天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ

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こんにちは。ポメラニ・アンパンです。近頃少しずつ暖かくなってきましたね。桜が咲いて、下手すらもう散りそうですね。

3月は個人的にちょ〜っと忙しくてあまり更新できませんでした。ごめん!

でも、季節はあっという間に巡りますね。ちょっと前まではすごく寒かったのに・・・。

さて、そんな僕ですがようやく更新できる時が来ました。今日はついにあの長編の最終章です。そう、ここで「もう、またこれか・・・」と声が聞こえてきそうなほど感想をあげておりますが、

『天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ』の読書感想です。

この本を読んだきっかけ

長く続いたこのシリーズも、いよいよ最終章の第十章です。シリーズで読み続けていると、最後の方になると読む速度が遅くなることはありませんか?特に思い入れのある登場人物がいたりすると。

「ああ、もうこの物語は終わってしまうんだ」と思い、寂しくなってしまうんですよね〜。

僕もこの物語は少なからずそんな気持ちが芽生えていましたが、一方で「ちゃんと彼らの結末を見てあげたい」と思って読みました。

10章以前の天冥の標の読書感想はこちら↓

天冥の標
「天冥の標」の記事一覧です。

あらすじ

メニー・メニー・シープに生きる人々と、「咀嚼者フェロシアン」=「救世群プラクティス」との戦いも終わりが近づいてきた。今や一枚岩ではなくなった救世群の人々は、女帝ミヒルを崇拝する者以外の多くは、ミヒルの行動に疑問を感じていた。反ミヒル派のリーダー的立場のエフェーミア・シュタンドーレらの手引きで、ミヒルの実の姉であるイサリ・ヤヒロは、新たなる救世群の指導者となる。

しかし、当のイサリ本人はミヒルを取り戻すこと、止めること、皆が明日を生きるための世界を取り戻すことが重要だった。

一方「休息者カルミアン」のリリーは、新たに女王となり、より高度な情報収集能力を得た。その結果、ミスン族の総女王オンネキッツと他の宇宙諸族との会話を傍聴する。それによると、迫りくる危機「昏睡の沼=オムニフロラ」への対抗策として恒星を赤色矮星化しさらに超新星爆発を引き起こそうとしている。それも「休息者」らの母恒星だけでなくもう一つ他から持ってきた恒星をも超新星化するので、2つの星の超新星爆発を引き起こすつもりだ。

超新星爆発・・・宇宙最強の大爆発が起きると周辺に生きる宇宙所族は軒並み吹き飛ばされる。リリーはオンネキッツを止めねば、と思った。

あらゆる者を飲み込み、侵攻してくる「昏睡の沼=オムニフロラ」に打ち勝つ方法を探さなければ明日はない。

メニー・メニー・シープに生きる人々にとって、自分たちが実感できないほどの規模の危機が迫る中、ヒトである者とない者とが共闘する。

宇宙の樹木の種族の王女や、岩と硫黄と炎から成る種族、その他様々な宇宙に生きる種族が超新星爆発を引き起こそうとする総女王オンネキッツを止めようとふたご座μ星付近に集結していた。

また、本章では今まで語られていなかった太陽系のことが明らかにされる。すなわち、ミヒルが冥王斑原種を解き放った後の空白の300年間の事。バラトゥン・コルホーネンは当時の太陽系人類で唯一、オンネキッツを止める戦いに参加した人間だ。彼は膨大な数の艦隊を率いて、救世群を追いかけてきた男なのだ。

一方、共意識によって高度な思考力を得た「休息者カルミアン」のリリーは、昏睡の沼=オムニフロラへの対抗策を見出した。

メニー・メニー・シープに生きる人々は、総女王オンネキッツを思い止まらせ、迫りくる極大の危機を乗り越えられるか。

長き物語の臨界点と終着が描かれる。

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

和解、種族の違い、宇宙に生きる者、超新星爆発、AI艦隊、淘汰、共存共栄、進化、ウイルス、冥王斑、子孫を残す事、人間、希望。

メニー・メニー・シープ内での戦いがひと段落し、救世群との和解の風潮が現れる。しかし、判明する最大の脅威に対し、皆一丸となって危機を回避する必要が出てくる。

これまで敵対していた者との共闘、協力、援助・・・決して綺麗事だけでは割り切れない者同士が、それぞれの感情に振り乱されながらも、共に危機を乗り越える姿は、胸を打つ。

読みやすさ:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

第艦隊の描写、生粋のSF好きにはたまらないだろうけど、そうでない人は面食らうかも。艦隊の数もちょっと現実には見れないほどの物凄い数出し。とはいえ、その他の描写はいつもの小川一水さんらしく読みやすく、それでいて人物の内面も豊かに描かれている。

ワクワク度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

本章から登場する宇宙に生きる諸属たち。木のような種族や、炎と岩のような種族、特徴的な紋様を持った種族・・・その他いろいろな「宇宙に生きる者」が登場し、メニー・メニー・シープの人々と接触する。彼らは敵か味方か。最終局面に向けて物語は一気にスケールを大きくする。

ハラハラ度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

人間と比較すると想像を絶する大きさの宇宙の諸族たち。一部小さいのもいるけど。そいつらと対面するだけでもハラハラものだが、やはり最大のハラハラポイントは星の爆発を・・・。

食欲増幅度:3 ⭐️⭐️⭐️

食欲増幅とは少し違うが、救世群とメニー・メニー・シープの人々の食事会のシーン、結構好きだなぁ。

胸キュン:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

イサリ、カドムの二人の愛は良い愛の形だと思う。イサリの硬殻化の姿しかカドムは見たことがない。イサリは元の体を手に入れれば、硬殻化のイサリではなくなる。それを心配するイサリだが、カドムは気にしないのだ。

ページをめくる加速度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

様々な勢力、様々な人々、時間軸の断片的なエピソードが差し込まれるので、流れで一気に読みまくるという感じはないが、どのエピソードも繋がりがあり、読むことでより面白さが増してゆくのでどんどん読める。

希望度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

読後感・・・イサリやカドムたちの物語が終わってしまった寂しさと・・・でも希望を感じる良いエンドです。

絶望度:3 ⭐️⭐️⭐️

あらゆる種族が英知を絞り出して対抗したので、「なんとか良い方向に行くだろう」という空気があったので、絶望感はそこまで大きくなかった。

残酷度:3 ⭐️⭐️⭐️

圧倒的なスケールの艦隊戦が多いので、そこまで残酷さを感じなかった。とはいえ、多くの命が一瞬で消し飛んでいるので、そこは読者の感覚によるのかなぁ・・・。

恐怖度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

コンタクトができるとはいえ、全く未知の宇宙の種族との対話はやはり怖さがある。

ためになる:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

人の弱さと強さをきちんと描いていると感じた。

泣ける:3 ⭐️⭐️⭐️

泣くというよりは、胸の奥に本作を「思い出」として持ち続けたいと思った。

読後感:10 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

読後感・・・イサリやカドムたちの物語が終わってしまった寂しさ。でも人は弱さを自覚し、強くなれる生き物だという、希望を感じさせてくれるエンドだった。10章17巻読み終えたという万感の思いもあり、読後感は良い。

誰かに語りたい:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

美しいだけの話ではない。この宇宙は、地球は清濁善悪いろんな奴らが満ち満ちていてだからこそ、それが良いんだとカドムは言う。自分や世界の事を考えるには、ちょうど良い作品だと思う。

もちろん、そんな事気にせず楽しみとして読むのもオススメ!

なぞ度:2 ⭐️⭐️

謎ではないけど、カドムとイサリ・・・その他みんなの後日談が気になる。

静謐度:1 ⭐️

序盤から最後までドンパチしたりガヤガヤしたりで静謐さは無い。

笑える度:1 ⭐️

笑う箇所は少ない。

切ない:2 ⭐️⭐️

カドムを好きなアクリラ。全てを見守るしかできないアクリラの気持ちになると切ないなぁ。

エロス:4 ⭐️

エロとはすなわち・・・この物語のもう一つのテーマなのではないかと思える重要な要素。

データ

タイトル天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ
著者小川一水
発行元早川書房
コード(PART 1)ISBN978-4-15-031355-5
(PART 2)ISBN978-4-15-031359-3
(PART 3)ISBN978-4-15-031362-3

まとめ

ああああああ〜〜〜、ついに終わってしまった〜〜!!!

天冥の標、全10章・・・とうとう終わってしまいました。

読後感はなんともいえない寂しさと希望がありました。僕の中ではカドムもアクリラもみんな古い友達のような気がしています。

思い返せば・・・カドム、アクリラが怪物イサリに出会い、なんだかわからない場所で人造人間やら昆虫のような兵士やら圧政を強いている奴らやロボットが出てきた(第1章)と思ったら、今度は20XX年代の地球で謎の病原菌がパンデミックする話に(第2章)。

かと思いきや宇宙を駆け回り、宇宙海賊と戦う話が出てきて(第3章)、そのまた次はなんかセックス描写がこれでもかと出てくる話になり(第4章)・・・次は宇宙の農家と遥かなる昔に生まれた小さな「意思」の宇宙大旅行の話が出てきた(第5章)。かつて隔離された人々が力を手にして暴走する話になり(第6章)、危機からの避難だったはずが閉鎖空間で生き抜くための極環境サバイバルになり(第7章)、1章と時間軸は重なるが、イサリ視点でのメニー・メニー・シープが描かれ(第8章)、カドムやラゴスがメニー・メニー・シープの謎を探るべく冒険し、真実を知る(第9章)。そして・・・。

本章ではこれまで描かれた勢力「医師団リエゾン・ドクター」、「海の一統アンチョークス」、「羊飼い」、「恋人ラヴァーズ」、「休息者カルミアン」、「救世群プラクティス」、「ダダー」などの末裔が共闘して最大級の危機に立ち向かう話です。

特に、虐げられた人々=「救世群」は力を手に入れ、一時は太陽系を壊滅させました。彼らの戦闘強化形態=「硬殻化クラスト」がさらに凶暴化した「「咀嚼者フェロシアン」は、メニー・メニー・シープを恐怖のどん底に叩き込んだのです。そんな彼らも一枚岩ではなく、女帝に与しない勢力はメニー・メニー・シープに住う人々と和解。ついには彼らも危機を乗り越えるべく共闘するのです。

人と人は「休息者」のような共意識を持たないので、考え方は全て人それぞれ異なり、だからこそ傷付けあう。傷付けられた側は相手に憎しみを抱くこともあります。それも無理からぬ事だと共感はできます。

一方で憎しみに囚われない人間もいます。人は弱いけれど強い。未熟だけど、まだまだ人間は可能性に満ちている。

本作は人間の美しい部分も醜い部分も余さず描き切った傑作だと思います。

・・・日頃、仕事に行き、仕事から帰ってきて、自分の価値をとても自分で認めてあげることができなくなる時があります。

そんな時は、この物語を思い出そうと思いました。勇気ある彼らを思い起こして・・・。

気に入ったフレーズ・名言(抜粋)

何を失ったの?

〜中略〜

何も失ってない。前からなかったものが、引き続きないだけ。それもみんなが知ってたこと。あなた以外は

チカヤ
天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ(PART 1) p.41

立ち止まるな。押し潰されるな。生きられる場所を見つけて生きていけ。あんたたちが消えていい理由は何もない。

青葉 
天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ(PART 1) p.61

私が言いたいのは、私たち人間が強いはずだということです。強いというのは、新しい仲間を受け入れられるということです。自分の憎しみや悲しみに耐えられるということです。

セアキ・カドム
天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ(PART 1) p.114

兵士が目の前の敵に全力を叩きめるのは、自分の背後に自分より大きなものがあるとわかっているからだ。守るべき家族だったり、恋人だったり、そういう人々が住んでいる国だったり、あるいはそれらをすべて包みこむ大きな存在が、自分が死んだあとも続いていくと信じられるから、死んでいけるんだ。未来だよ、セアキ先生

イスハーク
天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ(PART 1) p.119

五百億隻を超える2PA艦隊が舳先をめぐらし、はるかなる未来で出会うはずの過去の人々の元へと船出した。


天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ(PART 1) p.228

全部、抱えていってやる。あたしに任せて

イサリ・ヤヒロ
天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ(PART 2) p.318

千年後も、きっと私たちはいますよ。何がどうなって……というのは言いにくいんですが、そうに決まってます。どこで、どんな服を着て、どんな家で子供を育てているのかなんて、わかりませんけど……とにかく何か着て、なんとかやっていますよ。そうでないわけがありますか?

ヴィクトリア・キム 
天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ(PART 3) p.32

私は綺麗で根性のあるミスン族のリリー。汚れを恐れる臆病者ではないのです。では、イサリ、カドム。見ていてください。

リリー 
天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ(PART 3) p.292

さあみんな、あとちょっとだぞ!準備はいい?よくない?悪いけど延期はできないよ、一発勝負の本番だ!全族群、耐爆態勢!二時間半で食べて出せ!通信を厳重に維持してペットと子供を丈夫な箱へ!ペットがいない?いなけりゃなんでも大事なものをだ!いいかぁ行くぞ!

星が燃えても我らありLose Star, We Stand

アクリラ・アウレーリア 
天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ(PART 3) p.324

病気や制度がなくなってもさ、敵をやっつけたい、馬鹿にしたいっていう人間の心の底の気持ちは、きえないとおもうけどさ。僕たちは、そういうところがある。でも、でもね。例えば君のような人間が、いつでも出てくる。いつだって出てくる。壁を作るんじゃなくて、乗り越える人が。これも人間の本当だから、消えないよ。

岡田友康 
天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ(PART 3) p.359

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