動物農場

ディストピア

こんにちは。ポメラニ・アンパンです。12月も半ばに差し掛かり、いよいよ年末の足音が近づいてきましたね。そろそろ、来年に向けて何かを考える人もいれば、師走の真っ只中、忙しくなっている人もいるでしょう。

僕も仕事で繁忙期に入りかけなので、だんだんと仕事の密度といいますか、負荷は上がってきてます。しかし、幸か不幸か正社員ではないので残業をせず自分時間は確保できる状態です。*財布は常に厳しいですが・・・。

さてそんな中でも今日ご紹介する本は『動物農場』です。タイトルだけ見ると動物の楽園の話なのか?と思いがちですが全然違います!

最近動物を「擬人化」した漫画やアニメが流行っていますが、本作は「擬動物化」作品。『一九八四年』と並ぶジョージ・オーウェルのもう一つの名作です。

この本を読んだきっかけ

Twitterの読書アカウントの方で、ディストピア祭りと称してディストピア小説を集中的に読んでる方がいらっしゃり、その中で紹介されていた本作。早川書房からも関連グッズが出ていて気になっている作品でした。

それに僕が衝撃を受けたあの『一九八四年』。その著者ジョージ・オーウェルのもう一つの名作と呼ばれていることもあり、是非読んでみたいと思い、ついにそのタイミングが訪れたのです。

『一九八四年』の感想は↓

あらすじ

イギリス。人間のジョーンズさんが動物たちを管理する「メイナー農場」にはたくさんの動物たちがいる。ある夜ジョーンズさんが寝静まった後、もっとも頭の良いブタの老メイジャーの周りに動物たちが集まってきた。農場でもっとも体躯に優れた力持ちの馬車馬ボクサー、中年に近い雌馬のクローバー、農場で最年長のロバのベンジャミン白ヤギのミュリエルなどなど。

そこで老メイジャーは語り始める。自分たちの生活がいかに悲惨で労苦ばかりを背負わされる生き方か。全ての元凶は人間にある。人間こそが、動物たちの労働によって生まれた産物を強奪する。こんな事は自然の摂理に反する。いつの日か反逆せよ。動物たちは自分たちの力で人間の圧政から解き放たれるべきだと説く。動物たちは大歓声。老メイジャーは動物たちに歌を教えた。

老メイジャーは静かにその命を全うした。ベンジャミンの意志を継ぐかのように動物たちの中でもっとも頭の良いブタが、メイジャーの志や考えを他の動物に伝える流れが自然にできた。頭の良いブタの中でも、とりわけ頭角を現した二頭のブタがスノーボールナポレオン。彼らは老メイジャーの思想を体系化させ、動物主義として他の動物を取りまとめるようになる。

口の立つスノーボール、口はうまくないが欲しいものは手に入れるナポレオン、そしてあらゆる動物に上層部の意向を伝える太ったブタのメッセンジャーのスクウィーラ、このブタたちによってメイナー農場の動物たちは取り仕切られてゆく。

その後、幸運と偶然が重なり、ジョーンズさんをはじめとする人間を皆農場から追い出すことに成功した動物たち。これで人間の支配から解放された!もう毎日脅かされずに静かに暮らせる、そう思っていた動物が多かった。

スノーボールとナポレオンはメイナー農場の名を新たに「動物農場」と改名し、老メイジャーの思想を七つのルールに明文化し、それを発表した。「七戒」と称され、以後動物たちはこのルールに従って生きる事になる。

七戒

1. 二本足で立つ者はすべて敵。

2. 4本足で立つか、翼がある者は友。

3. すべての動物は服を着てはいけない。

4. すべての動物はベッドで寝てはいけない。

5. すべての動物は酒を飲んではいけない。

6. すべての動物は他のどんな動物も殺してはいけない。

7. すべての動物は平等である。

ブタ以外の動物たちは、頭の良いブタたちの政策を信じ、ブタたちから課せられる仕事に精を出した。毎日働き、疲れるも、人間に奪われる事なく労働の結果は自分たちの取り分となるので、皆懸命に働いた。

一方でスノーボールとナポレオンを筆頭にブタたちは巧みに権力を行使してゆく。ミルクとりんごの収奪に始まり、次々と他の動物たちには無い、自分たちだけの特権を打ち出してゆく。他の動物たちは違和感を感じつつも反論するやり方がわからない、あるいは言語化して意見陳述ができる者がいなかった。それほどブタたちは言葉巧みに他の動物たちを籠絡し、支配してゆく・・・。

ブタ以外の動物たちにとって、毎日(ブタから)課せられる労働は厳しいものだった。それでも人間に支配されるよりずっとマシだと思いながら働いていた。そんな状況下で、スノーボールとナポレオンの対立が激化。ついに、スノーボールを追放してしまうナポレオン。ここからナポレオンを中心とした独裁政権が幅を利かせはじめる。

農場に電気を引く事を目的とした風車の建設事業に乗り出すナポレオン。厳しい労役を課せられる動物たち。食糧配給は日に日に少なくなるも耐えて頑張る動物たち。特に農場で一番筋力に優れた馬車馬ボクサーはどんな局面でも「わしがもっと働く!」をモット一に、活躍する。

もちろん不満を抱く動物もいたが、ナポレオンの権力はどんどん増していき、不満すら言えなくなる状況が作られる。ある時ナポレオンは、自分の意に沿わない行いをした動物を、自分が育て鍛え上げた9頭の犬に処刑させる。公開処刑を目の当たりにした動物たちは、震え上がる。

権力の暴走は止まらない。人間を皆で追い出した際、間違いなく勇敢に戦ったスノーボールの姿を覚えている動物も、スクウィーラの弁舌でスノーボールは裏切り者だと、吹き込まれ、次第に「そうだったかもしれない」と誰もが思うようになった。反対にナポレオンこそが唯一この「動物農場」に安寧をもたらすのだ、という印象操作も抜かりない。

極め付けは、かつて老メイジャーが言った「人間のように服を着たり、酒を飲んだり、ベッドで寝たり、二本足でたってはいけない」をことごとく破り超然としているブタたちだった。

かつて定められた七戒を、ロバのベンジャミンが読んでみると、ただこう記されていた。

「すべての動物は平等である。だが一部の動物は他よりもっと平等である。」と。

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

反乱、支配、従属、混迷、連帯、友情、喪失、階級、記録、文章、文字、改竄、記憶、取引、人間、動物・・・。

登場するのは少しの人間と動物たち。動物たちの人間への反乱物語かと思いきや・・・。

支配する者とされる者、どちらが賢者でどちらが愚者か。とある時代、とある人間社会の構造を、そのまま動物たちに置き換えた痛烈な作品。

読みやすさ:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

物語は155ページのボリュームなので、サラッと読めてしまう。日本語訳の文体もシンプルで、ストーリーも単純明快なので特に苦労なく読める。

ワクワク度:3 ⭐️⭐️⭐️

皆で人間を追い出すところはちょっとワクワクしたが、その後はワクワクというよりハラハラが大きい。

ハラハラ度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

皆で人間を追い出してから、どんどん権力を掌握するブタたちの手管と支配される側がどうなっていくかは、常に気になる。上層部(スノーボール、ナポレオン)も安定しておらず、不穏な空気が常にあり、ある種常にハラハラする空気を孕んだ作品。

食欲増幅度:1 ⭐️

動物たちが食べる餌、ブタたちが乾杯している酒などの描写はあるが、美味しそうだと感じる場面はない。

胸キュン:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️

恋愛は無い。胸キュンというより、胸が痛い感じの箇所は、ボクサーの末路。ベンジャミンの鬼気迫る焦りがなんとも・・・。

ページをめくる加速度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ネガティブな話なんだが、えげつないブタの政治とそれに翻弄される動物たちの行末が気になってどんどんページをめくってしまう。

希望度:1 ⭐️

夢も希望もない。

絶望度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

独裁政治ってやっぱりダメだな・・・。一個人の我儘がまかり通るとその他大多数が巻き込まれ、恐ろしいのはそれが普通だと感じるようになってしまう事。真綿で首を絞められつつも、ただ働くためだけに生かされる被支配者には希望はない。

残酷度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

凶暴な犬によって処刑される動物たち。彼らは群衆の前で、自らの罪を告白させられ、殺される。あえて公開処刑する事で恐怖を植え付ける典型的な手法だから、残酷さがものをいう。

恐怖度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

あまりにも狡猾なブタの論説と民衆(ここで言うブタ以外の動物)を丸め込むやり方。まさに独裁政治で全体主義。民衆に反論の機会を与えず、法律を改竄し、印象操作し自らの都合の良い民衆に作り替える手法は恐ろしい。僕が生まれる前に実在した社会主義を模した独裁政権はこのようなものだったかと思うと背筋が冷える。

ためになる:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

本編よりも、巻末に収録されている「報道の自由:『動物農場』序文案」や、「『動物農場』ウクライナ語版への序文」はジョージ・オーウェル自身が書いていて、著者の出自や当時の社会情勢、ジャーナリズムの状況と彼の批判、本作を書くに至った経緯などが書いてあり、ためになるかどうかは別として興味深かった。また、訳者の山形浩生さんのあとがきにおいては、フランス語版では「ナポレオン」が「シーザー/カエサル」に変更になったなどの経緯もあり、「へえ!」と思える部分が多かった。

本編ももちろん社会主義を語る独裁政治への批判と読み取れる内容だが、あとがきが結構読み応えがあって勉強になる。

泣ける:3 ⭐️⭐️⭐️

動物たちの処刑を見た後のクローバーの思いはただ哀しい。ブタたちへ反乱を考えもしなければ、人間が復帰することも望んでもいない。ただ飢餓と鞭から解放され、平等に皆能力に応じて働ければ、とそんな事が皆の理想だったのに。「こんなことのために皆頑張ったわけじゃないのに・・・」と。

読後感:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

おとぎばなしと言うには強烈な作品だった。オーウェルの痛烈な批判が垣間見える。今「擬人化」が流行っているがこれは逆。人間社会の暗部を動物に置き換えた作品だから「擬動物化」と言うのだろうか。とにかく、穏やかな気持ちにはなれないが、残る作品ではあった。

誰かに語りたい:3 ⭐️⭐️⭐️

「独裁政治って何?」と訊かれたら本作を読め!と勧めれば良いかも。

なぞ度:1 ⭐️

おとぎばなしだからブタが二足歩行しようが服を着ようがかまわん。

静謐度:1 ⭐️

次々といろいろな事態が発生するので静謐さは感じなかった。

笑える度:1 ⭐️

笑えない。

切ない:3 ⭐️⭐️⭐️

雑にいうとブタに支配される動物全てが切ない。一所懸命働いても暮らしは良くならず、ブタ共はますます肥えていき、無理難題を押し付けてくる・・・。読んでてやるせなくなってくる。

エロス:1 ⭐️

無い。

データ

タイトル動物農場
原作タイトルANIMAL FARM
著者ジョージ・オーウェル (GEORGE ORWELL)
訳者山形浩生
発行元早川書房
コードISBN978-4-15-120087-8

まとめ

動物農場、読みました〜!『一九八四年』で衝撃を受けて以来、ジョージ・オーウェルの著作は僕にとってしばらく残りました。しかし、すぐさま本作を読むことはなく、しばらく他の作品を読んだりしていました。そうこうしているうちに、早川書房のアパレルブランド『HAYAKAWA FACTORY』から本作『動物農場』関連グッズが発売されて「やっぱり読もう!」と思ったのがきっかけの一つ、もう一つはTwitterで紹介されている方がいて読もうと思いました。

『一九八四年』よりもすんなり読めてわかりやすいなぁと思いました。しかし、『一九八四年』に通じる「洗脳や改竄、民衆に物事を考えさせない、反論させない」というテイストは共通していて「ああ、やっぱりオーウェルだ」と感じました。巻末の「報道の自由:『動物農場』序文案」でオーウェル自身が述べているように、出版社に本作を断られた際に「本作が一般的な独裁者や独裁政治を対象としているなら良いが、明らかにドイツのトロツキーとスターリンをなぞっているとしか解釈できず、それはよろしくない、また支配階級がブタなのがよろしくない」と言われたんだとか。歴史を知っている人なら本作を読んでロシアのことだな、と分かるくらいそのままのようです。(僕はロシアの歴史に明るくないので本作の巻末を読んでから上記を知ったのだが。)

ジャーナリストの経験があるオーウェルらしい社会と報道に関する観察眼からこのような作品が生まれたと思って納得できた。何より、「情報のコントロール」という部分においてオーウェルが書く物語『一九八四年』や本作『動物農場』は秀逸だと思いました。

民(被支配者層)が空腹なので、上層部に尋ねます。「どうして指示通り懸命に働いているのに生活が苦しく、腹は満たされないの?」上層部の説明・・・数字や統計(それすら偽りのデータ)を持ち出し「統計上では非常に国は豊かになっている。君たちのおかげだ。心配することはない。以前よりもマシだっただろう?」という感じで、言葉巧みに民を欺くやり方。それ以上追求しようものなら・・・。

こんなのがまかり通っている国は無いと信じたいが、案外あるかもしれない、とも思えます。僕は幸い日本という国で生まれ育っているので、あまりこのような心配はしてませんでしたが、やはり政治の動向は注視し、明らかにおかしいと思った政策には反論できるくらいの知識が必要だな、と感じました。(情報があふれる中、判断をするための情報を取捨選択する事も大変ですが・・・)

本作では訳者の山形浩生さんもおっしゃっていたように、「リンゴとミルクがいつの間にか収奪された時点で、(ブタ以外の)動物たちはしかるべき反論をしておくべきだった」と。

本作はディストピア小説と位置付けられていますが、読んだ後の印象としては御伽噺の皮をかぶった政治風刺小説でしたね。

気に入ったフレーズ・名言(抜粋)

人は自分自身以外のどんな生物の利益にも貢献しない。そして我々動物たちの間には完璧な一体性、闘争の中での完璧な同志精神がなくてはならない。人なすべて敵だ。動物はすべて同志だ。

老メイジャー
動物農場 p.15

動物たちは、それまではあり得ると思ったこともないほど幸せでした。食べ物一口事に、それがご主人により嫌々配給されるのではなく、自分たちが自分たちのために生産した、真に自分自身の食べ物だということで、心底嬉しい喜びが感じられるのです。役立たずの寄生虫的人類がいなくなって、みんなが食べる分は増えました。


動物農場 p.35

四本足はよい、二本足は悪い


動物農場 p.40

同志よ、トリの翼は推進器官であり、操作器官ではない。したがってそれは足と解釈されるべきだ。人を区別するしるしは手だ。手は人間がその悪行すべてを行う道具なのだ

スノーボール
動物農場 p.41

それ以上の議論なしに、ミルクと風で落ちたリンゴ(さらには熟した後のリンゴの主な収穫)はブタたち専用にとっておかれることが合意されたのでした。

動物農場 p.44

抗議をしたかった動物も何匹かいましたが、やり方がわかりません。ボクサーでさえ、漠然と困惑しました。耳を倒し前髪を何度かゆすって、考えをなんとかまとめようとしました。でも結局、何も言うことが見つかりません。

動物農場 p.64

クローバーが丘を見下ろすと、その目には涙があふれました。もし思ったことを口にできたなら、何年も前に人類打倒のために活動を始めたときにみんなが目指していたのはこんなものではなかったと述べたことでしょう。

動物農場 p.97

でもおおむね動物たちはこの式典を楽しんでいました。自分たちが真に自分自身の主人であり、やっている仕事も自分自身のためなのだというのを改めて知らされるのは、心安まるものだったのです。だから、歌だの行進だの、スクウィーラの数字羅列だの、銃の号砲だのオンドリの鳴き声など旗のはためきだののおかげで、皆は自分たちの腹が空っぽだということを、少なくとも一時的には忘れられるのでした。

動物農場 p.127

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