ハイペリオン

SF

どうも、こんにちは。ポメラニ・アンパンです。さてさて、7月になりましたね。もう2019年も半分消化してしまったのです。この半年、僕は何をしていたんだろう?と思うと限りなく生産性がない事ばかりに時間を費やしていたように思えます。

僕はこんな半年でしたがあなたはどうですか?人それぞれ、半年間の物語があるでしょう。今日はそんな、《人それぞれの物語》や《時間》をテーマにした作品を紹介します。

ダン・シモンズの『ハイペリオン』です。

読んだきっかけ

SF熱が一気に膨れ上がったのが今年2月〜3月ですかね。その時、衝動的にSF小説を買い込んだ時期があり、その中の一冊が本作。生頼範義氏による表紙絵のインパクトが強く、以前から気になっていた作品でした。なので、僕としては「今こそ!」というテンションで読み始めたのでした。

あらすじ

28世紀、地球が手狭になった人類は、幾多の星に新天地を見出していた。人々は様々な星を居住できる環境に開発をすすめ、200を超える星々でそれぞれの営みを紡ぐ人々。彼らは星と星を転移できる《ゲート》を作り、互いにいつでも行き来ができるようになっていた。

これら高度な技術は《テクノコア》というA.Iの集合組織によって維持管理されている。優れた演算能力を持つのため、《テクノコア》は未来予測まで可能になった。しかし、《テクノコア》でも予測ができない不思議な現象を発する星があった・・・。

その星の名は《ハイペリオン》。特に、《ハイペリオン》にある古代遺跡《時間の墓標》は、時間の流れが未来から過去に向かって流れている。そこには、殺戮の魔物《シュライク》が封印されていると言われている。

そんな不安定かつ未知の存在《シュライク》が眠るとされる《ハイペリオン》に、宇宙の蛮族《アウスター》が迫っている事をキャッチした連邦。《時間の墓標》が《アウスター》の手に落ちる事を肯ぜない連邦は、遺跡の謎の解明のため、巡礼として7人の人間を《ハイペリオン》に送り出した。

その7人とは・・・

領事(本名の描写が無い)、司祭ルナール・ホイト、戦士フィドマーン・カッサード、女探偵ブローン・レイミア、詩人マーティン・サイリーナス、学者ソル・ワイントラウブ、船長ヘット・マスティーン 。各々育った環境、仕事、居住地域もバラバラだが、一様に重い過去を背負っていて、彼らの旅路に一人一人、語られる事になる。

初めて出会った7人。互いに訝しがりながらも、共に団結し旅をする。

一人また一人と己れの過去を語っていく中で、絆は深まる。

彼らの行き着く果てはどこなのか・・・。

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

いかにもSFな壮大設定。他の星々へ自由に一瞬で移動できるほどテクノロジーが発達した未来。謎の遺跡を調査するために、選ばれし7人がハイペリオンに向かう。面白いのは、旅の途中に7人それぞれのバックグラウンドを知る事ができるエピソードが語られる。読者は彼らの口から語られる経験を追体験しながらストーリーを追う。

広大で神話的な世界観、作り込まれた各登場人物の背景、時間を超越した行動、宇宙船、SF好きにはたまらない要素が盛り沢山。

読みやすさ:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

独特なキーワードや固有名詞が多いが、文章自体は読みやすい。もってまわった言い回しも少なく、すんなり情景がイメージできる。

ワクワク度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

スケールの大きさと、集まった7人のこれからの動向にワクワク。

ハラハラ度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

7人各々、修羅場をくぐっており、語られる話がスリル満点。

食欲増幅度:2 ⭐️⭐️

食事シーンはあるが、読んでいて食欲を刺激される描写はあまりない。

冒険度:10 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

7人の過去は冒険と試練そのもの。全員が一同に会する場面でも、未知の遺跡を調査しに行くのが目的なので、冒険である。

胸キュン:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ソル・ワイントラウブ、ブローン・レイミア、領事のエピソードなど、愛に生きる人々の話も注目。時間をテーマにした人間ドラマ。

血湧き肉躍る:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

フィドマン・カッサードやブローン・レイミアの戦いのシーン。銃火が・・・、血が・・・、叫び声が飛び散る。

希望度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

7人は互いの話を聞く事で、唯一無二の絆を作っていく。最後のシーンは、これからの希望を強く感じさせる。

絶望度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

各人過去の話は絶望感が大きなシーンが多い。しかし、そこに打ち勝つ強さが物語の根底にある。

残酷度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

殺し、殺される場面は随所にある。深遠なる宇宙では、シュライクやビクラ族など、人類にとって脅威は多い。

恐怖度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

未知なる事態への恐怖。ビクラ族の行動様式が今の僕らの中にほとんど当てはまらない。初めて読んだ時は得体の知れない彼らが恐ろしく思った。

ためになる:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

実在の人物であり、イギリスの詩人ジョン・キーツの物語詩を再構築されている部分もある。しかし、純粋にエンタテインメントとして楽しんだ方が良いだろう。

泣ける:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ソル・ワイントラウブの娘、レイチェルの話は胸がキリキリさせられるほど切なく、悲しい。運命に翻弄されまくる彼らの姿に僕は涙した。

ハッピーエンド:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

明るい雰囲気で最後の幕を閉じる本作。まさに、『物語はこれからだ!』という感じで幕を閉じる。次の『ハイペリオンの没落』に繋がっているので、正確には本作は完結していない、と判断して良いかも。

誰かに語りたい:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

比較的万人向けのエンタテインメントだと思う。登場人物もキャラが立っていて、誰が好きか、あの人の過去話どう思う?など読んだ人同士で集まると会話が盛り上がりそう。

なぞ度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

《時間の墓標》が謎すぎる。アウスターの正体も本作の時点ではよくわからない。とにかく本作だけでは解明されていない謎が多い。

静謐度:3 ⭐️⭐️⭐️ 

領事の独白シーンなど、一部静謐に感じる部分もある

笑える度:3 ⭐️⭐️⭐️

砕けた口調のブローン・レイミアの過去話は少しフランクで笑える所もある

切ない:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ワイントラウブ一家が。なぜ彼らにこんな仕打ちを。あまりに切なく、酷い。娘だけが若返っていく両親の苦しみは想像を絶する。

エロス:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

要所要所に、セックス描写あり。

データ

原作タイトルHyperion
日本語タイトルハイペリオン
著者ダン・シモンズ (Dan Simmons)
訳者酒井昭伸
発行元早川書房
コード(上巻)ISBN978-4-15-011333-9
(下巻)ISBN978-4-15-011334-6

まとめ

噂にたがわず、凄く面白かった!壮大な世界観と、そこに張り巡らされた緻密な設定から、大きな人間ドラマが生まれていた。それも7人分!!「多くの人が、宇宙に進出して生活したらどうなるか?」とありふれたテーマであるがゆえに、ダン・シモンズは「これでもか!」とアイデアの限りをぶち込んだんでしょう。

そして、読んでびっくり。まさか、主要人物の過去話で物語が進んでいくとは。しかも、「ちょっと昔こんなことがあったんだよ」程度ではなく、各々それだけで1つの作品ができるかのような濃密度!上巻、下巻合わせて900ページくらい。この900ページの中に、これだけのドラマが入っていることが驚異的。7人が全く違う過去を持っているので飽きずにガーーーっと読めてしまいます。

例えば、ルナール・ホイトは未知との遭遇、フィドマーン・カッサードは戦いの日々、マーティン・サイリーナスは人生の栄光と没落・・・といったように、各々のテーマも違います。

最初に語られた司祭のルナール・ホイトのエピソードからして物凄く惹きつけられました。そのエピソードが終わると、7人の中で、次は誰の番かな?という感じで語り部がチェンジ。その時の僕は「次は誰のどんな話なんだろう!!」とまるで、小さい頃テレビアニメの次回予告を見るときほどにワクワクしました。

作品全体としては、一言で言うと《なんでもあり》。バトルあり、恋愛あり、一人の男の栄光と凋落を描く話、謎の種族との関わり、時間に翻弄される家族の話・・・様々な要素が《ハイペリオン》、《時間の墓標》と言うキーワードに結びついています。

僕がこのハイペリオン、良いなと思ったのは、7人がそれぞれ一堂に会して旅をするわけですが、この7人、誰一人哀しみを乗り越えていない事です。現在進行形で、彼らの哀しみは心の中に刻み付けられていて、しかも傷口は小さくなりこそすれ、何かの拍子にまた大きくなる可能性がある・・・。

僕ポメラニ・アンパンもそうですけど、人は哀しみをそう簡単に乗り越えられないんです。むしろ、乗り越える、完全に克服することは不可能だとさえ思います。人は皆、多かれ少なかれ哀しみ、悩み、苦しみを抱えて生きていると思うのです。

そんな僕らにとって、この作品はリアルで、だからこそ名作と言われるのだと思いました。

それではまた。

See you later, alligator. After a while, crocodile.

気になったフレーズ・名言(抜粋)

服をぬぎ、固いマットレスにあおむけに寝ころがると、オーディオ・システムと船外音ピックアップをオンにし、ワーグナーの『ワルキューレ騎行』をかけた。
嵐の猛り狂う音にかぶせて聴くこの曲の猛々しさには格別の味わいがある。烈風が宇宙船を殴打した。天雷の轟きが室内を満たすたびに、天窓がかっと白く光り、領事は網膜に強烈な残像を焼きつけた。

(やはりワーグナーは、雷鳴のなかで聴くにかぎる)

領事 ハイペリオン(上)p.16

ヘヴンズ・ゲイトで発見したのは、精神に対し、肉体労働がいかに刺激を与えうるかということだった。といっても、ただの肉体労働ではないぞ。背骨がひんまがり、肺がつぶれ、腸が張り裂け、靭帯がぶち切れるほどの、過酷な肉体労働といいなおそう。

だが、その労働がつらくて反復性のものであるならば、精神は肉体からさまよいだし、
より想像力に満ちた領域へと解放されるばかりか、
より高次の次元へ羽ばたく。

マーティン・サイリーナス ハイペリオン(上巻)P.367

しかし言葉は、欺瞞と無理解の陥穽でもある。
人間の考えを無限の枝分かれなる自己欺瞞へと導きもする。

マーティン・サイリーナス ハイペリオン(上巻) p.367

「じつをいいますと、おじょうさんの病気には、まだ病名すらついていません。当院ではこの病気を、かりに年齢遡行症(マーリン・シックネス)と呼んでいます。つまり・・・おじょうさんは通常の速度で齢をとってはいるのですが・・・わたしどもにわかるかぎりでは、逆に齢をとっている・・・つまり、若返っているのです」

ドクター・シン ハイペリオン(下巻)p.39

理屈にあった行動をとるのは、それが理屈にあってるからだ……
って理由はどうだい?

ブローン・レイミア ハイペリオン(下巻) p149

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