こんにちは。ポメラニ・アンパンです。
新型コロナ、緊急事態宣言の解除地域が出てきましたが、まだまだ油断できない状況が続きますね。僕も絶対に感染しない、させないように、細心の注意をはらって出勤、外出しています。多分、僕の人生で最も手が綺麗なのが今!
さて、今回紹介するのはSFでは超有名な作品、『華氏451度』です。アメリカの作家レイ・ブラッドベリさんの代表作。
本が有害とみなされ、所持していると焼かれてしまう未来。焚書(本を焼く事)ディストピア作品としてあまりにも有名で、映画化もされているので知っている人も多いでしょう。
本作は、はじめはダークなんですが後半に進むにつれ、少しずつ希望を持てるような展開になります。
この本を読んだきっかけ
本作はたしかすごい!? ハヤカワ文庫の100冊フェアの小冊子を本屋さんで入手。この小冊子に載っていて気になる作品だったので購入したんです。
この時期は特にSFの、ディストピアものにハマっていたように思います。
あらすじ
本は有害だ。本は燃やせ。
書物は人に余計な知識を植え付け、生きていく上で特に必要もない事が書いてあり、それゆえ人は惑い、悩み、苦しみ、悲しむ。そんなものは、百害あって一理なし。
とある未来世界では、本は有害であり『燃やすべき対象』とされていた。
本作のタイトル『華氏451度』とは、紙が引火して燃える温度なんだって!
主人公のガイ・モンターグは、(FIREMAN)昇火士だ。昇火士とは、火をつけて本を焼却する職業を指す。職務に忠実なモンターグは、火炎放射器で本を焼く事を喜びとしていた。本が、紙が焦げ、鳥のようにページが宙を舞う様を見るのが楽しい。
いつものように地下鉄で通勤していた際、不思議な少女クラリス・マクラレンと出会う。クラリスは自らをイカレテル、と言い、モンターグに興味を持つ。モンターグもクラリスの歯に衣を着せない物言いや、自分では感じた事のない感覚に次第に心を動かされていく。
モンターグが働く昇火士達が集う詰所には、ベイティー隊長以下数人の同僚がいる。加えて、ターゲットを補足し執拗に正確に追尾できる恐ろしい機械猟犬も。
通報を受け、出動する昇火士達。現場に着いた彼らは、容赦無く家を、扉を、壁を打ち壊す。どこに隠してあるか分からない本を探すため。本を家宅捜索し、押収した書物を一箇所に集めて積む。そして、火炎放射器で火を放つ。
いつもならそれだけの事だが、この時は違った。この家の老女が残り、本は渡さないと言う。手にはマッチを持って。モンターグは動転し、老女にその場から離れるように言うが頑として聞き入れられない。ベイティー隊長は老女ごと燃やすよう言い、モンターグは最後まで渋る最中、老女は自らマッチで点火するのだ。業火の中で命を燃やす老女に、モンターグは強い衝撃を覚える。
モンターグには、家に帰ってもリラックスできない事情があった。妻ミルドレッドだ。妻はいつも耳に小型イヤホン『巻貝』を入れ、『壁』に写る映像に夢中だった。モンターグの話は心ここにあらずでしか聞いておらず、壁の中の人物が話す言葉をただ聞いている。挙句、睡眠薬を大量に飲む。そんな妻の姿を見てモンターグの心は冷え切っていた。
クラリスとの出会い、燃え崩れる老女、妻、それらの要素がモンターグの興味を書物に向かわせるのは必然だったのかもしれない。彼は、重大な違反と知りながらも現場から本をくすねては自宅に持ち帰り隠し持つようになった。
妻との関係は文字通り壁が邪魔をした。本をタブー視し、イヤホンを耳に突っ込み、家では壁に映るテレビ画面に対して大声で笑う。モンターグは心の拠り所を求め、1年前に出会った老人を思い出した。その老人は名をフェーバーという。
モンターグはフェーバーに会い、お互いに意気投合する。書物を根こそぎ焼き尽くす昇火士を、どうにかしたいと思っていたのだ。モンターグにしてみれば、この時すでに昇火士という仕事に嫌悪感を募らせていいた。彼の決意が、フェーバーを動かし、二人は共闘して昇火士の同僚ことにベイティー隊長への対抗を誓う。フェーバーが二人だけにしか聞こえない超小型通信機を独自開発しており、それをモンターグに持たせた。
その後、モンターグが家に戻ると妻ミルドレッドは女友達を家に呼び、壁から大音量を流しながら、大音量で会話していた。堪忍袋の尾が切れたモンターグは壁の電源を消し、静まりかえった空間で、口をついて出てくるのは、やり切れない気持ちから吐き出される悪態。そして、公然と詩を声に出して読むという暴挙に出る。フェーバーは通信機越しに忠告するも、モンターグには届かない。女達のうち、一人は詩に心を打たれたのか涙を流している。他の女はパーティーを台無しにされ、怒りを顕にして出て行った。ミルドレッドが睡眠薬の瓶を振る音が虚しく聞こえる。フェーバーが言う「なんと愚かな・・・」
感情的になったとはいえ、自分のした事を悔いながら、仕事場へ向かうモンターグ。だが、その足はあまりに重い。フェーバーと通信機越しに会話しながら、なんとか心を折らずに出勤する。ベイティー隊長以下同僚が待つ詰所へ。
次のスクランブルが鳴り響き、『火竜』に乗って現場へ急行する昇火士達。到着した現場は、なんとモンターグの家の前だった。そう、モンターグの家に本がある事が知られていたのだ。
昇火士という仕事に疑念を持ち、本を隠し持つようになってしまったモンターグに最大の危機が迫る。フェーバーと通信ができるとはいえ、昇火士達、もといベイティー隊長を出し抜く事ができるのか?!そして、モンターグはこの先どうなるか。
この作品の要素・成分 (最低値=1 最高値:10)
雰囲気
暗い。重い。灰色。無機質。
どのくらい先か分からないが、僕らの時代よりもっと先か、あるいはパラレルワールド的な今か。家の壁にテレビのような映像コンテンツが映し出され、ラジオ放送をイヤホンで聞く・・・。この辺りなら僕らの世界にはあるが、決定的な違いは『本』の所持を許されない社会だという事。
無機質な雰囲気の中に、炎の色がひときわ眩しく、悪魔的で凶暴な色として存在する。しかし、心変わりしてゆくモンターグとともに、次第に火の中に優しい色が見えてくる、不思議な感覚が本作にはある。
読みやすさ:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
『壁=プロジェクターのようにテレビ放送を映す』、『巻貝=超小型イヤホンラジオ』、『火竜=昇火士が乗り込む車』、『カブト虫=一般の車』、『蛇=昇火士が火をかけるためのホース』のように、独特な比喩表現が唐突に遭わられるため、面食らう。また、『機械猟犬』という架空の兵器も出てくるため、想像力を必要とする。これらが何かわかってくると俄然面白くなる。
ワクワク度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
当然の如く本を焼いていた男モンターグが、ガラッと変わっていく様がワクワクする。一方で、あらゆる書物の知識を持つ昇火士隊長ベイティーのあまりの饒舌っぷりに、思わず本好きの僕はワクワクしてしまった!
ハラハラ度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
モンターグの家に近づく機械猟犬の気配。本を隠そうとしているところへやってくるベイティー隊長。物語後半、追われる身となるモンターグ・・・。ハラハラする部分は3度ほどやってくる。
食欲増幅度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
追われる身で出会った不思議な人々。焚き火を囲み、細々と話している人々。それを物陰から見つめるモンターグ。焚き火を囲む人から渡される一杯のコーヒー。
当面の危機が回避され、おずおずと飲む一杯のコーヒー。それまでもモンターグの心境を思うと、ホッと一息。これはめちゃくちゃうまいだろうなぁ・・・と思った。
もう一つ、これも同じく焚き火の人からで、朝食に焚き火の火を使ってベーコンを焼くシーン。これも、間違いなく美味いだろうなぁ・・・と思った。お腹減った・・・。
冒険度:3 ⭐️⭐️⭐️
冒険的要素はあまりない。強いていうなら追われる身となったモンターグがひたすら逃げる辺りか。
胸キュン:2 ⭐️⭐️
恋愛的な胸キュン要素は無いなぁ。奥さんとはコミュニケーション破綻してるし、クラリスはモンターグと歳が離れているし・・・。
血湧き肉躍る:7 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
どんどん先が読みたくなる具合は、さすがレイ・ブラッドベリさん。静かなシーンでさえも、読む側としてはアドレナリン出る!
希望度:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
終盤、モンターグが出会う不思議な人達。これまでモンターグが出会ってきた人とは違い、温もりを感じる。彼らと行動を共にするモンターグ、長い道のりを歩かねばならないが、そこには虚しさや卑屈さは既に消えていた。
絶望度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
世界観としてはかなり絶望的。特に、僕らのように本が好きな人間にとっては地獄のような未来だ。古来、焚書は歴史の中でも見られたが、願わくばこのような未来が来ないことを切に願う。
残酷度:2 ⭐️⭐️
残酷な描写は少ない。
恐怖度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
どこまでも無機質に追ってくる機械猟犬は怖い。ベイティー隊長も、あらゆる書物から引用を駆使して論破してくるので、怖い。上司にいたらさぞ面倒なタイプだと思う。
ためになる:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
本を自由に入手でき、所持できるありがたみを感じられる。また、一方的に流されるテレビのようなコンテンツに流されていると、抜け殻のような人間になるよ、というレイ・ブラッドベリさんの主張が透けて見えるところもなかなか考えさせられる。
泣ける:2 ⭐️⭐️
泣くほど強烈に感情を揺さぶられる作品では無いのだけれど、ふとした瞬間思い出す作品になると思う。
ハッピーエンド:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
未来への希望が見える、良いエンディング。
誰かに語りたい:6 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
この世界に住むことになったらどうする?昇火士になったらどうする?本は本当に人を惑わすというが、どう思う?なんて話を酒を片手に語りたい。
なぞ度:4 ⭐️⭐️⭐️⭐️
一番の謎はベイティー隊長の博識っぷり。まるで辞書のように、スラスラ引用を出して論破してくるこの男。経歴など一切説明がなく謎。
静謐度:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
モンターグの虚しさ、昇火士として本を焼く時の一瞬の恍惚、妻への苛立ちと諦め、何かそういった感情が静かに、淡々と描かれている。だからこそ、後半の彼の変わりようが輝きを増す。
笑える度:1 ⭐️
笑える箇所はほとんど無い。
切ない:5 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
妻ミルドレッドに、モンターグの声が一切届いていないのが切ない。
エロス:1 ⭐️
無い。
データ
原作タイトル | FAHRENHEIT 451 |
日本語タイトル | 華氏451度 |
著者 | レイ・ブラッドベリ (Ray Bradbury) |
訳者 | 伊藤典夫 |
発行元 | 早川書房 |
コード | ISBN978-4-15-011955-3 |
まとめ
初めて読んだのは2年ほど前です。今回、ふと読みたくなり久々に読んだのでここで紹介した次第です。
うん、レイ・ブラッドベリさん良いですね!僕は、この作品の好きな所は伊藤典夫の翻訳で『昇火士』というワードそのもの。火を立ち昇らせるって、めちゃくちゃカッコイイなと。
他にも、『蛇』、『カブト虫』といったネーミング。無機質な世界観の中で、生き物の名前で呼ばれる器具、物。僕も今度言ってみようかな。
へい彼女! 僕のカブト虫に乗らないかい?
・・・・・・。
間違いなくシカトされるか、下手すりゃ通報されますね!
それはそうとこの作品、現在に生きる僕達への警告とアドバイス的な内容も含んでいます。例えば、僕達は、出勤し、仕事し、空き時間にはスマホ、飲み会・・・・24時間という限られた時間が、まるでざるに開いた穴を埋めるが如く時間を埋めています。
それは決して良いことではなく、人間にはじっくりと何かを考える時間が必要。それが無いと、抜け殻のような人間になる、そう解釈できます。加えて、本には、何か物事を考えるように働きかける事が書かれている、レイ・ブラッドベリさんはそう言いたかったのではないでしょうか。
という事で、せっかく堂々と本を読めるこの時代・・・
ますますいろんな本を読もうと思いました!
気になったフレーズ・名言(抜粋)
遠いむかし、ファイアマンっていうと、火をつけるんじゃなくて火を消すのが仕事だったんですって。そんなこと聴いたけど、ほんとうなの?
クラリス・マクラレン
華氏451度 p.18
この十年ぼくが使ってきたケロシンのことを考えたよ。それから本のことも考えてみた。そこではじめて本のうしろには、かならず人間がいるって気がついたんだ。本を書くためには、ものを考えなくちゃならない。考えたことを紙に書き写すには長い時間がかかる。ところが、ぼくはいままでそんなことはぜんぜん考えていなかった。
モンターグ
華氏451度 p.88
国民には記憶力コンテストでもあてがっておけばいい。ポップスの歌詞だの、州都の名前だの、アイオワの去年のトウモロコシの収穫量だのをどれだけ覚えているか、競わせておけばいいんだ。不燃焼のデータをめいっぱい詰めこんでやれ、もう満腹だと感じるまで”事実”をぎっしり詰めこんでやれ。ただし国民が、自分はなんと輝かしい情報収集能力を持っていることか、と感じるような事実を詰めこむんだ。そうしておけば、みんな、自分の頭で考えているような気になる。動かなくても、動いているような感覚が得られる。それでみんなしあわせになれる。なぜかというと、そういうたぐいの事実は変化しないからだ。
ベイティー
華氏451度 p.103
仕事をしていない、暇な時間ならたしかに。しかし考える時間はどうかな?時速百マイル、危機以外のことは考えられない速度で走らせておるのでなければ、ゲームに興じているか、一方的に話すだけのテレビに四面を囲まれた部屋にすわりこんでおる。ちがうかね?テレビは”現実”だ。即時性があり、ひろがりもある。あれを考えろ、これを考えろと指図して、がなりたてる 。それは正しいにちがいない、と思ってしまう。とても正しい気がしてくる。あまりに素早く結論に持ちこんでしまうので、”なにをばかな”と反論するひまもない。
フェーバー
華氏451度 p.140
火がこんな風にみえることを、彼ははじめて知った。火が、奪うだけでなく与えることもできるとは、これまで考えたこともなかった。その匂いさえ、これまでとは違っていた。
華氏451度
p.242
人は死ぬとき、なにかを残していかなければならない、と祖父はいっていた。子どもでも、本でも、絵でも、家でも、自作の塀でも、手づくりの靴でもいい。草花を植えた庭でもいい。なにか、死んだときに魂の行き場所になるような、なんらかのかたちで手をかけたものを残すのだ。そうすれば、誰かがお前が植えた樹や花を見れば、お前はそこにいることになる。
グレンジャー
華氏451度 p.261
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