こんにちは、ポメラニ・アンパンです。
1月は個人的に勉強しているものがあって、その試験だったため読書量が減りました。先般、無事試験に合格し、ようやく落ち着いたところでございます。
それで久々に本ブログを更新しようとサイトの設定などを点検していたところ、過去アップした感想で消えているものがありました。原因はおそらく僕の設定ミス。
なんてこった〜〜!!!
かつてドラゴンクエストやファイナルファンタジーなどファミコンやスーパーファミコンのROMカセット時代には誰しも苦い思い出として記憶に残っている「セーブが消えた!」に近い絶望を、まさか今になって体験するとは思いもしませんでした!
でも、気を取り直して無くなったものを確認した結果、2つの感想だけ消えてるのがわかり、気持ちを切り替え、「2つだけで済んだなら御の字じゃ!」と思い直しました。さらに、また消えた感想の本を読めばいいじゃ〜ん、と思い、今に至ります(笑)
てなわけで、消えた感想の復旧第一弾、藤井太洋さんの『GENE MAPPER -full build-』です。
この本を読んだきっかけ
本屋さんで本作の表紙や背表紙のデザインに惹かれ、つい買ってしまいました。
あらすじ
近未来、従来の遺伝子組み換え食品とは異なり、自然植物の骨組みを利用しながらも大部分を遺伝子設計プログラミングされた<蒸留作物>を題材にしたサスペンスSF。蒸留作物とは、全ての遺伝子を調査したうえで必要な機能を残し、新たな機能や付加価値をつけた完全な人工植物を指す。自然植物の一部を改変する遺伝子組み換え作物との差別化を狙い、この名称がつけられた。
主人公、林田は食物などの遺伝子を設計する遺伝子デザイナーだ。林田の生きる世界では、拡張現実が広く普及し、拡張現実空間での会議やアバターを使ったコミュニケーションが一般的になっている。
ある日の夜、林田は緊急を知らせるアラームに起こされる。林田の眠りを妨げた相手は黒川さんだ。以前、林田が納品した蒸留作物SRー06を取り扱う企業L&Bのエージェント。彼が言うには、林田が設計したSRー06が化けた(遺伝子崩壊の可能性がある)とのこと。
現地で撮影された3D画像を見て、SRー06のそばに蒸留作物では発色しない色のイネのような植物が生えているのを確認した林田。併せてバッタの食害もあるようだ。
林田が設計したSRー06という種類のイネは、メッセージ物質を花びらや葉に受けると色が変わる性質を持つ。これを利用し、広大な農場に植物だけで企業のロゴを描ける。元々酒造メーカーだったL&B社にとって、蒸留作物のSRシリーズは農業はもちろんその他業界にも大きなインパクトを与えた。いわば、L&Bのシンボル。
マザー・メコン農場には、最新の蒸留作物のイネであるSRー06によって描かれたL&B社の企業ロゴが、空撮すればはっきりわかるほどの大きさで描かれている。そのロゴが、端の方から崩れが生じており、遺伝子崩壊の可能性も含めてL&B上層部も焦っている。
林田はまず、自分の設計が今回の異常事態を起こしたのではない事を立証しなければならない。現地から送られてきたDNAデータを紐解いてゆくと徐々に不可解な点が見えてきた。不自然に容量が大きかった。また、この時代では当然付加されているはずの病原菌=イネ赤錆病の耐性すら無いものも混じっていた。
イネ赤錆病:2016年、東アジアで飢饉を起こした病原菌。この病原菌の耐性がない旧来のイネ属作物の種苗はWHOの勧告により生産中止となっている。
この事件が、蒸留作物を大きく飛躍させるきっかけとなった。酒造メーカーだったL&Bは、酒造用に大きく遺伝子操作したイネを使っていたのが幸いした。偶然だろうが、イネ赤錆病の影響を受ける遺伝子を捨てていたため、多くの農家のイネが枯れてゆく中、L&Bのイネは実った。(作品内の設定ですよ)
イネ赤錆病の耐性がない植物となると、生産中止されたはずの作物の遺伝子が混ざっていることになる。調査を進めると林田自身が設計したSRー06の遺伝子もしっかりとそこに残っていた。
自分の設計ミスではないことを証明するためにも、また事態を打開するカウンタープラン作成のためにも、SRー06を押しのけている謎のイネの品目を特定する必要が出てきた。しかし、この情報はトゥルーネットにはほとんど無い。2014年のインターネット・ロックアウトによって、ネット上に蓄積されていた多くの情報にアクセスできなくなっていたのだ。
トゥルーネットとインターネット
2014年、大手検索エンジンのを提供していたプログラムが暴走し、接続していた全てのPCを乗っ取ってしまった事件。数年かけて復旧したネットワーク「トゥルーネット」には、有用だと判断された情報しかなく、累々と蓄積された多くは、インターネットに沈殿した。このため、インターネットの情報にアクセスするにはデータのサルベージを生業とする専門の業者が活躍している。(作品内の設定ですよ)
インターネットから旧来のイネの情報を探すため、サルベージを生業とするキタムラに協力を仰ぐ林田。アバターを通じてやりとりしただけで、キタムラの知識量と仕事っぷりに感銘を受けた林田は、イネの情報収集を林田に依頼。しかし、キタムラはベトナムに事務所を構え仕事をしており、林田に直接自分の事務所に来るよう要請してきた。
林田と黒川さんは急遽ベトナム・ホーチミンへ飛ぶ。気さくな日本人キタムラ、その助手のベトナム人女性グェンが出入りするオフィスに到着。黒川さんによれば、一刻も早くSRー06が化けた要因を突き止め、対策も見つけ出すことが目的。
キタムラはイネの情報収集、林田はキタムラが拾ってくるいくつものイネのDNAのデータを照合することに費やされる。しばらくこのオフィスに滞在するかと思っていた矢先、L&B副社長リンツ・バーナードから依頼が入る。林田と黒川さんとで、マザー・メコン農場の現地調査をしてくれ、と。
林田と黒川さんはマザー・メコン農場のテップ主任と協力して調査に乗り出す。
現地で回収したもの、キタムラが収集した情報、調査をこなしてゆくことでこれらが一本の線につながり、想像だにしなかった状況が現出する。
この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)
雰囲気
近未来、拡張現実、遺伝子操作、遺伝子設計、植物、生物、遺伝子工学、バッタ、イネ、農協、サラリーマン、名刺交換、インターネット、アバター、プロジェクト、企業、特殊防護服、サルベージ、東京、ベトナム、ホーチミン、ベトナムコーヒー、環境保護団体、メディア・・・。
本作が発行された2013年時点で最新のITテクノロジーとしてはARが盛り上がりかけていた。本作は、それをもっと膨らまして世界観に留まらずコミュニケーションのありようも変えていることが面白い。会議にアバターを使うのが常識の世界で、アバターと実体との差に驚いたり、自動感情制御を施すアバターを通じたコミュニケーションなど、テクノロジーが発展すればあり得そうなのがリアル。
読みやすさ:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
IT用語が多いが、解説を交えた文章のため、IT用語に馴染みのない人でも苦労せず読めるだろう。また、それらを除いても、設計した植物の異常の原因を探してゆく過程で真実が見えてくるストーリーは、サスペンスとしても一級品の面白さ。
ワクワク度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
林田を囲む個性的なメンバーが物語序盤からワクワク感を上げてくれる。
ハラハラ度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
原因不明の作物化け。実態調査のシーンは常に緊張感がある。
食欲増幅度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
コンデンスミルクをたっぷり入れたベトナムコーヒーは美味しそう!キタムラはミルク入れすぎなんだけどな。
胸キュン:3 ⭐️⭐️⭐️
黒川さんと林田の関係性が良い。
ページをめくる加速度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
展開が早く、どんどん読める。
希望度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
パンドラの箱を開けることになる可能性を思い浮かべつつも、人の良識と可能性と未来を信じる林田と黒川さん、キタムラ、テップ、彼らの行動が人の未来は人が開くことが出来ると希望を感じさせてくれる。
絶望度:1 ⭐️
本作に絶望はない。
残酷度:1 ⭐️
せいぜい殴られるくらい。
恐怖度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
原因がわからない時が一番恐ろしい。
ためになる:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
拡張現実を本作のように使えるようになれば便利だけど、便利だけじゃないこともあるよね、ということがわかる。
泣ける:2 ⭐️⭐️
泣けるシーンはそこまで無い。
読後感:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
事態の全てに決着がつき、綺麗に終わる。また、登場人物たちやこの世界にも希望を見出せる終わり方なので、晴れやかな気持ちになる。
誰かに語りたい:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ドラマ化、映画化するなら本作を!
なぞ度:2 ⭐️
作中の謎はほぼ解決されたと思う。
静謐度:1 ⭐️
みんな頑張った。よく動いた。
笑える度:2 ⭐️⭐️
笑えるところはキタムラの味覚。
切ない:1 ⭐️
切なさはあまり無い。
エロス:2 ⭐️
ちょっとだけ。
データ
タイトル | GENE MAPPER -full build- |
著者 | 藤井太洋 |
発行元 | 早川書房 |
コード | (PART 1)ISBN978-4-15-031107-0 |
まとめ
いや〜、初回読んだときも凄く面白くてぐいぐい読みましたが、二回目もどんどん読めてしまいました。やはり物語のテンポが良くて読みやすかったです。
近未来の遺伝子設計者=ジーン・マッパーの林田が主人公の本作。遺伝子組み換え食品にとってかわる新しい作物=蒸留作物の設計を行う林田が、自身が設計した植物SRー06の異変の原因調査をするお話。
う〜ん、一見すると地味なんですが、それをエンタテインメントとして凄く楽しめるようにしているのが、林田の周りの登場人物やITガジェット。アバターを駆使して交渉を行う黒川さんや、犬のアバターで登場したキタムラ、その他にも喫茶店に搭載されている拡張現実など、今の僕達のIT技術が進化したら「実現できそう」な技術を説得力ある描写で描いています。
本作に登場している感情制御ビヘイビアは、今でいうZOOMの美肌補正をもっと高レベルに進化させたものっぽいですもんね!
とにかく、本作は農業+遺伝子工学+近未来ガジェットが好きな人には是非オススメの一作です!
あと本作は黒川さん。もう黒川さんが全て!
気に入ったフレーズ・名言(抜粋)
拡張現実のおかげで視界一杯に<ワークスペース>を広げて使うことができる。これがフリーランスの特権だというのが情けない。未だに国内のオフィスでは、デスクの幅しか広げさせてもらえないことが多いと聞く。まったく、何を考えているのだろうか。
GENE MAPPER -full build- p.22
ゼロ年代、コンピューターとコンピューターが繋がり始めたとき、彼らはどんな気持ちで未知の世界の扉を開き続けたのだろう。冒頭に紹介されたLinuxの開発者が、いつか桁溢れする32ビットのタイムスタンプで十分な時間を扱えなかったことに気づかなかったわけはない。彼はリスクを知りながらも、できることをやったのだろう。
それだけではない。人権、プライバシー、経済、国家という領域との齟齬・・・新しいことを思いつくたびに、彼らは開けば後戻りのできない扉に向き合ったことだろう。
それでも、未来の扉を開くことを優先したのだ。
GENE MAPPER -full build- p.44
失われたインターネットの世界へようこそ。
キタムラ
GENE MAPPER -full build- p.67
「ビジネストラベル」は「出張」だったか。厳しくなりそうな案件だが、黒川さんは楽しむことに決めたのかもしれない。
Eチケットの渡航日を確認して目を疑った。 明日だ。
GENE MAPPER -full build- p.82
ご存知ないんですね。暑いところでは上着があるといいんですよ。林田さんこそ、その格好では汗でご苦労されそうな気がします。
黒川さん
GENE MAPPER -full build- p.90
食い物には、適度な雑味があったほうがいい。
キタムラ
GENE MAPPER -full build- p.118
証拠がなきゃいけないの?
ないから怖いんじゃないの!農場では原因不明の作物化けが進行してるの。大気も水質も土壌も、調べられる限りは調べたわ。それでも化けた原因はまったくわからないの
テップ
GENE MAPPER -full build- p.173
林田さんの真似をして感情補正を切ってみたの。緊張感が気持ちいいね。
テップ
GENE MAPPER -full build- p.296
正直に言いましょう。心は動きました。私だって好きでこの身体を扱っているわけではありません。ですが、私は未来に賭けているのです。
黒川さん
GENE MAPPER -full build- p.309
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