こんにちは、ポメラニ・アンパンです。4月ですね〜。新年度、新学期が始まりました。4月に入ってあなたは何か変わりましたか?
新しい生活環境になって慣れない中試行錯誤している人もいれば、変わらず日々を過ごしている人もいるでしょう。僕は特に変わりません。まあ、少しずつ暖かくなってきましたね〜。
僕は暑いのが殊の外苦手なので、今のままの気温を維持してくれれば理想なんですが・・・。
てな事はさておき、今日ご紹介する本はペルシャ神話。その名も『王書』。
王書とは「シャー・ナーメ」つまり「王達の書」の意味です。
この本を読んだきっかけ
以前読んだオルハン・パムクさんの『わたしの名は赤』を読み、その中でたびたび引用元として登場した『王書』。現在のイランでは多くの人々が暗誦できると言われる『王書』とは、一体どんな事が書いてあるのか、俄然興味を持ったのがきっかけ。つまり、『本』がきっかけです!
『わたしの名は赤』の読書感想はこちら↓
あらすじ
本作は、古代ペルシャの神話・伝説を描いた建国物語。ササン朝ペルシャがアラブ中央政権に倒されたため、ペルシャ民族高揚を目的として描かれた神と英雄の叙事詩。僕らの感覚だと、日本の古事記のように、建国神話から天皇について記述される歴史書に近いかもしれない。
しかし、霊鳥スィーモルグ、竜馬ラクシュといった神の代行者のような超常的存在も登場するため、全体的に神話色が強い。
『王書』もいくつか翻訳版があるが、今回紹介するのは岡田恵美子さん訳の岩波文庫版。本作は『王書』全てではなく、名場面を抜粋という形でその翻訳が修められている。
カユーマルス王、フーシャング王、タフムーラス王、ジャムシード王、ザッハーク王、フェリドゥーン王までを神話の時代の章として扱い、最も有名な英雄ロスタムが登場するのは英雄時代の章。
英雄時代の章は、ナリーマン家の血統を引く英雄達サーム、ザール(白髪のザール)、ロスタム、そしてロスタムの息子ソフラーブに加え、ロスタムと互角の戦いを繰り広げる王子イスファンディヤール、悪女の罠を見事突破した王子スィヤーウシュのエピソード、そしてロスタムの最後が収録されている。
この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)
雰囲気
神、王、人、英雄、国家、黄金、トルコ石、廻る天輪、酒宴、月のような美女、糸杉のような、槌矛、馬、問答、恋、トゥーラーン、ザーブリスターン、スィースターン、イラン、デマーヴァンド山、エルブルズ山脈、希望、絶望、公平、悪政、喜怒哀楽、嘆き、この世に永くとどまることはできない、天・・・などなど。
読み物として純粋に面白い。神のような力を持った英雄も、恋に悩み、戦いに傷つき、愛を求める。良い政治を行った王もいれば、悪政を強いた王もいた。様々な王、英雄が登場するが、皆「廻る天輪」によってその定めが良い方向にも悪い方向にも転がる。ある者はハッピーエンド、ある者はバッドエンド。これらの織りなす物語は物凄くドラマチック。
読みやすさ:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
巻末の注釈を所々確認しながら読む必要があるが、注の数はそれほど多くないため、比較的サクッと読める。
ワクワク度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
やはり英雄譚はワクワク度が上がる!それにしても大半の奴らが、すぐに成長してだいたい無敵になるのが、ご都合主義といえばご都合主義。
ハラハラ度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ザッハーク王に差し出す生贄を逃すシーンはハラハラもの。
食欲増幅度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
「パンを作った」という描写はある。「酒を飲んだ」という描写はかなりたくさんあった。
また、食事とは異なるが、麝香、沈香、竜涎香、バラ水といった香料が登場する。この地域にはこうした香料が価値ある物とされていたというのがわかり、興味深い。
胸キュン:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
自らの子だと知らずに死闘を繰り広げ、挙句その命を奪ってしまう英雄の話や、悪女の罠を突破し、その後順風満帆に過ごしたかと思いきやそうはならなかった王子の話など、「廻る天輪」=運命とはかくや残酷か、と思わせるところが胸を突く。
ページをめくる加速度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
細かく章立てされているので、区切りが良いところまで読めるし、読もうと思えばスイスイ読めるので、ページをめくるのはそこそこ早かったかな。
希望度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
物凄く良い行いをした王子も、そうでない者も「廻る天輪」=運命の気まぐれによって悲惨な結末になる物語もあり、無常感が強い。
絶望度:2 ⭐️⭐️⭐️
悪政を強いたザッハーク王統治時代以外は、そこまで絶望感は少ない。
残酷度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
首を飛ばすのは序の口。生きたまま人の脳を啜る者もいた・・・。
恐怖度:2 ⭐️⭐
恐怖を感じるシーンはあまりない。
ためになる:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
「読者よ」と人生観や道徳的な事をいきなり書かれている事がある。なかなか面白い。
泣ける:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
やはり父と子の最後のやりとりで涙出ますね。父の嘆きがもうね・・・。
読後感:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
初めてペルシャの神話・英雄譚に触れたが、人間の基本的な所って国家や出自は違えど変わらないんだな、と思った。人の欲望、理想、美女を求める事、力を欲する事、血筋を気にする事・・・などなど。
誰かに語りたい:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
あまり日本では名を知られていないペルシャ神話。僕は、本作を読んでますますペルシャ神話が好きになりました。イランの人々は幼子から老人に至るまで本作「王書(シャー・ナーメ)」を暗誦できるほど、親しんでいるようです(巻末の解説より)。その浸透具合は、ビジネスでも、風呂屋でも、誰かが王書のあるフレーズを言うと後に続いてスラスラと言う人がいるんだとか!
神話好きな人にはぜひ王書に触れて欲しいですね!
なぞ度:3 ⭐️⭐️⭐️
本作は、本家「王書」から名場面を抜粋しての翻訳という事で、本作では語られていなかったエピソードも読みたくなりました。
静謐度:1 ⭐️
静謐さはあまり感じない。
笑える度:3 ⭐️⭐️⭐️
笑える・・・とは少し違うが、悪女に言い寄られる王子が、その魔の手から逃れようと思案しながらやりとりをする場面はさながらメロドラマだ。
切ない:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
本作の根底にあるのが、王であれ誰であれ現世にいつまでもいられない、という事。
ロスタムは言う。我らは死に属する者だ、と。
エロス:1 ⭐️
神話にしてはエロ描写は驚くほど少ない。と言うか無い。
データ
タイトル | 王書 |
著者 | フェルドウスィー |
訳者 | 岡田恵美子 |
発行元 | 岩波文庫 |
コード | ISBN4-00-327861-5 |
まとめ
『王書』初めて読みましたが、予想を上回って面白かった〜〜!!
文章も読みやすく、歴史書というよりはファンタジーでしたね。神話の王たちの話、そしてそれに連なる英雄達の喜怒哀楽、愛憎、そして闘争の物語。
栄光を手にする者、栄光を手にしつつも神(天)に見放されて転がり落ちる者、悲劇的な結末を辿る者・・・本作に登場する英雄達はどれもが僕たち人間と同じように生きてそして死んでゆく。
僕が、本作を気に入った点は登場人物達のセリフが多い事多い事!もう、喋りまくりですよ!
セリフ言い出し初めは「おお、○○よ」がかなり多いです。僕も日常会話で使ってみようかな(笑)。
セリフが多いので、登場人物達に人間味を感じます。もちろん、セリフ以外の描写も素晴らしく、特にロスタムとイスファンディヤール王子との死闘はその情景がありありと想像できるくらいド迫力です!
そして、何度も出てくる「廻る天輪」というキーワード。「運命」とか「天命」だろうと解釈して読んだんですが、これが一番恐ろしい。神も王も、誰もが「廻る天輪」に逆らうことはできない、とありますからね。
この辺りは、僕ら日本人の無常感に近いのかもしれません。
しかし、それらを差し引いても、本作は読み物として面白く、英雄達の活躍にワクワクさせられ、悲劇には胸を突かれ、セリフの端々からそこに生きる登場人物達の躍動感を感じることができます。
また、僕は日本語訳として読んでいるので分からないのですが、原文だとかなりリズミカルな韻を踏んでるところが多いのだとか。
なんでもこれを作ったフェルドウスィーは古い物語を伝承する人だったようです。おそらく、口伝しやすいよう、リズミカルな言い回しも含めたんでしょう。
先にも触れましたが、イランの人たちは、幼子から老人まで皆「シャー・ナーメ」を暗誦してスラスラ言えるんだそうです!凄い!コミュニケーションの場だけではなく、ビジネスの際にも、「シャー・ナーメ」のフレーズを言いあったり、するようです。なんかちょっと羨ましい!!
日本で幼子から老人まで皆言える作品って・・・考えましたが出てきません。
う〜ん、凄いな!
というわけで、王書、めっちゃ面白かったです!!
気に入ったフレーズ・名言(抜粋)
(読者よ、)君にとって、富・黄金・大宮殿の逸楽は永遠につづかぬもの。だが、君の良き追憶が人の言葉のなかにとどまることはある。その思い出を価値なきものと見なしてはいけない。
王書 p.68
フェリドゥーンは王子帰国の報せを受けると中途まで迎えにでる。三人の勇気をためして、それぞれの性格にかかわる懸念をはらおうと望んだのである。そこで彼は獅子でさえ敵うまいと思われる竜に姿をかえて、その竜が怒り吼え、口から焔をふきだす。
王書 p.87
わが子よ、この世では己れよりほかに援兵を求めてはならん。お前の清廉とお前の正義が、お前をまもるであろう。
フェリドゥーン王
王書 p.100
おお、世を照らす栄光よ、いま暫く…そのように疾く昇りたもうな!
ザール
王書 p.153
老いも若きも、われらはみな死に属するもの、この世の永遠にとどまることはないのです
ロスタム
王書 p.259
もう致し方ないこと、そのように泣かないでください。自分を殺して何になりましょう。なるべきように、ことが行なわれたのです。
ソフラーブ
王書 p.269
地獄も今度の事件にくらべれば私には何ものでもありません。焔の山であろうとも私は踏みこえていきます。身にふりかかる恥を耐えしのぶよりは、死のほうがどれほどよいことでしょう。
スィヤーウシュ
王書 p.300
天輪に逆らうことのできる者はいないー悪人も徳ある者も。おれは理性がよしと認める道をえらんだ。そして心正しい人びとはそれを思い出してくれるであろう。もしバフマンが悪をもって報いるなら、彼は運命のまえで恐れ戦くことになろう。だがおまえの(理性ならざる)感情によって、不幸を招くようなことはするな
ロスタム
王書 p.333
コメント