保、生産に奮闘するといった具合に、それぞれの長所を鑑みた役割分担を敷いたスカウトの面々。彼らはそれぞれの役割と責任の重みに耐え、できる限りのことをやった。

その結果、年端もいかない少年少女達が、ブラックチェンバー内の居住区画拡張工事、電気の配電、食料製造装置の工事などに携わり、悪戦苦闘しながらなんとか生き延びるために生活を続けてゆく。

しかし、スカウトの面々が標榜した14日を経過しても外部から救助は来なかった。<救世群プラクティス>を除く地球人はブラックチェンバー内の人間しか生存していないのでは?それに気づいたスカウトの面々はさらなる重圧を感じてしまう。自分たちが地球人類の唯一の生き残りかもしれない、と

あらゆる管理と指揮をしていたスカウトはハンを大統領とし、他のメンバーを各役職に相当する大臣とした。結果、ブラックチェンバーは全てスカウトの決定事項の下に管理されるようになる。

その重すぎる重圧に耐えられない者が出てくる。ハンが限界に達し、アイネイアとミゲラは決別、サンドラはスカウトを離脱し、結果メンバーは分裂する。チェンバーの人々の生活は、もはやスカウトの手に負えない状態になっていた。人々はそれぞれの信念のもとチェンバー内で生きはじめる。

スカウトから離脱し市井の中を歩き回る元スカウトの少女、サンドラ・クロッソ。さまざまな人々を見つめ、この先チェンバーに必要なものを嗅ぎとり、機会を待つ。アイネイアも一時期彼女と過ごし、スカウトのやり方がこのままでは人々に指示されなくなることに気づく。

<救世群>偵察部隊の接近が確認され、ブラックチェンバーの存在が彼らに明るみに出ることを最も恐れていたスカウト一向。そのタイミングでサンドラは彼女を支持する者を味方につけ、大統領のハンに退任を迫り政権を掌握した。

サンドラの政権下で、危機は打開。人々はそれまで「生き残る」事を目標に生きてきた。しかし、サンドラは言う。ここが新しい世界であり、これからここで、幸せを育み、おいし物を食べて生きていこうと。ここをメニー・メニー・シープと名付ける、と

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

限られた空間、限られた食料、覚悟、閉鎖空間、いじめ、暴動、人工過密、未成年達、サバイバル、スカウト、政治、クーデター、未知なる危機、拡張工事、食料調達、電気設備、友情、信頼、亀裂、恋愛、セックス、子孫を残す、文明のリセット・リスタート、新世界

天冥の標、第一章「メニー・メニー・シープ」への橋渡しとなる本作第七章。これまで登場したあらゆる要素が結実してストーリーが第一章へと繋がる。

読みやすさ:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

少年少女達の決死の覚悟と足掻きを追え。どんどん読める。

ワクワク度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

第六章直後の時間軸で始まる本作。アイネイア、ミゲラをはじめ、第六章で登場したメンバーも続投し、先の見えない未来に向かって足掻く彼らの勇気にワクワク(と言って良いのか微妙だが)せざるを得ない。

ハラハラ度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

スカウトメンバーの決死の覚悟と決断、それがいかなる結果を生むのか誰もわからないまま物語は突き進む。全てが手探りの中行われるトライアンドエラー。そもそも非常に過酷な条件からスタートしたブラックチェンバーの行末は常にハラハラさせられる。

食欲増幅度:−1 ☠️

食料を著しく減退させる「ある物」が登場!味とかじゃなくて原料が・・・ね。食べなければ死ぬので、皆食べてる。うん、僕が同じ状況かなら食べられるかな・・・と考えたが「食べないと死ぬ」と言われない限り厳しい・・・。

胸キュン:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

アイネイアとミゲラの恋模様、そして間に入るサンドラ。二人の間には幾多の苦難があったが、物語後半の二人の姿にちょっとホッとした。

ページをめくる加速度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

一つを解決するとまた別のトラブル発生といった具合、スカウトの面々は休む暇もないほど、あらゆる不測の事態が起きる。結果、読者側も彼らを追ってページをめくってしまう。

希望度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

大混乱のブラックチェンバー生活に秩序をもたらし、人々を生き延びさせるスカウトの少年少女達に勇気づけられる。そして、そこを新たな世界として拡張工事し、子孫を反映させこの先も生きていこうと方針転換するところ、その結果人々が自発的位あらゆる産業に手を出し始め、少しずつ発展してゆくところは印象深い。

絶望度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

物語開始時の絶望感は凄まじい。大人がほとんどおらず、成人していない子供達だけで生きてゆかなければならない事、他の救助が全く見込めない事など、ハードモードすぎる・・・。

おまけにいつ襲ってくるかわからない救世群と冥王斑の病原菌。

残酷度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

暴動鎮圧の際、アイネイアが随伴させたロイズの倫理兵器が人間を容赦無く切り刻む。腕が首が飛び、ハラワタが飛び散る。

恐怖度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ブラックチェンバーの人口過密ぶりと先行きの見えない不安感が巧みに表現されているので、今作は今までの章とは全く別の「怖さ」がある。人の営みの中で、人の精神が臨界点を超えた時、雪崩を打つかのように瓦解しそうな危うい社会構造が恐ろしくもあり、リアルである。

ためになる:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

人の生活の中で、「決まった時間に決まった事をやる事」、「生活リズム」がいかに大切かがわかった。

泣ける:2 ⭐️⭐️

生き延びるためにブラックチェンバーの中でひたすら足掻いたアイネイアとミゲラたち。最後のシーンはそれまでの苦労を超えて、新たなる世界に生きる二人の姿に感慨深いものがある。

読後感:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

「ああ・・・これでこうなるのね・・・。」と今までの経緯から第一章への繋がりが認識でき、ストンと納得できる。これはここまで読んで初めて味わえる感覚。

誰かに語りたい:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

もしもあなたが未成年で、五千人以上の自分より小さい子供の面倒を見なければならなくなったらどうする?いつ敵が襲ってくるかわからない、救助が来るかわからない閉鎖空間で生き延びるための行動ができる?と自分に問いかけながら読み進めた。ほぼあらゆる局面で「自分ならこれできるだろうか?いや、厳しいな・・・」と思わずにはいられない過酷な条件下。読んだ人はもちろん、読んでない人にもこの疑問をぶつけてみるのは面白いかも?

なぞ度:1 ⭐️

特に気になる謎はなかったかな・・・。

静謐度:1 ⭐️

目まぐるしい展開、目まぐるしい人と意思とコミュニケーション。

笑える度:2 ⭐️⭐️

例のものを試食する際、笑えるというより読者としては「苦笑い」が出るかな。

切ない:2 ⭐️⭐️

別れはあったが、主要メンバーの別れは死別などではなく考え方の違いで離れていったので、そこまでの切なさは感じない。

エロス:2 ⭐️⭐️

アイネイアとミゲラの純愛シーンが少し。

データ

タイトル天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC
著者小川一水
発行元早川書房
コードISBN978-4-15-031139-1

まとめ

天冥の標第七章、いや〜、来ましたね!後半からは「ああ〜、なるほど。ここでこうなるのか!」とひとりごちながら読み進めました。

それにしても今作も第二章「救世群」に匹敵するほど重く、過酷なストーリーでしたね。人類が絶滅したかもしれない状況下で、ブラックチェンバーという広大だが有限な閉塞空間で5万人もの人々が生活する環境・・・。考えただけでも憂鬱になりそうな場所に加え、大多数が15歳に満たない子供というのがまた輪をかけて状況の厳しさをはね上げています。

そんな中悪戦苦闘するスカウトの九人を「がんばれ」と応援しつつも、うまくいかなくなった場面では「そうなるよなぁ。仕方ないよ。よく頑張ったよ」と思いながら、自分ならどうしたか、どうできたか、考えながら読みました。

とにかくこの第七章だけで映画一本できるほどの重厚なシナリオです。(これ前の章でも言ったかも)そして肝はこの第七章が第一章「メニー・メニー・シープ」へ至るエピソードである事。

なんとかブラックチェンバー内で生き残った人々は、一時的に生き延びるのではなく、ここを安住の地として定め、子孫を残し生きてゆく・・・そして・・・。

絶望的な状況を打破し、次なる希望を描いて人々は生き始める、本作天冥の標第七章は、絶望の中に希望を見出す再生の物語として勇気づけられます。

気に入ったフレーズ・名言(抜粋)

死ぬ前に、と思ったんだ。死んだら理屈もくそもない。愛を誓えるのは生きているうちだけだ。そして僕たちは今、明日を生きられる保証すらない

アイネイア・セアキ
天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC p.63

疫病の恐怖と別れの悲嘆の中で、感染判定の厳密さのみを考慮した手順を経て、五万人の子供たちがまったく機械的に未知の世界へ放り込まれた。初日の混乱の中で疲れ果てた彼ら彼女らは、全部悪い夢であればいいのにと願って眠りについた。


天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC p.84

四千人分の食事を運ぶのは大変だ。台車を使って一人が二十食運ぶとしても、二百人の大部隊ーオリゲネスから出すだけでも百人態勢になるな

ハン・ロウイー
天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC  p.112

仲間割れはやめよう、みんな。ここの九人があたしらの最後の砦だよ。これは絶対壊しちゃいけない。この先もっともっと本気の本気で、鬼にならなきゃいけないかもしれないからね。この九人が壊れたら乗り切れない。いい?ハンの言うとおり、生きるか死ぬかだよ

ベル・フレーメ
天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC p.144

僕らも吐き出しちゃだめだ。この製造実験で試すのは味や食感じゃなくて、腹を壊すかどうかなんだから。アイン、耐えようぜ。僕も付き合う。

ユレイン・ウェルフロイ
天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC p.152

好きな人に会うための、基本的な心得だ。快活なおしゃべり、少しだけ気を遣った身だしなみ、そして相手のための真心。君はデートなんかしたことがないだろう?

ノルルスカイン
天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC p.200

『できない』を私は見るの。団結できない。ルールを守れない。弱いものを助けられない。夫婦で許しあえない。みんなが許そうとしないそういうところに、私は目が向く

サンドラ・クロッソ
天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC p.190

行きましょう、アイン。今はもう、ここが世界よ。

ミゲラ・マーガス
天冥の標 Ⅶ 新世界ハーブC p.404

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