こんにちは。ポメラニ・アンパンです。5月ももう終わりですね。例年であれば夏に備えて意気揚々としているんでしょうが、今年は様相が異なりますね。
新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言が解除されつつある中、少しずつ経済活動が再開され、僕も久しぶりに近所のショッピングセンターに行ってきました。でも、コロナウイルスが無くなったわけではないので、マスクと手洗いうがい、ソーシャルディスタンスを気をつけて過ごします。
そんな中、今回紹介するのは僕がこのサイトを開設する前から是非紹介したかった作品『天冥の標』シリーズです。
今回は、その天冥の標の始まりである、『天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ』を紹介します。今、僕らの世界はまさにウイルスの脅威が世界にばらまかれていますが、『天冥の標』もウイルスのパンデミックに端を発するSFもの。第40回日本SF大賞受賞作品。
未知のウイルスが世界に広がり、治療をする人々、感染者、非感染者、その他様々な生き物との関係性から広がる壮大な物語です。
人や異星人、ロボット、宇宙船、怪物・・・これでもかというくらい様々な要素が詰め込まれた21世紀〜29世紀までの旅、僕は全て読んで本当に感動しました。この感動、ちょとでも届けばいいなぁ。
この本を読んだきっかけ
初めて読んだ小川一水さんの作品が、本作でした。入手するまで、何も知らず、ただ本屋さんで目に入った背表紙に書かれたタイトルで手に取り、カバーイラストとあらすじだけ見て購入しましたね。いや〜、まさかここまでドハマりするとは夢にも思いませんでした!本当に出会えて良かった作品です!
あらすじ
『かつて六つの勢力があった。それらは「医師団」「宇宙軍」「恋人」「亡霊」「石工」「議会」からなり、「救世群」に抗した。
「救世群」は深く恨んで隠れた。
時は流れ、植民地が始まったー。』
〜〜
地球から遠く離れた小惑星ハーブC。人類が入植して三百年ほどが過ぎていた。草木があり、海があり、羊が草を食む大地。そこはメニー・メニー・シープと呼ばれている。
この地には人々が「領主(レクター)」と呼ぶ圧政者がいた。強力な軍隊を持つ彼は、人々に無理難題を強いていた。電気の配電制限もその一つ。人々は「領主(レクター)」に不満を抱きつつも平和に慎ましく暮らしていた。
「領主(レクター)」の権力:入植事、地球からの物資を乗せて到着した宇宙船シェパード号。大部分が損壊するも、発電・配電機構は生きており、「領主(レクター)」はこれを掌握しているので、絶大な権力を持てる。この星には化石燃料が存在しないため、電気をつくるのが難しいのだ。
ある日、港町に住む医者セアキ・カドムは親友のアクリラ・アウレーリアから伝染病の発生を知らされる。アクリラは小柄だが引き締まった体に白い肌、腰まで伸びた金髪で、女性のような外見だが「海の一統(アンチョークス)」宗家の跡取りの少年だ。
「海の一統(アンチョークス)」:かつて、宇宙進出を志す過程で電気を体内に溜める事ができるように、自ら身体改造した人々の末裔。体内に溜めた電気で二酸化炭素を分解するので酸素呼吸がいらない。
彼らは生来船乗り気質を持っており、探究心旺盛でよく動く!彼らの武器、コイルガンは電磁誘導砲。体に溜めた電気を攻撃に使うのだ!
現場に向かった二人は、病気の原因を調べる過程で異形の怪物イサリと出会う。色は褐色、人間よりひとまわり大きな体、二足歩行でき、動きは俊敏。力も物凄く強く、硬質な鱗を持ち、鋭い前腕鉤を持っている。しかし、身分の高い者が身に付けそうな手の込んだ美しい金銀細工を纏っており、そいつは・・・恐ろしく美しい女の怪物だった。
伝染病の感染原因がイサリだとわかり、カドム以外の者はイサリを始末しようとする。しかし、イサリはたどたどしくも会話が成立し、意思疎通できる事がわかったカドムは、彼女を庇う。イサリはカドムにだけなついた。イサリは最初から人々に危害を加えようとしているのではなく、何かから逃げてきたらしい。
しかし、運命の歯車はイサリの出現によって回転し始める。イサリを手中に収めようとする「領主(レクター)」が軍を派遣してきた。
「石工(メイスン)」:異星生命体。サイズは人間の子供ぐらい。外見は昆虫に近い。知能は高く、リーダー的個体は人間と意思疎通できる。昔はもっと別の存在だったようだが、今はなぜか人間に逆らえず、「領主(レクター)」の軍事組織である航空警邏艦や軍事警察などの尖兵に成り下がっている。人間の住む街を攻撃するために、投入される。
種族としての特徴は、全個体が雌。共意識を持ち、一個体が受けた痛みや苦痛、悲しみ、喜び・・・あらゆる意識を他の個体と共有する。
「領主(レクター)」の軍が直接攻撃した事により、人々の日常が壊された。こうなると植民地の人々の間に「領主(レクター)」へ対抗するために、連帯する機運が持ち上がるのは必然だった。
新米の女議員エランカ・キドゥルーも、植民地の人々を結束させるのに大いに奮闘した人間の一人だ。彼女は新米議員ながらも、持ち前の正義感と人々のために何ができるかを考えた結果、「恋人たち(ラヴァーズ)」や羊飼いの協力を取り付け、カドム達とともに、打倒「領主(レクター)」の旗頭になった。
「恋人たち(ラヴァーズ)」:アンドロイド。三百人以上存在する。この植民地開闢時から存在している機械人間達。見た目は人間と寸分も変わらないが、生命体ではなく機械。彼ら同士でメンテナンスし合いながら生き続けている。
存在意義は人間への性愛奉仕。彼ら住む地区には、彼らが営む人間への奉仕を目的とした店が並ぶ。また、悠久の時間の中で芸術・ものづくりの腕を磨く者も少なくない。
紆余曲折を経て、ついに「領主(レクター)」を追い詰めた人々。これで暮らしが少しでも良くなれば・・・と小さな願いを誰もが期待したはずだ。
しかし、「領主(レクター)」は隠していた。隠さざるを得なかったのだ。
「領主(レクター)」自身すらも恐怖する、圧倒的な敵の存在を。
迫りくる絶望を・・・。
この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)
雰囲気
ごった煮。具材がとにかく多い鍋。強い個性を放つ登場人物達。積極的行動。
いろんな人が、奮闘しまくって一つの大きな流れに・・・いきそうだが、この第一章ではまだいかない(笑)!
例えるなら、よ〜く煮込んだ完成間近のカレーライスを一口食べた感覚に近い。味わい深く芳醇で、様々な具材が溶け合っている。そして『どうやってこの味を出しているんだろう?』という疑問が、そのまま『ここに至るまで何があったんだろう?』という読後の疑問を生じさせ、次巻が読みたくなる冴えたやり方だ。
読みやすさ:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
とにかく、登場人物や町の名前、固有名詞が多く登場し、情報過多に陥る。この手の物語に慣れていない人は、最初は戸惑うかもしれない。しかし、気にせず読み進めれば自ずと頭に入るような運びになっている。とにかく、訳が分からなくても読めばいい!
この第一章メニー・メニー・シープを読んでさえいれば、次巻第二章「救世群」から俄然面白くなるから!本当だよ!
ワクワク度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
異性生命体や身体改造した人、意思あるロボット、過去の遺物謎の戦艦・・・もうSF大好き人間にはたまらない要素ばかりで、この時点でもワクワク度が上がります。
ハラハラ度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
疫病が広がったと報告され、感染経路を調査するシーンや、イサリとの邂逅、軍事警察との衝突、新天地地下横穴の調査をするアクリラ一行、そして石工(メイスン)達の思考の変転・・・とにかくほとんど安心する暇がないほど、ハラハラさせてくれます。
食欲増幅度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
領主(レクター)勢力に捕まったカドムに差し出された食糧。パンや肉、その他様々な食料がさらに乗せられ、石工(メイスン)が持ってくるシーン。捕まって空腹状態のカドムを思うと、腹が減るね。
マダム・フィンの昼食会でのザワークラフトとフランクフルト・ソーセージ(羊肉)。僕もソーセージは大好きで、焼きそばとか鍋にも入れる。でも、こういう立食パーティーで出る料理も美味しいだろうなぁ。
あと、直接関係ないかもしれないが、アクリラや海の一統(アンチョークス)一行は皆身体能力が高く、元気に動く。彼らの躍動感を文章で感じているとこっちも腹が減ってくる。
冒険度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
怪物を追ったり、海の一統(アンチョークス)一行が地下を調査したり、冒険的要素も多い。
胸キュン:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
恋愛というより性愛といった方が良いだろうか。恋人たち(ラヴァーズ)を語るなら切っても切れない話が性愛だからだ。人に奉仕するためだけに作られた意思ある機械、恋人たち(ラヴァーズ)とそこに入れ込む人間との倒錯した関係も面白い。
一方でイサリのカドムに対する思いは、恋人たち(ラヴァーズ)らと正反対で、とにかく純粋で微笑ましい。戸惑うカドムもまた、微笑ましい。
血湧き肉躍る:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
物理的な戦闘だけでなく、エランカが様々な人から協力を取り付けていく過程や、恋人たち(ラヴァーズ)が海の一統(アンチョークス)のリーダーになるアクリラに忠誠を誓うシーン、最後の領主(レクター)に詰め寄るシーンまで、見逃せない場面は多い。
希望度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
立場や種族を超えて連携し、領主(レクター)へ対抗する勢力に育つところは爽快。カドムとアクリラの主人公格の二人が主体性があり未来を向くタイプの人物なので、絶望的な状況でもそれほど辛くない。また、強力無比の怪物=イサリがこちら側という事も、一筋の希望だ。
そしてもう一人、ただの人間で新米女性議員のエランカ・キドゥルー。彼女の正義感、責任感が物語を良い方向に導いていく。
絶望度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
希望を上回る絶望指数。物語終盤にて突如現れる、領主(レクター)が植民地の住人を騙してまで配電制限をし、ひた隠しにしてきた脅威、咀嚼者(フェロシアン)。
人間と見るや、容赦無く殺戮する彼らは、メニー・メニー・シープを文字通り地獄と変えた。生き残った人々はどうするのか。暗く、思い絶望によって第一章は幕を閉じるのだ。
残酷度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
航空警邏艦に乗る人間の上官が石工(メイスン)に対する処遇は残酷極まりなく、読んでいて胸糞悪くなる描写。人間に忠実な昆虫のような石工(メイスン)に暴行し、苦痛の声を上げる石工(メイスン)の共意識が、残酷さを一層際立たせる。
恐怖度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
アクリラ一行が横穴を調査中、大転落するシーンと、咀嚼者(フェロシアン)の大群が破壊と殺戮するシーンは、なかなかの恐怖。それ以外は、そこまで強く恐怖を抱くシーンは無かったかな。
ためになる:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
本作メニー・メニー・シープだけで論ずるのは違う気もするが、天冥の標を「読んでみたい」と思わせる力がある。天冥の標全体について言えば、あらゆる生命皆頑張って生きようぜ!というメッセージがあるので、読んでためになる、というより生きる力を得られると信じております。
泣ける:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
恋人たち(ラヴァーズ)の少年ベンクトがエランカにバイオリン曲を披露するシーン、その後彼が言う台詞は胸を突く。
『自分たち機械の演奏でも、ただの音の連なりではなく、旅立ちを感じさせる音楽に聞こえた事が嬉しい』と。
本作では人間ではない恋人たち(ラヴァーズ)が最も感情的に切なく、僕にとっては涙を誘う所が多かった。
ハッピーエンド:1 ⭐️
「領主(レクター)」がひた隠してきた恐るべき敵。蹂躙された世界は果たしてどうなるのか・・・。
誰かに語りたい:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
読んだ人と語りたい。僕が気づいていない伏線、まだまだありそう。もちろん読んでない人は、読んでくれ、と自信を持ってオススメできる!
なぞ度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
この時点では明かされていない事ばかりなので、謎だらけ。気にしたら負け。
静謐度:1 ⭐️
ごった煮だから静かなはずがない。でも、小川さんの文体は好き。
笑える度:3 ⭐️⭐️⭐️
クスリと笑えるところはある。石のロボットであるフェオドールが動くシーンを想像するだけでも楽しい。ゴロゴロゴロ・・・(笑)!フェオドール家にいたら楽しいだろうなぁ。強いし、セキュリティー万全になると思う。
切ない:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
恋人たち(ラヴァーズ)も切ないんだが、仲間と父を失っても輝きを失わないアクリラも、胸の内は哀しみを抱えているかと思うと切なくなる。ラゴスには叱咤されてしまうしな・・・。でも、それを跳ね除け、「やってやるよ!」と毅然と言い放ち、ラゴスが忠誠を誓うシーンは凄く燃える。付いて行きたくなる艦長(キャプテン)だよ、アクリラは!
エロス:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
性愛についてのシーンがある。エロいシーンもある。人間の軍人で、とてもエロい人が出てきます。
データ
タイトル | 天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ (上) 天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ (下) |
著者 | 小川一水 |
発行元 | 早川書房 |
コード | (上)ISBN978-4-15-030968-8 (下)ISBN978-4-15-030969-5 |
まとめ
天冥の標・・・このサイトを開設した時から、いつか紹介したいと思っていたんですが、ようやくです。でも、本当は天冥の標全ての章を紹介しようと思っているので、いつまでかかるか見当も付かないんですが・・・。
とはいえ、こうしてはじめの一歩を踏み出せて良かったです。僕が天冥の標を読んだのは、2〜3年前、ちょうど第五章あたりが発売された頃から、読み始めたんですよね。すっかりハマって、あっという間に発売している巻まで読み追い付いてしまい、次巻の発売を楽しみに待っていたので、途中からリアルタイムで追っかけていたシリーズです。
今回、久々に読み返してみて、この怒涛の情報量!最高〜!とか、イサリ可愛い!とか思いながら、一人ニヤニヤしながら読んでました←キモッ!
本作、および天冥の標を一言で言い表すと「意思の奔流」です。命あるもの、命なきものも問わず、意思あるものがその「思い」を強烈に発しまくり、それによって、意図しない事も重なって起こってしまい、宇宙スケールで物語が転がっていく・・・そんなイメージです。だから、何でもありのごった煮なんですよね!
とはいえ、天冥の標は壮大なスケールながらも全十章で完結する物語です。章ごとに特徴があり、本作第一章はSF要素をふんだんに取り入れたごった煮でした。しかし、第二章は感染症のパンデミックが主題となるお話。第三章は宇宙大航海時代の話・・・というように章を追っていくと本作メニー・メニー・シープに辿り着く構成になっていますので、是非物語を追ってみてください。
気になったフレーズ・名言(抜粋)
こいつは言葉が通じるんだ。どけと言ったらちゃんと俺の上からどいてくれた。襲ったといっても先に手を出したのか?身を守っただけじゃないか?
セアキ・カドム
天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ(上)p.58
俺はおまえの友達だよ。おまえが血気にはやって無茶なことをしたら、止めるのが俺の役目だ。
セアキ・カドム
天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ(上)p.58
エランカは今、言ってくれたよな。旅立ちみたいな、って。そうだよ、俺、そう言うつもりで書いて、弾いた。そしたら、ちゃんと伝わったよ。なあ、今のはただの音の連なりじゃなかったんだな?
ベンクト
天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ(上)p.257
それでは洗濯、ができません。
カヨ
天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ(上)p.313
俺たちは罠だ。人間を惑わせ、たらしこみ、多くの大事なことを忘れさせるために作られた罠だ。甘い蜜をたたえる沼だ。
ラゴス
天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ(下)p.54
カドム、大勢を幸せにするのは難しいわ。一人を幸せにするのでさえ大変なんだから・・・・・・。
セアキ・サリエ
天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ(下)p.77
イサリは美しかった。全身に染料で優雅な彩文を施している。装身具の小さな鎖のひとつまで黒ずみを磨き落としてあり、薄暗い光の下でも燦然と輝いて見えた。何よりもそのおもてを染める憂いの色が、カドムの心をざわめかせた。
天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ(下)p.129
人は呪縛を振りきれる。でも恋人たち(ラヴァーズ)は呪縛が目に見えない。見えないものを振りきるのは難しいと思いませんか。
オーロラ
天冥の標 Ⅰ メニー・メニー・シープ(下)p.247
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