天冥の標 Ⅱ 救世群

SF

こんにちは。ポメラニ・アンパンです。6月に入り、本格的に暑い日が出てきましたね。

外で働く人は熱中症に気をつけてください。僕も以前、夏の中元の時期に宅配をやっていて、自分が喉が乾いているのにお客さんの水を運んでいて、拷問かと思いましたよ。とにかく、ここ2〜3年の暑さは殺しに来てるので過去の経験から「俺は大丈夫だ!」とか「ワシが若い時はこのくらい我慢できた!」とか言わんようにしましょうね!冗談抜きで死にますよ!もちろん、室内で働く人も適度に水分を取ろう!乾くの良くない!

前置きはこのくらいにして今回も前回に続き天冥の標です。『天冥の標 Ⅱ 救世群』です。さあ、いよいよ壮大な天冥の標サーガの事の発端が描かれるのです。

この本を読んだきっかけ

『天冥の標1 メニー・メニー・シープ』を読んでこれを読まないわけがないでしょう。

メニー・メニー・シープの感想はこちら↓

あらすじ

ニハイ族の男、ジョプが目を覚ました時、村には自分以外誰一人いなかった。いや、いなくなった。皆、同じように苦しみ悶ながら力尽きた。信仰する煙霧の霊ガイマーの仕業かと思ったが、そうではないようだ。クトコトという秘密の存在が原因だと考えたジョプは、クトコトを始末する。誰の声も聞こえなくなった村で、生きていく理由を失った彼は、足を滑らせて川に転落したのを期に、命を失っても良いと思った。だが、運命はそれを許さず、ジョプは流された先の海で、とある船に拾われた。

〜〜

感染症専門家の児玉圭吾こだまけいごが、女の子とデートを楽しんでいる最中に仕事仲間の矢来華奈子やらいかなこから緊急呼び出しがかかった。未知の感染症が発生し、現場に直行しなければならないと。その感染症は最も危険な第一類感染症、つまりペストや天然痘と同等の警戒を要するものだ。現場は、西太平洋、地理的にはフィリピンより東に位置する島国だ。

パラオは美しい自然が豊かな島で、リゾート地として有名だ。しかし、急行した児玉と矢来、そして現場で合流したJICA(国際協力機構)の弥彦進弥やひこしんやが見たのは、およそリゾート地にはそぐわない光景だった・・・。

屋外に転々と転がる死体。死体は身体のいずれの皮膚も赤く膿み、潰瘍が確認できる。さらに、両手を自分の胸の前に伸ばしたまま事切れていた。顔には後ろから目隠しをされたかのような黒い斑紋がある。

次に優先事項として生存者を探す児玉と矢来。ホテルに入り、くまなく部屋を探していると一人の日本人女性が苦痛にその身を苛まれながらも児玉の呼びかけに応えた。檜沢千茅あいざわちかや・・・家族で旅行に来ていた日本の女子高生だった。

千茅の目は瞳孔が定まっておらず、眼病のようにとめどなく涙が流れ、目やにがビッシリこびりついている。体は赤く腫れ上がり全身が痛いと言う。児玉は緊急の措置を行う。この時、児玉は無防備な千茅につい欲情し、乳房を握ってしまう。彼は自責の念を抱くも、これも感染症の症状の一つによるものだとは、まだこの時誰も把握できてはいなかった。

弥彦やフェオドール・フィルマンの協力を仰ぎながら、疲れた体を奮い立たせて仕事を続ける児玉。ふとタバコを吸うために外に出ると、場違いな黒人男性が千茅の部屋のそばにいた。千茅の方を心配そうに見つめている。児玉は驚きつつもその男をよく見た。顔には件の病気の特徴である斑紋があった。だが、いかにも健康には問題ないように見えた黒人はジョプと名乗った。ここで児玉は気づく。ジョプが病気にかかり、そこから回復した者だと。そして、回復した者でもウイルス感染能を保持している。そして、それは千茅が回復して日本に帰国したとしても隔離される運命にあると悟った。

その後、件の病気・・・冥王斑めいおうはんと呼ばれるようになった伝染病は少しずつ世界に広がってゆく。日本に帰国した千茅を待ち受けていたのは、BSLー3(バイオセイフティレベルー3)、いわゆる国内で最も厳重な感染症対策用隔離施設への入所だった。

ポメラニ・アンパン
ポメラニ・アンパン

冥王斑(正式名称:眼縁黒斑性全身性炎症熱)】

ウイルス性

症状:全身に腫れて赤く変色、痛み。脇の下のリンパが肥大。涙が大量に出る。顔に黒い斑紋が現れる。フェロモンに近い香りを発する。

経過:感染し6日の間に眼縁黒斑が現れ、熱が出る。そしてリンパ腺など体が腫れ、涙を大量に流し、死に至る。

致死率:発見当初は95%。時を経るごとに少しずつ低下の傾向。

基本再生産指数:8〜10

感染ルート:涙の落屑による飛散、落下した涙から出る微粒子による空気感染

回復した後:顔の黒斑は消えず、感染能も消えないため、例え症状が無くなり回復しても、隔離は避けられない。

〜〜

それまで何不自由なく学生生活を送っていた千茅。クラスでもいわゆるメジャーグループに属していた彼女は、楽しく心地よい仲間に恵まれ最高の学生生活を送っていた。そんな折、両親と旅行に行ったパラオにて冥王斑に感染。両親は助からず、彼女が日本人第一号の冥王斑患者とされ、厳重に隔離される。それまでの彼女の生活は一変した。見舞いに来てくれていたクラスメートは次第に来なくなった。自分がすでにかつての『グループ』に属する事ができないと気づき、深く傷つく千茅。そこに、以前喧嘩をし、以後しばらく特にコミュニケーションをとっていなかったクラスメートの紀ノ川青葉きのかわあおばが訪れるようになった。

青葉は冥王斑についての情報が掲載された新聞や雑誌、インターネットの記事などを持ってきて千茅に渡す。最初は相手にしなかった千茅だったが、ある時青葉と正直な気持ちをぶつけた事によって、青葉を認め、さらに彼女が持ってくる情報に興味を持つようになった。自分の運命を変えた病気・・・冥王斑について千茅は見識を深めていく。その結果、彼女は次第に増えてきた冥王斑回復者たちのコミュニティを立ち上げ、その中心的な存在になっていった。

冥王斑の患者群(プラクティス)は増え続けた。こうなると国内の隔離施設は足りなくなったため、秩父などの郊外に特定患者一時滞在施設『合宿所』が全国で6カ所用意された。広い敷地の中で、外の空気に触れる事ができる人権に配慮された施設。しかし、そこにも患者群(プラクティス)を排斥しようとする人々が心ない言葉を吐く。施設は厳重に警備を敷き、有刺鉄線で周囲を囲んでいるが、それでもフェンスの外からそういった人々の誹謗中傷が飛んでくる。

千茅もその合宿所で他の回復者達と過ごしていた。彼女は国内第一号回復者として、マスコミやニュースである事に無い事を書き立てられた。マスコミからの取材にも気を配って回答した。そういった経験が彼女を合宿所の天使であり女主人にした。彼女が意図してそうなったのではなく、他の回復者から半ば信仰に近い形で畏敬の念を集めていた。特にジョプは自分がきっかけで千茅をはじめ多くの人を苦しめたと知っており、千茅と共に苦しみたいと思っている。彼は、どんな時でも千茅のそばにいて、千茅もジョプにだけは心を許していた。

しかし、とある事件をきっかけに千茅は天使ではなくなる。千茅とジョプは合宿所を脱走し人里離れた村で過ごしていた。だが、結局居所は見つかってしまい、患者群(プラクティス)が次なる隔離場所に移される事になる。その場所は日本から遠く離れたコスタリカの小さな島、ココ島だった。

ココ島での生活は、日本の『合宿所』と比べ、劣悪な環境だった。日本人達はメキシコ人に場所を追いやられ、酷い場所で生活していた。後から到着した千茅は、この状況に異を唱えるべくメキシコ人のリーダーに直談判し、患者群(プラクティス)は外の人間と取引し、自分達がここにいる事を示そう、と呼びかける。こうして、千茅はここでも権力を掌握。後に、自分達の呼称を救世群(プラクティス)と改め、自分達の血液が冥王斑に対するワクチン生成に必要だという事を逆手に取り、救世群(プラクティス)以外の人と取引を主張するようになる。

〜〜

冥王斑のパンデミックは押さえ込まれつつあるものの、まだ完全に撲滅できてはいない。そんな中、児玉と矢来は、救世群(プラクティス)とその他の社会組織の調停、サポートを行う冥王斑対策委員会の下部組織、日本患者群連絡医師団(リエゾン・ドクター)の要員として現地へ向かう。

〜〜

冥王斑という病気が、世界を変えた。人々はどうなっていくのか。

医師達は・・・

患者達は・・・

世界は・・・。

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

混乱、混沌、人間の醜い部分、不毛なる戦い、見えない敵、差別、隔離、絶望、絶望に抗う、医師、研究者、謎の生物、苦痛、信仰・・・。

これらのキーワードが本作を示すところ。『メニーメニー・シープ』のごった煮感とは打って変わって現実味がある本作。なぜなら天冥の標の全ての大元は、本作の冥王斑がきっかけだからだ。

読みやすさ:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

主人公が日本人、時代も僕らのいる今とあまり変わらない。新宿、パラオといった、今現在も存在する場所の名前も出てくる。『メニー・メニー・シープ』に比べ、作品オリジナルの固有名詞が少なく頭に入りやすいのでスラスラ読める。

ワクワク度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

ワクワク、と言うと語弊があるかな、本作は。先の展開が気になる、という意味では星9つのレベルだがワクワク!というポジティブなイメージとは違う。

ハラハラ度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

目に見えない、今まで誰も遭遇したことのない未知のウイルス性感染症。一歩間違えれば治療にあたる側も命を落とす危険がある。そんな中で救命活動にあたる児玉ら医師達の描写がリアルで、常にハラハラ。

また、患者側である千茅の視点においてもハラハラする出来事が多い。

食欲増幅度:1 ⭐️

食欲が湧くシーンは無かった。読むたびに、僕の方がどっと疲れる。でも、次が気になって仕方がない。

冒険度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ジョプの故郷に、冥王斑の自然宿主を探しにいく時は、まさに冒険。ワメナからジャングルに入っていき、大自然の中を進んでいくのだ。

胸キュン:3 ⭐️⭐️⭐️

いわゆる恋愛的な胸キュンはほぼ無い。胸キュンというより、読んでて胸が痛くなる描写は多い。手を尽くしても死んでゆく児玉の心情や、病気にかかっていない人からの差別、偏見、心ない言葉を受ける千茅の心情など。

血湧き肉躍る:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

全てのシーンで目が離せない。

希望度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

児玉や矢来らの奮闘の甲斐もあり、冥王斑は少しずつ収束に向かう展開になる。それでも代償はあまりにも大きかったが。冥王斑患者としての千茅は、文字通り希望の存在だった。だが、その千茅も変わってゆく。不穏な空気を残したまま物語は進んでゆく。

絶望度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

目に見えない悪魔である冥王斑。感染した者を苦しめるだけでなく、回復した後も感染力を消さないため、患者は感染していない人とは隔絶される。

救う側も力が及ばない絶望、救われる側も例え回復しても人生をねじ曲げられる絶望感・・・。それでも人は生きる。

残酷度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

暴行シーンは結構キツイ。

恐怖度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

人々の無意識下、あるいは本能から来る『ケガレ』思想。真に恐ろしいのはこれだと思った。実際、新型コロナウイルスに感染した人、その家族が誹謗中傷を受けたり、出社を制限されたり保育園の利用を断られたりする例が出ている。

冥王斑患者群も同じく、言われのない差別を受ける。本当に恐ろしいのはウイルスではなく、同じ仲間だった人間を隔ててしまうその『思考』ではなかろうか。

ためになる:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

本作は新型コロナウイルスの蔓延よりも数年前に書かれているが、学びはたくさんあると感じた。今まさに、僕らは未知のウイルスによって生活を変えられている。ニュースやインターネットから情報は得られるとはいえ、実際の医療従事者や感染した人、その家族の気持ちは、感染してみないとわからないだろう。

本作は児玉や矢来達『医療従事者』の立場と千茅ら『感染症から回復した人』の両方の視点が描かれている。もちろん、新型コロナウイルスとは症状や状況も違うし、何より冥王斑は架空の病気なので同じではない。だが、先に挙げたように『感染から回復した人が言われのない差別をされたり嫌がらせを受ける』といった共通項もある。そのような点で、僕らがとるべき態度やこれからどうするか、など学びはあると感じた。

泣ける:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

青葉の前で大泣きする千茅に、こっちもうるっときた。

ハッピーエンド:2 ⭐️⭐️

絶望的な状況でも救世群(プラクティス)のために「患者群連絡医師団(リエゾン・ドクター)」としてフォロー体制が整いつつある状況。

本当に大変なのはここから何だけど、ちょっと未来が開そうな終わり方。

誰かに語りたい:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

読んだ人はぜひ、語ろう。Twitterにでもここのコメント欄でも何でもいいので語りたい。

なぞ度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

最大の謎は冥王斑自然宿主として出てくるクトコトという6本足の猿。調査の結果、地球の類人猿の系統樹から外れている、つまり宇宙から来たとしか考えられないと言われている存在。この謎は本作では解明されない。

静謐度:1 ⭐️

静謐さを感じるシーンは冒頭ぐらいかな。

笑える度:1 ⭐️

笑えない・・・。

切ない:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

千茅が児玉に対する思いに気づくと同時に、自分は絶対にその相手と触れ合うことができないとわかってしまう時の切なさといったらない。「気づかなければよかったのに。」

エロス:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

児玉が遊ぶ女の子とのそんなシーンや、お色気担当(?)の矢来のそんなシーンなど、わりと多い。

データ

タイトル天冥の標 Ⅱ 救世群
著者小川一水
発行元早川書房
コードISBN978-4-15-030988-6

まとめ

いや〜〜、キツかった!(内容の重さが!作品としては間違いなく揺さぶられる)。本作『天冥の標 Ⅱ 救世群』は、これ単体で一本映画ができるほどのリアリティとドラマが詰め込まれています。特に今は僕らが生活する現実にも、ウイルス感染症の脅威があるのでより一層現実味があるのです。

現実に、新型コロナウイルスによって生活を変えられた人がたくさんいます。それは本作も同様で、フィクションとはいえど冥王斑によって生活を変えざるをえなくなった人々の葛藤や混乱、悲しみと苦しみがしっかりと描かれています。

冥王斑のパンデミックによって、人々は分かたれこの後各勢力に分派してゆくのです。救世群(プラクティス)、医師団(リエゾン・ドクター)その他多くの勢力が、この先登場してゆく事になります。

本作を読んだ後、チラッと『天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ』で羊飼がイサリを見て言った「プラクティスだ!」というセリフがよぎります。

イサリが冥王斑患者の何かなのか?という疑問が生じます。さらに、フェオドール・フィルマンも、『メニー・メニー・シープ』に出てきたカドムと一緒にいた石のロボット『フェオドール』と何か関係があるのか?このような疑問を抱えながら、どんどん次のエピソードを読み進めてください!

これらの疑問が徐々に繋がっていく過程を楽しむのも、天冥の標の醍醐味なのです!

気になったフレーズ・名言(抜粋)

人間は自分が「きれい」だと信じる行為しかしない。「何がきれいか」を確認することはめったにないし、他人に確認されることもいやがる。

天冥の標 Ⅱ 救世群 p.137

仲間とか、グループとかじゃないね。私はあんたが『こっち側』に来たと思って、ここへ来たんじゃないよ。そうでなくて、こうなったあんたが初めて一人の人間に見えるようになったから、興味ができた。私、そういう人が好きだもの。そういう人間、けっこういるよ、クラスにも。あんたたちには見えてなかっただろうけどさ

紀ノ川青葉
天冥の標 Ⅱ 救世群 p.227

冥王斑の発生した住居や施設は、売却価格が下落したり、客足が途絶えたりした。近親者が冥王斑で亡くなった人は、検査で無事だとわかった後も、勤め先から休暇を取るよう強要されたり、客先から取引を断られたりした。いっぽうサービス業では冥王斑対策がアピールポイントのひとつとなり、自社の店舗や製品がいかに厳しい対策をとっているか、いかに安全であるかをうたった。ーそういった行いは大部分、何かを守るため、という言い方で説明されていた。住人を守るため、お客様を守るため、健康で安全な生活を守るため・・・・・・。この国ではなんでもそうであり、守るための行いは許され、守るためでなければ何かをしてはいけない、というような暗黙の了解があった。だが守るということは線を引くことであり、要するに何かを切り捨てる冷たい行いなのである、ということは決して口にされることはなかった。患者群をじりじりと取り囲みつつあったのは、その表に出されることのない冷たさだった。

天冥の標 Ⅱ 救世群 P.287〜P.288

不肖紀ノ川青葉、このたびオスに惚れました。悪戦苦闘半年を経て将来に関する合意が成立、学生の身ながら法的配偶者を得ることが決定。この夏、二十年の独身人生を終える予定であります。まあ、それまでもてば

紀ノ川青葉
天冥の標 Ⅱ 救世群 p.355

涙は出なかった。いつもあれほど出る涙が、一滴も湧いてこなかった。涙は、千茅は気づく。まだ、悲しめるときに出るんだ。悲しんで、立ち直りたいと思っているときに出る。そんな思いさえも失ってしまったときには……出てくれないんだ。

天冥の標 Ⅱ 救世群  p.366

知らないわよ過去なんか。私だって未来ある女子高生だったわよ。でも、全部無くして親も友達も無くして、こんなところへ放りこまれたのよ。でも、だからって絶望したくないのよ。こんなゴミ箱みたいなところで、泣きながら腐っていきたくないの。見返してやりたいの、外の連中を。やり返すのよ。そのためにもっときちんとして、みんなに教えたいのよ。なぜこうなったか。どうしたらいいか。冥王斑患者は本当にどうしようもない邪悪な人間ばかりなのか。武器もあるわよ。私たちの血よ。IgPワクチンを使って取引するのよ。私たちはここにいるっていうことを、外の連中に、人間たちに、大声で教えてやるのよ!

檜沢千茅
天冥の標 Ⅱ 救世群 p.426

入手案内

・BookOffで入手  天冥の標 II救世群ハヤカワ文庫JA

         【書籍】天冥の標(文庫版)全巻セット SF 冒険 戦争

コメント

タイトルとURLをコピーしました