天冥の標 Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河

SF

こんにちは。ポメラニ・アンパンです。早くも9月になりましたね〜。時が経つのは早い!しかし、宇宙に思いを馳せると、宇宙はやっぱり広すぎますね!光の速さで○光年とかってのが普通ですもんね!光は299792458 m/s(≒30万キロメートル毎秒)=「1秒で地球を7周半回れるスピード」だそうですが、それで何年もかかる天体が数え切れないほどある・・・。う〜ん、宇宙ヤバイ!

なぜこんな話をしたかというと、今回紹介する『天冥の標 Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河』で、壮大な宇宙の描写があるので・・・。

さて今回も小川一水さんの本作、天冥の標という大きな物語に背骨が入ります!

この本を読んだきっかけ

天冥の標を先の第四章まで読み進めてきて、様々な勢力が登場してきました。救世群プラクティス酸素いらずアンチオックス恋人たちラバーズといった人間や人間ではない種族。第一章『メニー・メニー・シープ』に登場した役者が少しずつ揃いつつある中、本作第五章ではどんな展開が起きるのか楽しみで手に取りました。

これまでの章の感想

あらすじ

西暦2349年、小惑星パラスにあるオロナ盆地にて農場を営むタック・バンディ。彼は娘のザリーカ・ヴァンディと二人で日々の糧を得るため貧しいながらも懸命に生きていた。ザリーカは遊びたい年頃の15歳。嫌々ながらも父親の仕事を手伝う日々に辟易とし、街で暮らしたいと常々不満を抱えている。タックにしてみれば農場を営みながら娘と静かに暮らせればそれで良かったが、親の心子知らずはいつの時代もそうであるよう、娘には理解されない日常が続いていた。

決して裕福とは言えないヴァンディ農場だが地下に三層の農室と家畜室を持ち、床面積は100アール以上ある。年間を通していくつかの品目を栽培するが、この時期6月はドーンスピナッチ(火星ほうれん草)を栽培している。本日出荷分を選定し、簡易的な宇宙船=タイプKに載せて市場へ向かおうとした時、ザリーカが逃げ出し街へ行ってしまった。脱走自体は初めてのことではなく、タックは放っておくことにした。今は荷台に積んだ野菜を一刻も早く市場に運ばなければ。

市場から自分の農場へ帰っても悩みの種は尽きない。農夫仲間から聞いた大手の規格品が出回れば利益を上げるのが難しくなる。しかし、タックには一つの希望があった。それは明け星というリンゴだ。何度も育成に失敗しているが、これが成功すれば道は開ける、そんな思いに浸りながらも思考を現実に戻すとやはり世知辛い。

この時代の通貨はKWhキーウィという電気なのだ。宇宙では電気が貴重であり、それがそのまま通貨とされている。コムギアで電子決済を行うのが一般的だ。金がないと悩んでいるとタックのコムギアに通知が入る。ザリーカから迎え要請だ。娘のわがままに苛立ちこっぴどく叱りつけてやろうかと思いながらも、それができないとわかっている自分になんとか折り合いをつけ、迎えにいくために再びタイプKを出す。タイプKを飛ばして娘が待つスポットに向かう途中、救難信号を受信する。

小型の宇宙船が不時着しているのを見たタックは客室の中で一人の女性を発見する。重力が地球ほど重くないパラスでは、飛行機が墜落しても生存者がいる事が多い。彼女はタックの呼びかけに反応し、目が合った。その時、レスキュー隊が到着し、てきぱきと彼女を救護施設まで運んでいく流れとなったのでタックはその場をレスキュー隊に任せて娘を迎えに行った。

二週間後、タックは農場主であるマスジドに呼び出されある要件を突きつけられた。タックが救出した女性を預れと。イケ好かない男のマスジドだが、農場主に逆らえず渋々要求を受け入れるほか無かった。その女性、アニー・ロングイヤーはすっかり回復し、マスジドの庭園で植物を観察していた。金髪で上背は170cmほどにもなる北半球西洋あたりの出身だろう。彼女は宇宙の自由な農業について調べたい事があると、自らマスジドにタックの農場に行きたいと希望したという。こうしてタック、ザリーカ父娘の家族の中にアニーが入ることになった。タックの予想通り、ザリーカは激しく反発した。

アニーによると地球は遺伝子操作された植物や生物が屋外で拡散するのを防ぐため、屋外で作物を作ることも、動物を飼うこともできなくなったという。地球では全農作物がシェルター内で完全に管理された形で作られる。それはレッドリート優占に起因する。

ポメラニ・アンパン
ポメラニ・アンパン

レッドリート:稲と小麦を掛け合わせた稲麦。鉄を蓄えて真っ赤に染まり、低気温・低気圧の二酸化炭素大気の中でも盛んに育つ。酸素も、食事も人間に提供してくれる・・・はずだった。

しかし、漏洩事故が起き、瞬く間にレッドリートが火星全土を覆った。それから160年経過したタックの時代になっても、不毛な赤い草原が続いている場所はあるのだ。

地球側からしてみれば、品種改良した植物の取り扱い方を間違えれば星を滅ぼす、そう捉えられ、操作生物は核兵器並みに取り扱いが厳重になったとアニーは言う。それに比べ宇宙はまだ大らかなのだそうな。

アニーはタックやザリーカの心配をよそによく働いた。土の汚れを気にせず重量物も積極的に運んだ。服装やファッションには無頓着だが、農業への知識欲はタックが何か裏があるんじゃないかと訝しむほどだった。そんな一風変わった女、アニーをザリーカは気味悪がった。自分と全く違う人種の女を、15歳のザリーカが理解できるはずもなく、アニーを避けるため、口実を作っては外出する日が増えた。

ザリーカが街でうろつく場所はエディントンピットという商業地区。そこは物理通貨が使用できるエリアなのだ。この時代の一般的な決済方法であるコムギアを使ってのやり取りでは、いつ誰がどこで何を買ったかが記録に残る、つまり足がつくのだ。しかし、物理通貨はその心配がない。ザリーカはそこに注目し、このエリアで羽を伸ばすことにしていた。幸いこのエリアにはお洒落なショップやレストラン、スタジオ、ゲームセンターなどが集まっている。ザリーカがエディントン・ピットに来る途中に助けた少女アモク・ズィーリャンカは、ザリーカと同じ学校の生徒だ。しかし、ザリーカは通信制で講義を受ける事が多いのに対し、アモクはリアルで学校に通っていた。この時代、リアルに学校に通える方がステータス。あまり親しくなかった二人だが、これを機に親友になる。

タックはアニーの素性を調べ、少なくとも警戒に値する人物でない事がわかった。以後、彼女の質問に答えながら農業に関することはもちろん、近年のメインベルト近郊の情勢について、自分がリンゴに希望を持っている事、MHDマツダ・ヒューマノイド・デバイシズの台頭とMHD提携企業のミールストーム社の脅威についてなど、自分の身の回りの事を語った。しかしタックとザリーカには、まだアニーの知らない秘密があった。

タックの農場で、機械破損による漏水事故が起き、最下層である地下三層目が浸水した。ふてくされて地下三層にある家畜小屋に籠もっていたザリーカは、汚水を被ってしまった。浸水の危険を察知して助けにきたタックと汚水と汚物を被ったザリーカは、からくも無事に退避できた。

そんな感じでタック、ザリーカ、アニーの三人は日々大変ながらも懸命に生活をした。ザリーカとアニーは互いの距離を少し縮め、打ち解けた。しかし、ザリーカの街へ行きたいという思いは少なくなるどころか増えていった。タックは自分の農業と娘を守るためには、娘の行動を禁止するだけでは解決にならないと思い、時が来たら家を出してやると娘に告げる。だが、それもうまくいかず期待を裏切られたザリーカはついに家出してしまった。

ザリーカは家出し、街でアモクが働き始めたスタジオに転がり込んだ。同い年の女の子の共同生活は思いの外楽しく、アルバイトから帰ってきて夜、他愛もない話が凄く楽しく思うザリーカだった。アモクの父は裕福な紳士で、タックがザリーカを心配するよりもかなり強い度合いでアモクの交友関係を心配していた。そのため、娘に気づかれぬよう監視カメラとオペレーターを24時間張り付かせている。以上の話は、アモクの素性を調べようとしたタックが逆にアモクの父から聞かされた。タックは黙って任す事にした。

タックとザリーカ、二人が抱える大きな秘密。それはほんのわずかな人間しか知らない。その秘密こそが、タックがザリーカの身を案じる理由、そしてわざわざパラスで農業を営んでいる理由なのだ。だが、タックの不安が的中する事態が起こる。ザリーカが何者かに拐われた

ザリーカを拐った連中は、なんとパラスから離れて何処かを目指して航行中とのこと。タックの過去の因縁から生じたザリーカの誘拐、タックは武装し娘を取り戻すために出撃する。

ノイジーラントと縁がある農夫、テルッセンの力を借りて娘を追うために宇宙へ出る。果たしてタックは娘を取り戻せるのか・・・。


6500万年前、どこかの星のサンゴのような集合の中で、被展開体ノルルスカインの自我が目覚める。長い長い時間をかけて、自らと周りの環境を認識し、サンゴの集合を通じて影響を及ぼせるようになった。ノルルスカインは、生き物に寄生するように展開される存在、つまり被展開体。自分の肉体は持たず、意識だけが存在する。ノルルスカインはサンゴの集合体を使って、自分以外の生物とコンタクトする事を学ぶ。認識できる世界は広がる。

別の存在がコンタクトしてきた。まだ若かったノルルスカインは、敵の術中にハマり、攻撃される。しかし、ノルルスカインは意識を短期間に並べて流し、後にまた統合する意識流制ストリームという技を習得していた。これにより、攻撃された彼の本意識流は失われたが、副意識流サブストリームが生き延び、彼の存在自体は失われなかった。こうして、長く時をかけてノルルスカインは知見を蓄えてゆく。

ノルルスカインはミスチフ(いたずらっこ)なる存在に出会った。そいつも被展開体だという。ミスチフ曰く、ノルルスカインはいくつもの意識流を分散統合し、かつ大きな集合個体から小さな集合個体など大きさ関係なしに意識流を展開できる。だから、それらの集団個体のどこかが削られても自動的に意識の一体化がなされるのだと。このように、そいつはノルルスカインが知らない知識を色々と教えてくれたが、様々な意地悪を挟む事を忘れなかった。ノルルスカインはそいつの行動に振り回されっぱなしになるも、共に旅をする中で仲間意識は芽生えていた。そいつとは一時的に別行動をとった。ミスチフはノルルスカインにとっては特別な存在だ。いたずらによっては腹が立つことも多かったが、たまにびっくりするほどしおらしくなる事もあり、それでいて自分の信念は曲げない奴だった。魅力的な奴。

しばらく一人で宇宙の様々な場所を旅し、のちの人類が宇宙を旅する際に役に立つ知識までも習得したノルルスカイン。しかし、旅すればするほど、多くの命はどこでも戦と飢えに晒されると知った。命の悲惨さが宇宙を作っているかと思った時期もあった。しかし、協力して懸命に生きている種族もあり、それらには積極的にコンタクトした。そうして自分の副意識流サブストリームを様々な星に根付かせ、協力な被展開体に成長していった。そしてその分多くの悲しみをも知った。そんな時、ミスチフから再会を願う連絡が来た。自分も多くの仲間が死んで悲しい。でも、頼りになる仲間ができたから見せに行く、と。

ミスチフが頼れる仲間として紹介したのは、植物を基幹とした存在オムニフロラだ。オムニフロラは巨大な黒い蔦が伸びる、一見ただの植物のように見えるがとんでもない性能を持っていた。植物が養分を運ぶ管すなわち師管が、半導体でできている。もともと空気が薄い寒暖差の激しい場所で育ったオムニフロラは、進化の果てに温度を自在に調整できる能力を得た。そしてもう一つ、オムニフロラ自身で液体ヘリウム4を生成できるようになった。液体ヘリウム4は超流動の特性を持つ。超サラサラの液体で、一度ポンプすればどこまでも流れてゆくのだ。オムニフロラは自身で極低温を維持しながらヘリウム4を自らの半導体でできた師管で流すことができる、つまりどこまでも養分を運べるのだ。その結果星の生態系を掌握。他の生物たちの抵抗があったが、これも最速で流れる極低温のヘリウム4が功を奏した。ダメージを受けた場所は腐って落ちるも、その情報はヘリウム4によって素早くオムニフロラ全体に行き渡る。他の微生物たちは、極低温で流れるオムニフロラの師管を使えないので、オムニフロラを殲滅する前に、オムニフロラの方が耐性を持ってしまう。こうしてメキメキと耐性をつけ、生態系を飲み込んで無限に成長するオムニフロラ。ミスチフは言う。オムニフロラがあれば強い力で種族を絶対に絶滅させずに守り抜けると。しかし、ノルルスカインは気づいた。ミスチフが言う種族を守るという概念の中には、個としての尊厳は一切考慮されていない事を。そしてミスチフがオムニフロラに取り込まれてしまっている事を。

その後のノルルスカインは侵攻するオムニフロラとの戦いに忙殺される。いくつもの副意識流サブストリームを作って対抗するも、多くの仲間が死んだり取り込まれたりしてゆく。想像を絶する長き時間を、オムニフロラがまだ侵攻してきていない種族と交わったり、副意識を構築したりでなんとかノルルスカインは対抗措置を見出そうとしていた。

オムニフロラは悪意のない、生存本能を持つ生態系そのもの。生存本能でどんどん増えていく事に何の疑問もない。そして、植物をベースとした存在なので種族の存在は最大限守るが、個体の尊厳などは一顧だにしない。侵攻される側からすれば言葉が通じない虐殺者にすぎない

時が経ち、ノルルスカインが地球圏に到着した時には、オムニフロラも既にいたのだ。木星近く、全長8キロにもわたる巨大遺跡ドロテア・ワットにて、風力発電しながら力を蓄えていたのだ。

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

農業、品種改良、遺伝子操作生物、思春期の娘、反抗期、父娘、家族、大企業、電気通貨、リンゴ、葛藤、トラブル、家族が増える、地球以外の天体での生活・・・。

命の始源、宇宙のどこか、銀河、銀河団、人とは異なる存在、コミュニケーション、弱肉強食、寄生、被展開体、宇宙の広さ、生命の速さ、超新星、移民団のパラドックス、覇権戦略、生存本能、侵攻・・・。

本作は農夫タック・ヴァンディにまつわるエピソードと、被展開体ノルルスカインのエピソードの二本立てになっている。タックの章の間にノルルスカインのエピソードが挿しこまれているので、読者はタックとノルルスカインの話を交互に読んでいく。

今までの章に比べてハードSF色が強い。特にノルルスカインにまつわるエピソードに関しては。Google検索を片手に読まなければ即座に頭に入ってこないワードや現象についても描かれている。しかし、噛み砕いた説明もあるので読み進めて『もうちょっと知りたい』というワードにぶち当たったらググれば何の問題もなく楽しめる。

読みやすさ:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

思春期の娘の反抗期とそれに悩む農家の父親というドラマを観ているような感じで進むタック編。壮大な宇宙や生命に関するノルルスカイン編。お互いがカンフル剤となっていて、熱くなってもクールダウンしながら読める。ノルルスカイン編は先述したように多少難解な語彙が多い。

ワクワク度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

地球以外の天体で農業を行う大変さが丁寧に描かれており、それだけでワクワク。加えて、ザリーカの街での行動や出会いなどもワクワクさせてくれる。

ノルルスカイン編に至っては、何が起きるか全く予想ができないので、これはこれでワクワクする。

ハラハラ度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ザリーカをつけ狙う輩が現れた際はハラハラする。他にはタックが、農業仲間のケラーから、忌まわしきレッドリートが出たと報告を受けた時。

ノルルスカイン編では、やはり他の存在との攻防にハラハラする。

食欲増幅度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

タックが料理した『羊とポテトとリーキの炒め物』は美味しそう!あえてパリッと焦げ目をつけるタックのこだわりも垣間見れる良いシーン。

冒険度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

タック編ではそこまで冒険要素は無い。ザリーカが街へ行ったあたりと、物語終盤。

ノルルスカイン編では、広大な宇宙を駆け巡り様々な種族とコンタクトしたという意味では大冒険。

胸キュン:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

タック編は父、娘、そして同居する事になったアニーを含めた3人の家族の絆を感じる事ができる。

ノルルスカイン編では、多くの存在と交流した事であらゆる喜びや悲しみを知り、万物の敵と壮絶な戦いを繰り広げている彼の心意気に胸が詰まる。

ページをめくる加速度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

一難去ってはまた一難と、トラブル続きのタック編。特異な存在として目覚めたノルルスカインがだんだん強く賢くなって、敵が現れる展開。どちらもページをめくるごとに続きが気になる。

希望度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

タック編はなんだかんだで良い話。リンゴにも希望を感じさせてくれる展開がある。ノルルスカインはちょっと大変そうだが。

絶望度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

絶望的にヤバいのはオムニフロラ。タック編ではそこまで絶望的な状況や描写はなかったか。あえて言うなら冥王斑の影響はまだ衰えていない事。

残酷度:2 ⭐️⭐️

残酷描写はほとんどなかったように思う。ノルルスカイン編では他の種族を滅ぼしたりという話だが、これは残酷とはまた違う話。

恐怖度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

恐怖の存在、オムニフロラ。あらゆる宇宙に生きる生命体を取り込んでしまう。こんなのに勝てるのか?

ためになる:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

人は、忘れたい自分の過去が愛する者にも影響を与える事は往々にしてあるのだな、と改めて思った。だから毎日、誠実に生きたい。難しいが。

泣ける:2 ⭐️⭐️

タックの悔しさが滲み出てタイプKのパネルを殴るシーン。男としてちょっと共感できる部分もあって、泣きそうだった。

読後感:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

タック達の話はこれで終わり。幸せになって欲しいと思わせてくれる良い家族。ノルルスカインは頑張れ、としか言いようがない展開(笑)。最後に異星人の襲来を示唆する描写が。次が楽しみになる終わり方。

誰かに語りたい:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

農業やっている人や、遺伝子工学、宇宙開発している人は是非読んで感想を聞いてみたい。

なぞ度:3 ⭐️⭐️⭐️

アニーが昔、羊の脳症で一般的には人間に罹らない病気、スクレイピーに罹った事がある、と言ったが、その詳細はここでは全く触れられていない。

静謐度:1 ⭐️

みんな忙しくドタバタしている。

笑える度:2 ⭐️⭐️

ノルルスカイン編で唐突にコミカルな表現に出くわすので、クスリと笑ってしまう部分がある。

切ない:2 ⭐️⭐️

あまり切なさを感じる描写は無かった。

エロス:1 ⭐️

無い

データ

タイトル天冥の標 Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河
著者小川一水
発行元早川書房 
コードISBN978-4-15-031050-9

まとめ

天冥の標第五章、読み終わりました〜。またまた前作とは打って変わった雰囲気の話でした。まあ、前作第四章が特殊すぎってのもありますが(笑)。

本作は小惑星パラスで農業を営むタックと娘と住み込みで働き出した女の人とのほのぼのスペースファーマー物語〜〜〜・・・・な訳あるか!!

地球以外の天体で農業をやるというシチュエーションを丁寧に描いていて、その困難さ、地球とは違う環境での気の使い所など、まるで本当にやった事があるかのような臨場感です。特にレッドリートが出て来た事で皆農家仲間が集まって検証するシーンはサスペンス映画さながらです。その臨場感があるから、タックが途中で作る料理も美味しそうだった!!羊肉=マトン、僕も大好き!

それにしてもザリーカ、良い娘だよな〜。反抗しながらも親父の仕事の重要性や、見逃しちゃいけない農園のチェックポイントなんかをちゃんとわかってる。憎まれ口を叩いても「パパ!」って言うんだもん。

一方で地球上がりの女、アニーも魅力的だ。身長170cmあるヨーロッパ系の金髪。遺伝子をいじくるのが実は得意というスキルの高さ。そんなアニーは、タックの農業にかける直向きな姿勢に惹かれていく。・・・正直ここまでで立派にドラマになっているんです。

しかしそこは天冥の標!それだけじゃ終わらない!本作第五章には、タックの他にもう一人主人公がいます。断章で語られる彼、ノルルスカインです。ノルルスカインは今までの天冥の標第一章からほぼずっとノルルスカインという名前や、彼を匂わせる片鱗を醸し出しています。彼こそ、まさに天冥の標の狂言回しかつ裏の主人公と呼んでも差し支えない存在です。なんせ天冥の標がこんな事になっちゃう大元の敵存在オムニフロラを正しく察知できるのは彼だけでしょうから。

本作第五章で、ノルルスカインの出自が描かれ、物語の背骨が入りました。残すところ、第一章に登場していて、未だに登場していないのは「石工メイスン」ですね。あの虫のような種族だけはまだ出てきていません。実は、本作最後の方にそれを匂わす表現があります。おそらく次の章で出てくるでしょう。

という事で、一気に厚みが増した天冥の標。ここからが正念場です!

気になったフレーズ・名言(抜粋)

食料は貴重だが、もっとも重要なものじゃない。重要なのは適温の水と空気、それに何より住むべき空間でね……

タック・ヴァンディ
天冥の標 Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河 p.78

そうよ、救世群が保険契約上の不利を負わされるのは初めてじゃない。彼らが普通に暮らす努力をして、社会がそれを受け入れる形を作りかけるたびに、何かしらの不幸が起こって挫折する。そんなことがこの五十年だけで四度も起こった。これで五度目。それにずっと耐えているの、五十年どころか、何百年も前から

アニー・ロングイヤー
天冥の標 Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河 P.225

オヨメサンって、あれ?昔の地球で、女の子を白い布に包んで男へ渡す風習があったっていうー

アモク・ズィーリャンカ
天冥の標 Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河 p.231

もはやノルルスカインはいかなる悲嘆にも打ちのめされず、いかなる敵に対しても絶望せず、いかなる仲間に対しても油断せず、そしてまた想像を絶するほどの年寄りであるのに、いかなる傷をも恐れないため、幼児のようにものごとに接する無防備さをも備えた。


天冥の標 Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河 p.313

頼む。帰るべき場所がほしいんだ。それはおれが、昔もっていなかったものだ。

タック・ヴァンディ
天冥の標 Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河 p.326

羊をたくさん飼いなされ。羊は乳も毛も肉も取れ、草をよく食べる。それに不幸を祓ってくれる。

哨戒艦ウィンダーレの乗組員
天冥の標 Ⅴ 羊と猿と百掬の銀河 p.348

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