こんにちは!ポメラニ・アンパンです。今日は一年ぶりに健康診断に行ってきました。年齢もそこそこなので、胃の検査があるのですが、バリウムを飲んできましたよ〜。んで、ゲップをせずに、専用の機械の取手につかまりクルクル回されながら検査されるわけですが、あれ、アトラクションですよね〜!?
検査技師さんの指導で、体勢を自分で変えなければならないのですが、結構過酷な姿勢制御を必要とします(笑)。ちょっと頭が下に向く角度をつけられると「おわ〜〜落ちるぅぅ〜〜!!」と思い、取手を掴む手にめっちゃ力が入ってました・・・。う〜ん、人間って不便・・・。
でも、そんな不便でちっぽけな人間でもこの宇宙の片隅にある地球という星にいる宇宙の住人なのです。広大な宇宙で、小さな存在である地球人・・・。人も、人ではない存在も精一杯生き残るため、自分たちの世界を守ために奮闘する姿が眩しい小川一水さんの天冥の標シリーズ。
今回は、その第九章にあたる『天冥の標 Ⅸ ヒトであるヒトでないヒトと』の読書感想になります。
この本を読んだきっかけ
前章から直接的につながる本章。この壮大な物語において、ほぼ全種族が集結し、互いの存在を主張しあい認め合う舞台となるメニー・メニー・シープにて、事態は収束に向かうのか、それとも。
読まずにはいられません。
これまでの感想は以下をご覧ください。
あらすじ
天冥の標、第八章の続きが描かれる本作。メニー・メニー・シープの実態は小惑星セレスの地下を掘削し、拡張されて人工的に作られた世界だった。「恋人」のラゴスはかつてこの星に不時着した宇宙船、シェパード号を探していた。遥か昔の宇宙船シェパード号には何かしらの情報や薄れた記憶を呼び戻す手がかりがあると考えたからだ。そう、突如セレスの底から出現し、人々をその圧倒的な力で虐殺した「咀嚼者」を退ける手がかりを得るために。
メンバーは、「恋人」のラゴス、マユキ、「普通の人間」セアキ・カドム、「海の一統」オシアン、かつてこの地に暴政をしいていると見せかけ、迫りくる脅威から世界を守っていた「領主」ユレイン三世、その侍女メーヌ(第八章で死亡)、そして「石模様の怪物」と呼ばれた異形の娘、イサリ。
蒸散塔を上り、セレス北極シティを目指す一行。要所要所に仕掛けられた防衛装置や自動清掃システムの危険に晒されながらも互いに協力して進む。最大な脅威はいまだに稼働している倫理兵器。「淑女」と「遵法」そして最も強力な「正覚」らの猛攻を、いなし、撃滅し、撤退・・・あらゆる手段を使って先へ先へと穂を進める。
その道中、アッシュとルッツの二人組に出会い、彼らの協力を得る一行。生身の人間ではなくロボットの彼らは、倫理兵器と互角に戦える強さを持つ。彼らは太陽系から発進した艦隊の先遣隊だという。そう、300年前、ミヒルが冥王斑原種をばらまき太陽系は沈黙した。しかし、人類は滅びていなかったのだ。
シェパード号にたどり着き、ラゴスは船に残っていたデータへアクセスする。その結果、記憶が薄れていた彼の過去、その他多くの事実を思い出した。ラゴスの口から語られる過去。それは「救世群」の弱点。「救世群」の人々がいかにしてあの強力無比な硬殻化へと至ったか。力を欲した「救世群」は異星人である「休息者」の高い技術力を持って硬殻化する。しかし、異星人で昆虫のような生殖システムを持つ「休息者」は、自分たちの生殖様式を「救世群」にも適用してしまった。これにより、「救世群」は支配者層=ヤヒロ家の人間以外は全員不妊となった。子孫を残せないため、彼らは命の危険を犯すほどの全力を出して戦うことができない・・・ラゴスの口から語られたのは絶滅の淵に立たされた悲しき種族の事情だった。さらに驚くべき事態も判明した。小惑星セレスが人工的な処置を施され、「休息者」の母星へと移動しているのだ。
ラゴスの話が一区切りつきかけた時、「恋人」が備えている生態無線に通信が入った。通信相手は死んだと思われていた「海の一統」の筆頭、アクリラ・アウレーリアだ。偽物の可能性も含め慎重に確認し、本人だと判明。一行はアクリラと再開を果たす。
アクリラと再開した一行は、再び元いた世界=メニー・メニー・シープへ戻ることにした。エランカ・キドゥルー大統領をはじめ、彼らに知り得たことを伝えるために。
一方イサリも自らの行うべきことを考え、決断した。彼女は「救世群」の皇帝ミヒルの姉。ラゴスの口から語られた事実とアッシュ達が語る太陽系から接近中の艦隊の話を付き合わせた結果、「救世群」に戦いをやめさせる事が最重要かつ自分にしかできない事だと結論づけた。彼女は単身、古巣の同胞達の元へ、赴く決意をし、アクリラに告げる。「しばらくカドムをお願い、っていうこと。いい?」
「休息者」のクルミは向上した知性の向上の果て、ついに彼女らの総女王オンネキッツと交信する。その結果、クルミは自分たちの使命を思い出し、またその使命を達成できていないことも認識した。クルミは自分たちの悲願成就のため、個体数を増やす=繁殖しなければならない。そのため、雄の「休息者」を得るべく「救世群」達がいる場所へ向かうこととなる。
フォートピーク。そこはかつて「領主」として悪名高かったユレイン三世の居城。今や、侵攻してきた「咀嚼者」に占拠されている。彼らはそこからつながる縦穴より侵攻してくる。このフォートピーク奪還がメニー・メニー・シープの人々の悲願であり必須事項だった。エランカ・キドゥルーの統制のもと、突入部隊と砲撃が連携し、苦戦しつつも徐々に有利に傾いてゆく。
咀嚼者(フェロシアン):「救世群」の人々が異星生物「休息者」の高い技術力により硬殻化(クラスト)の身体になる。硬殻化状態から怒りが増大するとさらに凶暴な形態として「咀嚼者」となる。
メニー・メニー・シープ側、「咀嚼者」側双方に犠牲者は多く出た。一方で、戦えなくなった「咀嚼者」達が現れたが、カドムらの協力により意思疎通し、「救世群」とメニー・メニー・シープの人々の戦いをやめさせる事に協力を取り付けた。
こうして少しずつ圧倒的強者だった「救世群」の侵攻を押し返す流れができてきた。
メニー・メニー・シープに住む人々と救世群との戦いは、「休息者」の協力を得たセアキ・カドムやエランカ・キドゥルー達をはじめ多くの人々に奮闘によって一応の収束へ向かう。皇帝ミヒルも追い詰められ、姿を隠した。
救世群との戦いが収束し、救世群の内情が判明。彼らは、「休息者」の技術により硬殻化する際、手違いにより元の人間の姿に戻れなくなったばかりでなく、繁殖能力も失っていた。これは、「休息者」らが、女王しか生殖能力を持たないため、彼らの常識を救世群に当てはめてしまったためだ。
すなわち救世群は、ヤヒロ家の血を受け継ぐ二人、皇帝ミヒルと皇姉イサリの二人にしか生殖能力を持つ人間はいないのだ。ミヒルはこれを打開すべく「休息者」から情報を引き出し、彼らの母星「カンム」に、救世群を硬殻化した設計図があることを突き止める。それが手に入れば元の体に戻り、生殖能力をも取り戻せる事を知り、小惑星セレスごと移動できるよう改造していたのだ。実際、セレスは「休息者」の母星であるふたご座μ星へ移動している。
ふたご座μ星付近では、宇宙に存在する他の種族が集まってきていた。
そして倒すべき真の敵の姿、セレスだけでは止まらない脅威的な規模の種族らの存在が垣間え、物語は終局へ向けて加速する・・・。
この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)
雰囲気
共闘、己の意思、己の役割、探究、発見、真実、敵は誰か、交渉、知性の本流、権力、反抗勢力、本音の探り合い、戦闘、迎撃、砲撃、突撃、破砕、救出、人質、母星、宇宙の異種属、赤色矮星・・・
メニー・メニー・シープを恐怖のどん底に陥れた「咀嚼者」もとい「救世群」。だが、彼らにしても最終的に倒すべきてきではないどころか、もとを辿れば普通の人間であり、敵ですらない事がカドム達をはじめ、メニー・メニー・シープの人々にも認知される。真なる敵、脅威の正体がおぼろげにだが判明しつつあり、クライマックスの最終章へ向かう一歩手前が本作の第九章。
読みやすさ:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
既存のキャラクターに加え、最終章へ向けて新たなキャラクターが登場する。途中、途方もない数字で表される大戦力に戸惑うも、それも物語の一端。気にせず読めば良い。
ワクワク度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
今まで敵だった勢力が共闘したり、和解とまでいかなくとも利害のため手を組むなどワクワク要素が満載。
ハラハラ度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
ラゴスをリーダーとするパーティーの危険を伴う冒険・探索がハラハラしっぱなし。特に猛然と敵意を向けて襲ってくる倫理兵器との戦闘は破壊音が想像できるほど緊迫感と迫力があってハラハラ。
食欲増幅度:2 ⭐️⭐️
ユレインが作る変なスープ、ちょっと食べてみたい。
胸キュン:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
イサリ、カドム、アクリラの三角関係がなかなか面白く、皆それぞれを応援したくなる。
ページをめくる加速度:9 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
今まで読んできたキャラクターの事がわかっている分、どんどん先の展開が気になってしまい読むスピードは加速しっぱなしでした。
希望度:8 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
「救世群」の大半をイサリが掌握し、いよいよ長きにわたる憎しみの連鎖を断ち切れるのかどうか、少し光が見えそう。
絶望度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
今まで登場しなかった想像を絶するスケールの種族が数多く登場し、そいつらにこれから抗しえるのか・・・と思った。
残酷度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
相変わらず容赦の無い「咀嚼者」の攻撃。生身の人間は首をはねられ、腕が切り落とされる。何人が血を流したことか。
恐怖度:3 ⭐️⭐️⭐️
恐怖感はそれほど感じない。
ためになる:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
人にはそれぞれの役割がある。役割に応じて自らやるべきことを考え、やる事の大切さがわかる。
泣ける:2 ⭐️⭐️
泣けるシーンはそこまで無い。
読後感:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
物語の狂言回しであるダダーのノルルスカインがこの世界の人々を見放さないと宣言してくれる一方で、今まで姿を見せなかった宇宙の有象無象が現れ、「これ、ダダーでも対抗できるんか?」と読む側の不安と緊張感を煽って終わる。続く最終章への期待が大幅に高まった。
誰かに語りたい:2 ⭐️⭐️
もうここまでくると、登場キャラクターの誰もが愛おしくなってくる。天冥の標を読んだ人と語りたい思いが増えてきます!
なぞ度:2 ⭐️⭐️
謎というか、『お前ら今まで一向に姿を表さなかったのにここにきて突然現れた!』という存在が最後の方にドヤドヤと出てきます(笑)
静謐度:1 ⭐️
アクション多めの第九章。例によって静寂さはあんまり無いかな。
笑える度:1 ⭐️
う〜ん、あんまり笑える箇所は無かったかな〜。
切ない:2 ⭐️⭐️
目の前に差し迫った事態に対応するのに皆必死な感が伝わってくる。切なくなる暇すらないというのが、逆に切ないのだろうか・・・。
エロス:1 ⭐️
あんまり無い。
データ
タイトル | 天冥の標 Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと |
著者 | 小川一水 |
発行元 | 早川書房 |
コード | (PART 1)ISBN978-4-15-031213-8 (PART 2)ISBN978-4-15-031231-2 |
まとめ
第九章、いよいよクライマックスへ向かう準備が整いそうな気配が漂ってきましたね〜。「救世群」の成り行きと硬殻化した理由と方法も判明し、彼らが元々怪物のような姿ではなく地球の人間だったこともメニー・メニー・シープの人々にも認知される。さらには太陽系人類も滅亡しておらず、「救世群」殲滅のために大艦隊をセレスへ向かわせている・・・。このような事実を知り、イサリは同胞達「救世群」へ戦いを止めるよう説得しに単身危険を承知で「救世群」本拠へ向かう。
一方、「休息者」のクルミが総女王と交信した事で、何やら不穏な空気が・・・。また、本章最後の方に登場した途方もない存在の種族達。
一体どうなってまうのや!?感を匂わせて終わる第九章。
もうここまで読んでるとどのキャラクターも大好きになってきます!イサリ、カドム、アクリラ、フェオドール、スキットル、ラゴス、ユレイン、エランカ、クルミ、ノルルスカイン・・・。
あなたは誰が好きですか?
さて、いよいよ次の第十章で天冥の標の壮大な物語が終わります。僕は一度読んでいるので結末は知ってますが、細かいことは忘れているのでまた楽しみながら読めると思うと嬉しい!
気に入ったフレーズ・名言(抜粋)
愛ってのは、どこからともなく、理由もなく湧き起こって、それで人は人を好きになるんじゃないか。それをどうやって制止できるっていうんだ?
オシアン
天冥の標 Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと(PART 1) p.134
しばらくカドムをお願い、ってこと。いい?
イサリ
天冥の標 Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと(PART 1) p.308
解ける、きっと解ける、この因縁は。僕はそう信じてる。彼を、彼女を、あの子たちをー見ていく。メニー・メニー・シープのあいつらを。
ノルルスカイン
天冥の標 Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと(PART 1) p.330
大きな構図の、外側のさらに大きな構図がわかったところで、いちばん小さな手元の問題が消えてなくなるわけじゃないの。ねえ、知ってるかしら?痛みや悲しみはそれが重くなると麻痺してしまうけど、責任というものは、背負えば背負っただけ、無限に重く感じていくものなのよ。
エランカ・キドゥルー
天冥の標 Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと (PART 2) p.100
待っていろ……ひっくり返してやるからな、このすべてを
セアキ・カドム
天冥の標 Ⅸ ヒトであるヒトとないヒトと(PART 2) p.341
コメント