新世界より

SF

こんにちは、ポメラニ・アンパンです。緊急事態宣言が延長されましたね〜。一体どうなっちゃうんでしょうか。僕も、今年は親戚の法事がキャンセルになり、どこへも行かずに過ごしています。

世の中が閉塞し、生活の仕方を変えさせるほどの新型コロナウイルス。ウイルスの専門家ではない僕に出来ることは少ないです。手洗いうがいは言わずもがなですが、それ以外では・・・

1)医療従事者、宅配業者の負担にならない

2)余計な事はしない

3)飲食店のお弁当を協力できる範囲で買う。

上記3つをモットーに、僕は元気にやってます!

さて、今日は家にいる時間が長い、暇で仕方がない、そんな人にうってつけのSF・ホラー作品の傑作、貴志祐介『新世界より』をご紹介します。

文庫本の(上)(中)(下)3冊からなる長編作品ですが、この時期、家で時間を持て余している方にオススメです。本当は、連休最初にお知らせしたかったんですが・・・(汗)

読んだきっかけ

貴志祐介作品は、『クリムゾンの迷宮』や『天使の囀り』で衝撃を受けて、ファンになりました。しかし、他の作家さんの作品も読んでいたので、本作が発売された後も手付かずに。そんな折、2012年に本作が全25話で構成されるアニメ化を果たします。僕はそっちから先に観て『なんちゅー作品だ?!』と驚愕と感動を覚えました。以来、原作を読もうと心の隅にしまっていたのです。そして3年ほど前、本作を読んで、またまた心を揺さぶられました。

あらすじ

人が超常の力を手に入れ、自由に行使できるとしたら?物に触れず、視界に入った対象を自由自在に動かしたり、曲げたり、操ったりできる力が備わったなら?あなたならどうする?どう使う?

便利である反面、その力が暴力に使用された時、何よりの凶器となるため、厳しく教育・管理された社会・・・。僕らが住む時代から1000年後の世界。PK(サイコキネシス)を具現化する力=呪力(じゅりょく)を駆使して生活する町の人々。視界に入るものを動かしたり、手を使わず絵を描いたり、モノを曲げたり・・・。呪力は様々な特質があり、訓練次第で上達する。

ポメラニ・アンパン
ポメラニ・アンパン

キーワード

愧死機構(きしきこう):大きな攻撃力を持つ動物が、本能的に備えている攻撃抑制。同士討ちを避けるためのシステムだが、事実上無限のパワーである呪力を有する人間にとって、それだけでは不十分だった。そこで、愧死機構をあらかじめ人間の遺伝子に組み込んで同族攻撃抑止手段とした。呪力で人間を攻撃しようとすると、無意識下に呪力が発動し、動悸や目眩などの警告症状がでる。それでも攻撃をやめようとしない場合は、発作により絶命する。

悪鬼(あっき):何らかの疾患で、上記の愧死機構が発動しない人間。過去、悪鬼によって、多くの犠牲者を出した事実がある。

業魔(ごうま):呪力が無意識のうちに漏出し、自分の周りの環境を変異させてしまう疾患。治療法はない。

主人公の少女=渡辺早季含む少年少女達は、和貴園や全人学級(学校)にて呪力の正しい使い方、コントロールの仕方を学んでゆく。早季の周りには赤髪の美しい少女=秋月真理亜、陽気で悪戯好きの少年=朝比奈覚、聡明で大人びた少年=青沼瞬、目立たず繊細な少年=伊東守がいた。5人は同じ班で、行動を共にする事が多かった。

彼らが暮らすのは神栖66町。町の周りには八丁標(はっちょうじめ)というしめ縄があり、子供はこの外に決して出てはならないときつく教えられる。外には不浄なる動物悪鬼などが徘徊しているので大変危険だからだ、と。

様々な課題をこなしつつ呪力とこの世界について知見を深める5人。ある日、全人学級の課外活動で、5人は八丁標の外へ行く。これはカヌーに乗って利根川を下り、7日間子供達だけで過ごすのである。その旅路で、彼らはミノシロモドキという不思議な存在に出会う。

ミノシロモドキ、それは1000年以上前の古代文明時代の図書データを収録・保存している自走端末だった。早季たちはミノシロモドキから、自分たちが住む呪力を使った社会が造られた経緯を聞く。それは、大人達が決して語ろうとしなかった血塗られた人間の歴史だった。

自分たちの暮らす町で、大人達が決して語ろうとしなかった、禁忌とされる内容を、知ってしまった5人。内容の真偽も定まらない中、バケネズミの抗争に巻き込まれる。

ポメラニ・アンパン
ポメラニ・アンパン

バケネズミ:呪力を持たず、人間が使役する齧歯類のような生物。社会性を持つ生き物(コロニーを形成)で、高い知能を持つため、人間に労役や役務提供することで、生存を許されている。外見は醜いが、人語を理解する者が各コロニーにいる。バケネズミのコロニー間の紛争は、事前に人間の管理局に通知義務がある。

バケネズミからすれば、人間は神の如き力=呪力を使える存在。人の意思一つで、コロニーごと消される事はバケネズミも周知している。偶然出会った塩屋虻(しおやあぶ)コロニーのバケネズミ、スクィーラの力を借りて危機を脱する早季と覚。命の危機を乗り越え、先にはぐれてしまっていた瞬、守、真理亜と合流し、無事神栖66町へ帰還できた。

14歳になった早季達。そんな中、瞬に異変が生じた。それまでは誰に対しても優しく、特にこの頃は覚と仲睦まじかったのが嘘のように、突然一人になりたがるようになった。瞬に好意を持っていた早季は、瞬を救いたい一心で、異形の空間と化した場所まで追いかけ、瞬に問う。なぜ学校に来なくなったのか?と。瞬は言った。「呪力の漏出が止まらない」と。瞬の答えとその帰結は、早季にとって、あまりに悲しい答えだった。

守が家出し、早季、覚、真理亜の3人は守が家出したと思われる雪山へ探しに行った。3人の呪力を駆使して守を見つける事に成功するも、守は頑なに帰らないと主張する。守は、神栖66町では、自分は不要の存在であり、不浄猫に2度襲撃された事が何よりの根拠だと告白する。神栖66町には、以前から急に学校から姿を消したクラスメートがいた事、大人達が決して自分たちには話さない、隠している事がある事は全員が認識していた。繊細な守を一人にしておけないと、真理亜も守とともに残ると主張した。それは、神栖66町での生活を捨て、過酷な自然の中で生きていく事を意味する。早季と覚は一旦神栖66町へ帰還する。

神栖66町の最高権力者、朝比奈富子から早季は言い渡される。「私たちは何よりも悪鬼と業魔の出現に警戒しなければならない。呪力を持った人間が二人出ていくという事は、核兵器2つがなくなった事と同じだ、何としても連れ戻せ。できなければ抹殺せざるを得ない」と。再度、早季と暁は守と真理亜がいる雪山に向かうが、二人の姿はすでになく、1匹のバケネズミから手紙を渡される。それは、真理亜から早季に当てた手紙だった。「守と二人で生きていく。守は失敗の烙印を押されたので、町へは戻れない。自分たちは死んだと報告してほしい。神栖66町は、大人達が子供を見る目は異常だ。さながら卵から生まれるのが、天使か、百万に一つの確率で生まれる悪魔なのか、額に汗して眺めているように。」最後は真理亜から早季への愛の言葉で締め括られていた。

26歳になった早季。それまでの人生で数奇な出会いとして関わってきたバケネズミ。彼らに対し、不吉な思いが強くなっていた早季は、バケネズミの実態調査と管理を行う保健所の異類管理課に就職する。バケネズミは、人間に完全に管理されていて、コロニーの自治を認められている。一方人間はバケネズミが何らかの叛意を見せたり、違法行為を取った場合、その気になればコロニーごと誅する事ができる。パワーバランスとしては圧倒的に人間が優位だが、早季の不安はバケネズミの面従腹背っぷりを知っていたからだ。一見、人間には従順な態度を見せるが、腹の底で何を考えているかわからないこの醜い生き物に対する感情は愛着ではなく不安でしかない。覚は農場で、生物学の研究者としてキャリアを進めていた。そして早季の不安が具現化したあの夜が訪れる。

神栖66町の夏祭り。人々が呪力を使わず古来の方法で花火を楽しむ中、バケネズミの集団が襲撃をかけてきた。突然の事態に混乱する人々。しかし、敵がバケネズミだけだったならば、どれだけ良かったか。バケネズミを駆逐せんと、急遽組織された五人一組の住人達。早季と覚は3人の住人と合流し、5人で行動を開始。しかし、信じられない光景を目の当たりにする。人が呪力の力によって引き裂かれるのを。こんなことができるのは悪鬼しかいない。ついに現れたのだ。歯止めのない暴力は次々と住人を屠る。言いようのない恐怖に駆られ、早季と覚は逃げる。と同時に、対抗策を考える。

早季達呪力を持つ人間は、悪鬼に呪力で対抗する事はできない。なぜなら愧死機構が発動するからだ。対して悪鬼は、愧死機構が発動しないため、躊躇なく人間を惨殺できる。紆余曲折経て、悪鬼を倒すには古代文明の兵器を使うという結論に至る。しかし、それは、魔窟・地獄と呼ばれる呪われた地=東京に行かなければならない事を意味する。

果たして、悪鬼を止められるのか。バケネズミとは一体何なのか。

この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)

雰囲気

ダークかつ重い雰囲気が常に支配する本作。爽やか、明るい、ポジティブといったキーワードとは無縁に近い。

主人公・渡辺早季の視点で読み進める物語。神栖66町、周囲の大人達、町の施設などがわかり、八丁標や奇怪な動物達の存在、バケネズミ、悪鬼、業魔、といった情報が提示される。一見、和風伝奇ファンタジーと思わせる。物語中、早季達は成長し、人間関係も様々な様相を見せる。

早季達が暮らす神栖66町の雰囲気は、光2に対して闇8といったところか。例えるなら、事故が起きた施設の上に、後から別の施設を建てるようなイメージに近い。知られたくない部分は全て覆い隠すように施工する・・・。一見、善良な住人が暮らす神栖66町だが、過去の歴史を隠すためにべったりと黒インキを落とし、塗り固め、その上に築かれた偽善の町。

隠されていた謎が少しずつ明かされていく過程が絶妙で、ページをめくるのをやめられないのが、本作の恐ろしい所(笑)!

読みやすさ:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

圧倒的な情報量で、最初は当惑するかもしれない。しかし、本作独自のキーワード、用語は丁寧に解説してくれる解説役(ミノシロモドキなど)がいるので、物語をそのまま読み進めれば問題ない。途中から、物語がどんどん緊迫感を増し、加速して行くので、どんどん読み進めてしまう。

一部、性描写、過激な残酷シーンがある。

ハラハラ度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

『恐ろしい噂』、『未知なる場所で敵意に追われる』という、ハラハラのテンプレのようなシチュエーションが度々出てくるが、著者の筆力のなせる技か、本当にハラハラする。手に汗握る!

食欲増幅度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

5人が無事合流したあとの雑炊は、危機を脱したという心理的効果もあって、自分が当事者だったら絶対美味いだろうな、と思った。

冒険度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

バケネズミからの追撃を避けるための移動、バケネズミの巣の中を歩き回る、守を探すための雪山への往来、東京の地下を縦横無尽に走る通路を歩く・・・。

呪力を差し引いても早季ちゃんと覚、どんだけスタミナあるんだというくらい踏破力。特に、異形の生物が跳梁跋扈する東京地下は、まさしくダンジョン。これを冒険と言わずしてなんと言う。

胸キュン:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

神栖66町の恋愛感は、僕達のそれと異なっている。町としては攻撃衝動を抑える意味でも、積極的に性愛を奨励している。早季は早い時期から瞬を特別視し、好意を寄せていた。一方、覚も瞬を愛した。早季と覚は共に、いなくなった瞬を愛していたのだ。また、早季と真理亜も互いに愛し合っていた。

早季にとって、愛した人間が二人も居なくなってしまうのはどのような心持だったのか。それを思うと切ない。

血湧き肉躍る:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

読み始めると体力が続く限り読み耽ってしまう・・・そんな魅力が本作にはある。謎が少しずつ解明されて行く場面や、バケネズミに追われるシーン、5人の性愛について描かれるシーン・・・。どこをとっても血湧き肉躍る事になるため、目が離せずにはいられない!眠るのを忘れて読める没入度がマジでやばい!

希望度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

早季の、どんな危機や想定外が起こっても絶対に折れない強さ、これが一つの希望。もう一つが覚という唯一、確固たる信頼できる人物が常に一緒にいる事、これがいかに早季や僕達読者の希望で救いになった事か。

絶望度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

神栖66町、そうえざるを得なかったとはいえ、やはり絶望感が募る。大人達が危惧する、悪鬼と業魔の出現。それを防ぐため、不安因子を排除する仕組みが徹底されている。呪力の使い方で、少しでもその兆候が見られた場合は、問答無用で闇に葬る。組織の一員としてはやむを得ない仕組みだが、消される側はたまったもんではない。

残酷度:10 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️ ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

呪力でバケネズミの首を引きちぎったり、叩きつけて殺すなど、残虐描写は多い。人間も、悪鬼に嬲り殺しにされる。また、ミノシロモドキが語る過去の歴史では、耳を塞ぎたくなる程の血生臭い話だった。

しかし、真の残酷さは、バケネズミを産んだ事そのものだ。

恐怖度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

それまで万能の力だった呪力が使えなくなる恐怖、何を考えているかわからない生物に主導権を握られる恐怖、目の前で殺される恐怖、禁忌をおかすことへの恐怖、死を感じさせる恐怖、暗闇の恐怖、未知の生物への恐怖・・・。

様々な恐怖が本作の醍醐味。

ためになる:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

ためになるどころか、下手をすればトラウマを植え付けられるかもしれない。過激な殺生描写、特殊な性描写など、人によってはキツイかもしれない。

ためになったことかわからないが、作中に出てくるドヴォルザークの交響曲『新世界より』の第2楽章『家路』、幼少の頃学校の下校時間に流れていたのを思い出し、懐かしさが募った。ついでに交響曲『新世界より』を丸ごと聴いてみた。なかなか僕好みの曲で、これは完全に僕得でためになった!ドヴォルザークいいよ!

泣ける:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

身近な人間がいなくなる辛さ、その別れ方が切なすぎて涙を誘う。

ハッピーエンド:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

早季と覚は幸せな生活を得る。悪鬼や業魔が出現する危惧を完全に拭い去る事ができたわけではないが、未来に希望を見出して終わる。

誰かに語りたい:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

有名な作品だから、あまり大きくススメなくてもいいかな。ホラーとSF、心理学、生物学が好きな人は是非!

なぞ度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

ほとんどの謎は解明、明らかにされる。しかし、読んだ後でも、ちょっと気になっている部分が2つほどある。また考察サイトでもみてみようかな・・・。

静謐度:1 ⭐️

文章として静謐さを感じるところはあまりない。

笑える度:1 ⭐️

笑っている暇もない。

切ない:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

先に述べた早季と瞬、覚、真理亜達、守・・・。仲の良かった、愛し合った者達が次々といなくなる事。それに加え、バケネズミの襲撃で次々と散って行く身近な大人。

何より、最も切なく感じたのは、人の業が産んだバケネズミ。そのうちの一体である大雀蜂コロニーのリーダー奇狼丸の命を対価にして難曲を乗り切った事だ。利害が一致し、早季、覚と協力関係にあった奇狼丸。彼の協力なしでは異形の巣窟と化した東京の地下を歩く事すら難しかったはずだが、その命すら使わざるを得なかった事を考えると、胸が痛い。

エロス:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️

性の価値観が僕らと少々異なる。ミノシロモドキが作中で説明しているが、呪力を手にした人間社会を形成する一環として、攻撃衝動につながるストレスを極力抑える必要があった。そのため、哺乳類のボノボの性質に倣い、異性・同性を問わず頻繁に接触・抱擁・接吻させ、オルガズムを伴う擬似性行為の推奨を行う。神栖66町でもこの伝統は受け継がれており、したがって早季は真理亜と恋人同士であるのと同時に瞬のことも追いかけていた。覚と瞬も一時期恋人同士だった。

このような背景を表現するための性描写はある。

データ

タイトル新世界より
著者貴志祐介
発行元講談社
コード(上)ISBN978-4-06-276853-5
(中)ISBN978-4-06-276854-2
(下)ISBN978-4-06-276855-9

まとめ

初めて読んだのは、3年ほど前でした。今回、記事にするため改めて読み返してみましたが、やはり凄まじい作品でした。当初はサラッと要点だけかいつまんで読もうと思っていたのですが、(上)巻の途中からずっと読み込んでしまいました。

超常の力を得た人間の業が産んだ世界。世界の生い立ちを知らず、スクスクと成長していこうとしていた少年少女達が、否応なく迫りくる危機に晒されながらも、折れずに立ち向かう話です。宇宙船も惑星間航行もワープも出てきませんが、本作はれっきとしたSFです。

SFだからどうだという事はないんですが、最初僕は本作に触れたのはアニメ版なんです。アニメ版の1話を観た時、SFだとは10人中10人が思わないと思います。それが本作の面白いところ!だって、冒頭は夕日が田んぼの山に隠れそうな牧歌的な風景に、『家路』が流れる絵が印象的なんですもん。

その他、興味深かったのは、神栖66町の人とバケネズミの関係。悪鬼や業魔の出現が恐ろしいなら、生まれてくる子から呪力を取っ払えば?と思いましたが、そうなるとバケネズミ共へのアドバンテージが無くなる。バケネズミを駆逐すると、何かあったときの対処や汚れ仕事をしてくれる労働力が無くなる。あちらを立てればこちらが立たず、になっているんですよね。この辺りの緻密な設定が凄い!

あと、本作を読んで思ったのが、僕ら人間って、ゴキブリを見るとその場でやっつけたり、駆除しなきゃと思いますよね。つまり良心の呵責を感じません。しかし、同じ昆虫であるカブトムシを見たとき同じように駆除しなきゃ、と思うでしょうか。これ、見た目や習性、もっと言えば人間の生理的好嫌が物凄く大きな要素だな、と思いました。というのも、本作で早季が「なぜバケネズミの祖先であるハダカデバネズミは外見、習性ともに醜悪でなぜこんなにげんなりさせられるのか。」とあり、これが本作のキーなんです!

人は本能的な好き嫌いで対象を「攻撃する/攻撃しない」、を判断しているのでしょうか。そう考えると、人間というのは、業の塊なのかもしれませんね。

気になったフレーズ・名言(抜粋)

悪鬼にせよ、業魔にせよ、僕らにとって、恐怖とは、内からやって来るものなんだよ。

青沼 瞬
新世界より(中)p.187

世の中には、知らない方がいいことって、たぶん、いっぱいあるんだと思う。真実が、一番、残酷なことだってあるでしょう?それに、耐えられる人ばっかりじゃないのよ。

秋月真理亜
新世界より(中)p.243

鎖は常に、一番弱い環から破断するのよ。私たちは、常に、最も弱い者に対して気を配らなくてはならないの。

朝比奈富子
新世界より(中)p.283

わたしたちには、悪鬼に対抗する手段は何一つ残されていない。だが、それでも諦めるわけにはいかない。将来に何の展望もない時こそ、どこまで踏ん張れるかで、本当の強さが試される。その意味でも、今こそが試練の時なのだ。

新世界より(下)p.224

敵は、あくまでも我々を狩るつもりでしょうが、狩りに夢中になっている者ほど、自分が獲物になることに、寸前まで気づかないものです。

奇狼丸
新世界より(下)p.405

我々の社会には、繰り言は、墓穴に入ってから蛆に聞かせろという諺があります。皆さんは、諦めが早すぎる。我々の種族は、心臓が鼓動を止める、まさにその瞬間まで、逆転する方策を探し求めます。それが無駄な努力に終わったところで、失うものはありません。兵士の本分という以前に、生きている限りは戦い続けるのが、生き物としての本分なのです。

奇狼丸
新世界より(下)p.461

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新世界より(上)講談社文庫 2020.5.5時点で取り扱いなし

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