こんにちは、ポメラニ・アンパンです。今年に入って早々、アメリカとイランは一触即発で危うく戦争になるのではないか、という事態が起きましたね。それが沈静化してホッとしたのも束の間、今度は中国からコロナウイルスが襲来しています。
僕たちの日常は、数々のリスクの上に一本の綱のように危ういバランスで成り立っているのかもしれません。
そう考えると今日という日、何でもない日を、毎日仕事に行って疲れて帰ってくる単調に思える一日も、普通に生活できるのがとてもありがたい事だと思ったりもするのです。
なんちゃって、善人ぶった事を言っちゃいましたが、本音はぶっちゃけ『仕事ダリ〜、行きたくね〜』ですよ!働かなくていいんだったらずっと好きな本読んで過ごしますよ(爆)!
さて、今回紹介するのは小川一水氏の『時砂の王』です。邪馬台国の若き女王である卑弥呼と、遥か未来からやってきた男とが協力して、人類存亡をかけた戦いに挑む物語です。
読んだきっかけ
小川一水先生のファンなので。本作は2007年に発行されていますが、まだ読んでいなかった事もあり、ようやく読む機会に巡り合いました。
あらすじ
邪馬台国の女王卑弥呼は、得体の知れない怪物に遭遇する。命の危険が迫った時、謎の男に助けられる。
その男とは、遥か2300年後の未来からきたメッセンジャーだった。人型人工知性生命体であるメッセンジャーの名はオーヴィル。オーヴィルが生まれた世界(時代)は、ETと呼ばれる謎の増殖型戦闘機械によって、地球を壊滅されていた。ETの目的は地球人類の根絶。
彼らメッセンジャーは、ETに対抗するため、時間を遡行してその時その時代の人々の味方をする事。そして、それらの人々と連合しETとの戦闘のサポートを行う事が役目だ。
メッセンジャーはただの戦闘機械ではなく、人間の感性を持つよう学習する。オーヴィルも例外ではなく、彼が絶望的な戦いに赴く理由、人類を守りたいと思う根拠を一人の女、サヤカから学んだ。オーヴィルにとって、何よりも特別な存在サヤカを胸に秘め、彼は戦い続ける。
数々の時代で戦い続けては敗北を重ねてきたオーヴィル。西暦248年邪馬台国に降り立って448回目のETとの戦いに挑む。
オーヴィルと卑弥呼、その戦いの行く末は如何に!
この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)
雰囲気
卑弥呼が生きる時代の日本に、未来から来た男が共通の敵と戦うSF戦記もの。何者かによって地球に送り込まれる機械生命体は、人類の抹殺を目的とする。
人類の存亡を賭けて、メッセンジャーのオーヴィルと卑弥呼率いる邪馬台国のツワモノたちが共闘する。
構成は、卑弥呼のエピソードとオーヴィルのエピソードが交互に差し込まれ、二人の立場や胸の内、考えている事、背景がわかるようになっていて登場人物の背景や関係性がわかりやすい。
読みやすさ:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ストーリーのテンポがよく、非常に読みやすい。26世紀の世界が描かれている箇所も、わかりやすい背景説明で、違和感なく読めるし場面を想像しやすい。
ワクワク度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
卑弥呼が登場。謎の物の怪に遭遇、突如未来から男がやってきて、喋る剣を使って物の怪を倒す、という展開ですでにワクワク度ブチ上がり!以後、謎の物の怪の正体、未来の地球について語る男オーヴィル、この後の展開はどうなるのか・・・。ワクワクは常に高い値で読み進められる。
ハラハラ度:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ET(機械生命体の敵)との戦いは常にギリギリ。圧倒的な戦闘力と物量が人類を追い詰める。奴らが迫ってきたときは常にハラハラ。
食欲増幅度:3 ⭐️⭐️⭐️
差し入れのお粥、質素ながら美味しそうだ。
冒険度:2 ⭐️⭐️
メッセンジャー達にとって、過去へ飛ぶのは冒険ではなく任務。これといって冒険的要素はない。
胸キュン:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
オーヴィルとサヤカの関係がもう切なすぎて・・・。時間遡行の、いつ終わるとも知れない戦いに出ていくオーヴィルを思うサヤカの胸中。サカヤが暮らす世界の未来は絶望的である事を知って、それでもなお戦い続けるオーヴィルの胸中は・・・。
僕、こういう男女の報われない思いとかに弱いんですよ・・・。
血湧き肉躍る:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
ETとの戦いは苦しい。こちらが有利になる状況は少なく、いつも切羽詰まっている。オーヴィルは喋る剣、カッティを手にETを圧倒するも敵の数は多い。卑弥呼率いる戦士達は火矢や地形を巧みに使ってなんとか凌ぐ。
苦戦が多い戦いで、血湧き肉躍る思いはあまりしない。戦いが落ち着くと読者の僕も『ふぅ〜っ。』と一息つくのだ。
希望度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
希望が見える結末だった。
絶望度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
オーヴィルの半生は絶望的な戦いがずっと続いていた。それを追体験する僕ら読者にも、彼の絶望感は降りかかる。絶望しても、なお戦い続けるオーヴィルが凄い。
残酷度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ETとの全面戦争のため、敵を容赦なく打ち倒すし、敵に蹂躙される人も出てくる。
恐怖度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
敵であるETは、意思疎通できず執拗に容赦なく攻撃してくる。敵が大軍で現れた時の恐怖は当事者では無い僕らにも伝わってくる。しかも、敵は学習機能を備えていて、人間に致命傷を与えようとしてくるのだ。
ためになる度:2 ⭐️⭐️
時間枝という考え方がわかりやすく物語に反映されている。
泣ける度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
メッセンジャーのオーヴィルの心情は、男泣きを誘う。自分は戦うために作られた存在。しかし、人間的な感情・ダイナミズムを学習した結果、人間の女性サヤカに思いを残しつつ戦いに出ていく。例え、それが今生の別れだったとしても。
ハッピーエンド:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
オーヴィルの胸中は数多の戦いで癒しきれない陰を残すも、少し切ない終わり方で物語は幕を閉じる。
誰かに語りたい度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
もし、自分達の未来は絶望的。しかし、過去に戻って滅亡の原因を直せばその未来は枝分かれし、輝かしい未来を手に入れることができるかもしれない。しかし、いずれにしても元いた自分の世界の未来は変えられない。それでも戦いに行くか?という話で一晩明かせそう。
なぞ度:1 ⭐️
謎は特にない。
静謐度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
全体的に、目まぐるしく展開する物語なので、静謐度はあまり無い。あえて言うならオーヴィルが物事を考え、独白するシーンは他とトーンが違い、静かで心地良いと言える。
笑える度:1 ⭐️
ほとんど無い。
切ない:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
とにかくオーヴィルが切ない。
エロス:3 ⭐️⭐️⭐️
少し。
データ
原作タイトル | 時砂の王 |
著者 | 小川一水 |
発行元 | 早川書房 |
コード | ISBN978-4-15-030904-6 |
まとめ
時砂の王、痺れましたね。まさかSF小説に卑弥呼が出てくるとは思ってませんでしたから。そして、造られた存在=メッセンジャーのオーヴィル。このオーヴィル、僕は大好きなキャラクターになってしまいましたね。人間ではないのに、人間以上の喜怒哀楽を知り、感情豊かだと思います。特に、助けられなかった時間枝を思い、むせび泣く所なんか、僕も男泣きしてしまいましたよ。
本作、地球を救うために未来から来たメッセンジャー達がどんどん過去に旅立って行くんですね。ETが本格的に地球へ進行する前に、対策が打てるタイミングに、時を遡って先制攻撃を仕掛けるという。普通に考えればこれだけで解決できそうですが、ところがギッチョン!
過去へ遡れば、時間枝が分かれたり様々な影響が出て、なかなかうまくいかない。この結果メッセンジャー達は幾度もの敗北を重ね、いくつもの時間枝での未来を諦め、『次こそは!今度こそ!』と思いを抱いて過去へ過去へと転戦してゆくのです。
なんと不毛で、絶望的な戦いであることか!
しかし、人はどうしても守りたいもの、守りたい人がいるなら、人は大きな力を出せるのでしょうね。
時間を超えた壮大な戦い、僕ら読者はオーヴィルと共にサヤカを思わずにはいられない。
気に入ったフレーズ・名言(抜粋)
わからないから考えていたんだ。
オーヴィル
その問いは私がもっとも重要だと考える疑問と重なっている。
あの場でさらりと答えるわけにはいかなかった。
時砂の王 p.59
我々すべて、滅びる時間枝に属するすべての並行人類の希望を託して、
将校
君たちに命じる。伝えろ、勝て。さらばだ
時砂の王 p.80
そうとも、俺たちはさらに過去へ行く。この失敗を挽回するために。一からやり直すために。つまり、尻尾を巻いて逃げるわけだ。この地の人類を見捨てて。
時砂の王 P.126
俺は彼女にすべてを与えられた。十万年の旅に耐えられるだけの心を。
〜中略〜
この手が覚えている。人というものの形を。それが、俺とカッティ・サークを根本的に違うものにしてくれた。彼女を忘れることは、俺が俺であることを忘れるに等しい。
〜中略〜
戻れないんだ。俺たちは歴史を変更しすぎた。サヤカのいる時間枝は時の彼方に埋もれてしまった。再び彼女が生を享ける可能性は、億に一つもない。いや、そこにたどり着ける可能性がない。俺は・・・この俺が、俺でさえ、彼女を忘れてしまいそうなんだ
オーヴィル
時砂の王 P.196〜P.197
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