すばらしい新世界

SF

こんにちは。ポメラニ・アンパンです。

早くも2023年に入って3か月目も半ば過ぎましたね。光陰矢の如し。ぼーっと生きているとすぐに時間が経ちます。心なしか気温も暖かくなってきて、春の接近を感じます。春が来れば夏が来る、僕の忌み嫌う季節、夏が来るのですな。汗っかきだから夏は本当にツライんですよ・・・。

まあ、そんなことはいいとして、今日の本はディストピア小説の金字塔と言われているオルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』です。

「お前、SF好きを公言しといてまだ読んでなかったんかーーーーい!」と突っ込まれそうですが、「そうです!初めて読みましたがなにか?」としか言えません。もともと流行には逆らうし、ベストセラーとかをあえて避ける天邪鬼気質なもんですから、しょーがない。

あらすじ

<文庫本背表紙より抜粋>

すべてを破壊した九年戦争の終結後、暴力を排除し、共生・個性・安定をスローガンとする清潔で文明的な世界が形成された。人間は受精卵の段階から選別され、5つの階級に分けられて徹底的に管理・区別されていた。あらゆる問題は消え、幸福が実現されたこの美しい世界で、孤独をかこっていた青年バーナードは、休暇で出かけた保護区で野人ジョンに出会う。すべてのディストピア小生の源流にして不朽の名作、新訳版!

作品情報

原作タイトルBRAVE NEW WORLD
日本語タイトルすばらしい新世界
著者オルダス・ハクスリー (ALDOUS HUXLEY)
訳者大森望
発行元早川書房
コードISBN978-4-15-120086-1

感想

早川書房さんが毎年発行している小冊子だったり、読書アカウントの方々のタイムラインでたまに目にしていた本作。前からずっと読みたいなあと思っていて、本屋さんで新装版の表紙を見て僕の「読みたい・買いたいレーダー」が反応したんです。

文庫本の表紙は真っ白!!そこにタイトルと著者名と訳者名しか書いていない!!そこに惹かれて気づいたら積んでました。

さて、本作はディストピア小説の源流、と背表紙にも書いてある通り近未来世界の話。まず、今の僕らは家族という最小の社会単位があって、次に友人や学校や職場があって、そこには様々な人間関係があります。意見の食い違い、恋愛、悲しみ、事件、病気・・・。生きるということはそれらをすべてひっくるめての出来事だと思うのです。

ところが、本作はその価値観を真っ向から否定した社会が舞台なのです。

まず、この社会はほとんどの人が病気になりません。病原菌や伝染病などをほとんど駆逐した世界になっています。凄い!(゚д゚)!

そして、なんと老いも克服しています。その結果、本作に登場する人々は20代~30代の体力・見た目を維持したまま60歳近くになるとぽっくり死ぬ。(゚д゚)!最高じゃん?!

まだまだ続きます。

人間は瓶から生まれます。生まれる際は出産ではなく出瓶です。この世界では親子、父・母・家族といった関係が完全に無くなっています。それどころか、卑猥なこと、として社会でそのようなワードを口にすることすら恥ずべき事という価値観が植え付けられています。それとは逆に、フリーセックスを推奨していて、男女ともに複数の交際相手とセックスをするのが普通、特定の人と長い時間付き合うのは良くないこととされている、ある意味全員リア充な世界なのです!

そして、本作の最も狂気じみていて、かつ冷静に読むと合理的に感じなくもないこと、それが条件付けです。

本作では、人間はすべて物心つく前からあらかじめ決められた階級に最適化するよう栄養剤や酸素量を調整されて育ちます。例えば、最下層のイプシロンになると決まった子は、酸素の供給量をあえて減らし、脳の発達を制限し難しい思考ができないようにします。そのうえで、高温で過酷な環境での単純労働に耐えれるよう暑さに耐える条件付け等を施されます。これで、本人は何の疑問も不満もなく、単純労働に励むのです。

このように、人間が成長して自分の人生について考えたり選択したり、そのようなことが発生しないようになっているのです。考える、悩む、自分の理想に手が届かない、他者と比較・・・このような苦しみとおさらばし、最大多数の最大幸福を目指すのが本作の社会なのです。あ、そうそう辛いことや悲しいことがあればこの世界の人はソーマという薬(快楽物質・副作用のない麻薬)を飲んで忘れ去ります。

著者ハクスリーが描く社会、読んでいくうちにありありと想像ができてしまい背筋がゾワッとしました。と同時に僕はこうも思いました。「こんな社会が本当に実現したら、それはそれで人は幸せになるんじゃないか?」と。

病気も老いもない。誰と付き合っても良い。働くのは自分にふさわしい職業に限定される。不安や心配はソーマで忘れる・・・素晴らしい世界だと。

しかし、物語途中でこの社会と対局の存在が登場します。野人ジョンです。

野人のジョンは保護区に住む住人で、彼はまだ新世界の社会に染まっていない→つまり、家族で生活し、母親から生まれた人間です。つまり僕らの価値観を持つ人間です。保護区のジョンと、新世界のバーナードが邂逅したことにより、物語は嚙み合わない歯車を無理やり回すかのような進み方をしはじめます。

ジョンの価値観とバーナードら新世界の価値観。双方がぶつかり、物語は悲劇的な結末を迎えるのです。

読み終わった後、ぼーっと考えました。「この世界の人々は確かに悩みもなく幸せかもしれんけど、全てがレールを引かれている人生でつまらんな~」と。それに、与えられた仕事だけやって自由にセックスして、辛いことはソーマで避けるって、もうそれ人間じゃなくてもいいよね?!!と思いました。やはり人間たるもの自ら選択し、喜怒哀楽を経て人間にしかできないことをやろうぜ!

というわけで初めて読んだ『すばらしい新世界』、なかなか面白かったです。個人的には英語圏の人が言う「Oh my God!」というセリフが「Oh! my Ford!」というのはハクスリーなりのギャグと皮肉なんだろうなと思います。

*この世界では神という概念すらもひた隠し、創設者Fordに差し替えられている。

これから僕ら人類はますます不安定なフェイズに入ると思います。人々が幸せを感じるのは「安定」だと本作で言われていますが、そこはその通りだと思います。安定なくして幸せを感じるのは難しいですからね。問題は、何をどう安定させるか。

例えば人口減少が止まらないわが国日本。核家族がほとんどの現状で、生活費もどんどん上がっている中、出産・子育てのハードルはかなり上がっていると感じます。

本当になんとかしないと本作のような未来がやってくるかもしれません。

気になったフレーズ・名言(抜粋)

胎児の社会的階級が低ければ低いほど

〜中略〜

与える酸素量を減らします

フォスターくん
素晴らしい新世界 p.22

歴史などたわごとだ

素晴らしい新世界
p.49

「しかし、”みんながみんなのもの”だ。」

ムスタファ・モンドは、睡眠学習で教え込まれる標語を引用した。

 生徒たちはうなずき、力強く同意した。それは、闇の中で六万二千回以上もくりかえし叩き込まれて、反論の余地のない自明の公理として受け入れている命題だった。

すばらしい新世界 P.57

バーナードはぞくっとして、あわてて目をそらした。条件付け教育のおかげで。他人の傷を見ると、同情するより先に、気分が悪くなってしまう。バーナードにとって、病気や怪我は、汚物や奇形や老齢と同じく、たんに示唆されるだけでも、恐怖のみならず嫌悪感やむかつきを呼び覚ますものだった。

すばらしい新世界 P.191

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