死をポケットに入れて

人物

こんにちは、ポメラニ・アンパンです。もう2月!月日が経つのは早い!ぼやぼやしているとあっという間に歳をとりますね。

・・・と分かっていても、寒い冬はこたつに入ってだらだらしたくなりますよね?こたつ、あれは人類を堕落させるとんでもないものです。恐ろしい!

さて、今日はいつも僕が読んでいる本とは毛色が違う本を紹介します。

チャールズ・ブコウスキーさんの『死をポケットに入れて』です。

読んだきっかけ

とある本屋さんで、面白い本の売り方をしていたんですよ。本の表紙を隠し、キーワードだけ並べてある。ちなみに本作は「9匹の猫」+「競馬」+「マッキントッシュ」と表示されていました。

僕は、このキーワードから『9匹の猫がマッキントッシュに悪戯し、その飼い主が何らかの理由で競馬の世界に足を踏み入れる?』あるいは『マッキントッシュで描いた9匹の猫達は、皆競馬のジョッキーとなって活躍するドタバタ劇か?』とイメージして買ってみました。

あらすじ

あらすじも何も、この作品はチャールズ・ブコースキーさん本人が書いた日記である。

日記なので、その日その日起きた事、考えた事などをありのままに書いているだけなのだが・・・。これがまた、不思議な魅力に溢れ、ページを繰ってしまう。

競馬場に頻繁に通っていたブコースキーさん。競馬場でのエピソードもよく出てくる。競馬場でよく見かける人の話や、馬券売り場のスタッフについての話、食堂での話、馬券の買い方の話、勝った後負けた後の話・・・とにかくいっぱい出てくる。

競馬以外では、出版社を装って訪ねてくる招かれざる客の話がなかなか面白い。やはりブコースキーほどの人となれば、ただ単純に『会いたい』と思う人が沢山いるのだろう。ファンでもないのに会いに来る人は、作家にとって邪魔以外何者でもない。そんな話が2、3ある。

他には音楽に関する考えも書いている。クラシックが好きだったようで、ラジオでよく聴いている事を挙げている。

そして、物を書くことについても、もちろん日記にある。

特に印象深かったのは、ある放送局の人間が訪ねてきて、チャールズ・ブコウスキーのドキュメンタリー映画を作りたいと申し出てきたエピソードだ。当初、ブコウスキーも乗り気だった。なぜなら、自分を演じる俳優が彼のお気に入りだったから。しかし、話が進むにつれ、放送局の意向と俳優との意向の間に溝が生じ、トラブルになり、やがてブコウスキーもこの話自体、白紙に戻す決断をする。これだけで、一本小説ができそうなほど、起承転結があるエピソードだった。

このように、ふんだんに日常を書いてくれているチャールズ・ブコウスキーさんの本作。ブコウスキーファンはもちろん、そうでなくても一人の人間の生活を俯瞰で見れる貴重な作品だ。

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

 雰囲気

作家チャールズ・ブコウスキーの、というより『一人の老人の呟き』と思って読んだらいい。ありのままの日記なので、なるほどと思わせる意見もあれば、単に悪態をついてる部分もあるし、だからこそ、ブコウスキーという人間性を感じられるのが良い。

読みやすさ:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

日付ごとに、その日その日に起きた事、感じた事を書いているため、区切りがあり読みやすい。

ワクワク度:3 ⭐️⭐️⭐️

老人の日記を淡々と読んでいく事になるので、エピソードによっては『何で俺こんな老人の日記を読んでいるんだろう?』と感じた事はあった。

ハラハラ度:1 ⭐️

特になし。

食欲増幅度:1 ⭐️

特になし。

冒険度:2 ⭐️⭐️

結構頻繁に出かけるブコウスキーさん。様々な場所での出会いやエピソードが、僕たち読者にとって一種冒険のような感覚を与えてくれる。

胸キュン:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

いわゆる男女の胸キュンではないが、読んでいてふと心に入ってくる言葉や文字がある。後述の引用を見てもらいたい。

血湧き肉躍る:2 ⭐️⭐️

直接の殴り合いみたいな事はないが、他人との迎合を歓迎しないブコウスキーの、他人の見方というのが面白い。

希望度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

最後まで日記なので、結末というものはない。これに希望を感じるかどうかは読者次第になりそう。僕の場合は、響く言葉がいくつもあったので、本作は希望も含まれていると感じた。

絶望度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ブコウスキー氏は自分の老いや体調などについても書いている。70歳代で書いた本作は、一人の老人が抱える悲しみや絶望が率直に書かれていた。

残酷度:1 ⭐️

残酷な表現、シーンはない。

恐怖度:1 ⭐️

恐怖を感じる事はない。

ためになる度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

数々の言葉、一人の人間の生き方、物の見方、老いに対する姿勢、人との距離感・・・などなど、ハッとさせられる事が多かった。

泣ける度:2 ⭐️⭐️

泣くほどの事はなかったが、ブコウスキー氏の生き方にちょっと憧れる。定年後、こんなふうに生きられるだろうか。

ハッピーエンド:1 ⭐️

本作は、結末はなく日記も唐突に終わっている。ブコウスキーさんは幸せな生涯だったんだろうか。

誰かに語りたい度:2 ⭐️⭐️

あえて人にオススメする本ではないかなぁ。ブコウスキーファンは読めば良いと思う。

なぞ度:1 ⭐️

謎は特にない。

静謐度:1 ⭐️

ブコウスキー氏が言いたい事を吐露しているので、静謐さは無い。自分の行動、相手のセリフなどふんだんに入っているので、文体としてはフランクで、賑やかな印象を受けた。

笑える度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

エピソードによっては結構笑える。『ガチョウ娘コンテスト』のくだりなど。

切ない:3 ⭐️⭐️⭐️

老人の独白なので、切なさがあると思ったが、読んでみるとそうでもない。ブコウスキー氏が切なさを感じさせないほど、アクティブな生活をしていたからかな。

エロス:2 ⭐️⭐️

多少の下ネタはある。

データ

原作タイトルTHE CAPTAIN IS OUT TO LUNCH AND THE SAILORS HAVE TAKEN OVER THE SHIP
邦題死をポケットに入れて
著者チャールズ・ブコウスキー (Charles Bukowski)
訳者中川五郎
発行元河出文庫
コードISBN978-4-309-46218-9

まとめ

読み始めた時は、『何だよこれ、爺さんのただの日記じゃん!』と思いました。しかし、せっかく買った本だからと思い少しずつ読んでいくと、だんだんとハマってきましたね。

どこがどうハマったか、と訊かれれば答えるのは難しいんですが、とにかく『次は何の話だろう。また競馬ね。ハイハイ。お?音楽の話だ。』というように、ブコウスキーさんのありのままの生活を書いた上で、さらに『○○についてはこう思う。○○はくそったれだ』というように主張や考えが付加されているので、それが魅力といえば魅力・・・かな(笑)。

加えて、日常エピソードの中に『むむ?』と反応できる貴重な意見や言葉が隠されているので、それが良かったですね。巻末の役者あとがきにも書いてありましたが、ただの日記じゃあない点が本作のウリだと思いました。

気に入ったフレーズ・名言(抜粋)

わたしは死を左のポケットに入れて持ち歩いている。
そいつを取り出して、話しかけてみる。「やあ、ベイビー、どうしてる?いつわたしのもとにやってきてくれるのかな?ちゃんと心構えしておくからね。」

チャールズ・ブコウスキー
死をポケットに入れて p.20

書くことは人を罠にはめてしまうことができる。

作家たちの中には、過去に自分の読者を喜ばせたものと同じものを書きたがる者もいる。

それでそいつらもおしまいになってしまう。
ほとんどの作家にとって創造力に満ち溢れた期間は短い。
彼らは賞賛の言葉に耳を傾け、それを信じ込んでしまう。
書かれたものに最後の判断を下すのはたった一人しかいない。
それは作家自身だ。

作家が評論家や編集者、出版者や読者の言うがままになった時は、もう一巻の終わりだ。
それに、言うまでもないことだが、
作家が名声や富に振り回されるようになった時は、
糞と一緒になって川を流れていってもらうしかない。

チャールズ・ブコウスキー
死をポケットに入れて p.80

書くことの目的は、まず第一に愚かな自分自身の救済だ。
それさえできれば、書かれたものは自ずと面白くて、
読み手の心を捉えるものとなる。

チャールズ・ブコウスキー
死をポケットに入れて P.81

行動と挑戦の中にこそ栄光はあるのだ。死などどうだっていい。
大切なのは今日、今日、今日なのだ。まさに然り。

チャールズ・ブコウスキー
死をポケットに入れて P.119

それにわたしは言葉を書き留めなければならなかった。
さもなければ死よりももっとたちの悪いものに打ち負かされてしま
うのだ。言葉は貴重なものではないが、必要なものだ。

チャールズ・ブコウスキー
死をポケットに入れて P.159

わたしのコンテストは自分自身しか競争相手がいない。
その競争を、公正に、活力と気力、
喜びとギャンブル精神をもって、やり抜くのだ。

チャールズ・ブコウスキー
死をポケットに入れて P.159

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